06 追放されたポーター、ポーターギルドの初仕事 その2
主人公:ヒロ
━━━━━━━━━━━━━━━
- 翌朝…胸焼けで働けま…え?…腹ごなしに働け? -
「お早うございます…」
昨夜、晩飯を食い過ぎて朝から胸焼けで調子の悪いヒロ。今日は昼まで休んで仕事は午後イチからで…と思っていたのだが…
「長年…つっても僅か数年だけど…体に染みついた行動パターンって奴わ…」
つい、パーティに所属していた頃の習慣で早い時間に目が覚めてしまい、起きてから後悔していたヒロだった(苦笑)
「しょうがねぇ…顔洗ってから何か仕事無いか聞いてみるか…」
偶々か使ってる他のギルド員は居なかったので快適に就寝できたのだが…仮眠室を出て、共用の井戸に向かい、先ずは顔を洗ってうがいをする。
※周辺の住宅地の住人との共用なので丁重に扱う必要がある。一度汲んでみたら結構冷たいし美味しかったので誰も居なかったら
(濁りも無いしそのままでも十分、飲料水としても使えるな…)
だが、まぁ…飲料水として持ち歩くなら一旦沸かしてからだなと思い直し、後でどうするか考えようと思い井戸を離れる。いや、近所の住民である奥様方が集まって来たのでアイテムボックスを使ってるのを見られるのもどうかなと思った訳だが…
・
・
「お早う御座います」
「あら、早いのね?」
受付にはローズさんが座っていた。結構早起きなんだなと思いつつ挨拶した。
「もうお仕事始めるの?」
と幾つか依頼表を選び始めるローズ。
「いや、昨夜食べ過ぎちゃってね…もう暫く休んで昼を食べてから始めようかと…」
「じゃあ腹ごなしにこんなのはどう?」
と、こちらの話しを聞いちゃいないのか、何枚か仕事の依頼票を見せてくる…
「だから、食べ過ぎで胸焼けがするから休もうかなって…」
「うん。だから腹ごなしにこんなのはどう?」
誰か話しを聞いて下さいよ…と涙目になりつつ、数枚の依頼票から選べ!…と、押し付けられるのだった…orz
- よく見ると、3枚共同じ送り先じゃねーかって話 -
「はぁ…えーっと…」
朝っぱらから胃がムカツク…と思いつつ、依頼票を見ると。
「あの、これ…」
と見上げると、ローズは
「ん?なに??」
とでもいいたそうにニコニコしていた。
再び視線を依頼票に向けると…
※要特急便
という注意事項が…
「あの、これ…」
と、再び質問なんですが?…という意味で訊き直すと、
「うん。急ぎなの…お願いできるかな?」
と、おざなりなお願いポーズを決めるローズ女史…こいつわかっててやってるな?
「今、何時か知ってます?」
「そうね…朝方の5時前かしら?」
「…このギルドの始業時刻は?」
「そうね…早い人は6時くらいには顔を出すわね?」
「いえ…ギルドの、です」
「7時くらいかしら?」
「決まってないんですか?」
「家族経営でギリギリだからねぇ~…規則はあってないようなものよ?」
「…」
ダメだ話しになんねぇ…とヒロは頭をガシガシと掻く…
「では…これですが、同じ村が届け先なんですが」
「あ、うん。量が量だから…3台の荷馬車に分けてるのよ。今日の昼までなんだけど大丈夫かな?」
俺が請ける前提で話しが進んでるんですが…昼までって後7時間しかねーんだが俺の足で間に合うのか?…まぁアイテムボックスに収納にはそれ程時間は掛かんないけど…全部用意されてればな?
・
・
結局、他に誰も請ける人が居ないってのと手が空いているのが俺だけというのもあるが…急ぎの仕事なのでそこそこ報酬も良かったので請けることに…手持ちの金もあんま無いしな?
「え、ではヒロさん。これ、お願いします」
という訳でローズさんに案内されたいつもの裏庭には二羽鶏が…じゃなくて。
「これ…本当に荷馬車3台分…ですか?」
「えぇ…まぁ…多過ぎますかね?」
どう見ても…4台分くらいはあるよね?
「多分…実際に積み込めばわかると思う」
という訳で、実際にどれくらいあるのか1台だけあったので1台分積んでは降ろし…を繰り返してみせた(実際には荷馬車に登って少しづつ出して積み上げて…また卸してを繰り返して何台分あるか数える訳なんだが…)
1台目…2台目…3台目…
(やっぱり多いな)
一応、用意された幌ギリギリまで積み上げたんだが…それでも余る。
4台目…5台目…おいおい。
幌無し荷馬車でも超過積載だろ、これ?
「あの…幌無しで運んだとしても…多過ぎじゃないですかねぇ?」
「あは、あはははは…ですよねぇ~…ハァ」
(ハァ…じゃねーよ)
荷馬車で運んだらちょっと揺れただけで荷崩れして荷が傷んで…報酬減らされてたぞ、これ?
「まぁ…無茶な仕事は請けない方がいいと思う。赤字経営したいなら止めはしねーけど…」
と、忠告という訳じゃないが過積載で困るのは
・
・
「じゃ、じゃあお願いしますね?」
「あぁ…追加報酬要求しなくていいのか?」
「えっと…まぁ…こちらのミスですので…あ、勿論ヒロさんの責任で交渉しても構いませんけど…」
「…わかった」
アイテムボックスに全てを収納し直してここまで30分。まだ午前5時を過ぎて少し経ったくらいだ。朝飯はどうしようかな…と考えていると、
「あの…これ…お弁当です」
と、弁当を詰めたであろう木製の紐で結わえた箱をおずおずと差し出しているローズ女史が居た。
「これを…俺に?」
「あ、はい…その…面倒を押し付けてしまい、せめてもの…」
というのだが…そう思うなら最初から押し付けないで欲しいものだが…まぁヤバい案件を押し付けたという自覚を持ったのだろう。少しは成長したかな?…と考え直し、
「わかった。有難く頂くよ」
と受け取ってアイテムボックスに収納した。ちなみに食器…スプーンとかフォークは自前のがあるので弁当箱だけ受け取った。弁当箱は後で洗って返せばいいだろうしな…
「では行ってくるよ…えーと」
依頼表を3枚見比べて改めて目的地の村の名前を確認する。
「ムリャ・ナン・ダィ…か」
まるで無理難題の依頼を出すのが当たり前な村名だなと思いつつ…ヒロは歩き出すのだった。
- 6時間で着くかどうか…それが問題だ -
取り敢えず共用の井戸まで向かい、道中飲む為の水を補充する。そして…
(何かあった時の為にもう少し欲しいな…)
キョロキョロと周囲を見回し、井戸の底を見て…
(何とか届くかな?)
と、井戸水をアイテムボックスに収納するヒロ。
(一気に吸い込むとアレだし…少しづつ少しづつ…)
…と、結局10分くらいの時間を掛けて、井戸水が枯渇しない程度にペースを抑えて…500kgくらいの井戸水を収納したのだった。容量でいえば500リッターだ。道中の飲料水を確保したという量にしては必要十分どころか過剰とは思うが…暫く井戸の水の出が悪いという噂を聞いてバレたらどーしようとビクビクするのはまた別の話だ…(苦笑)
・
・
「さて…添付されてた地図に依れば…」
ギルドのある場所からダスティーの町の外に出て…
「ムリャ・ナン・ダィはこっちか…」
と、次の町へ向かう側の街道に出た後、南へ続く道…街道とは違い、やや細い、馬車がギリギリ通れるくらいの未舗装の砂利や小石が多めの脇道に入る。石畳を舗装するよりはマシだろうと砂利を敷いているんだろうけど、長年人や馬車の車輪で弾き飛ばされて、全然整備してないので余計歩き辛くなってるような…そんな感じの脇道となっていた。
「こんな脇道を6時間でダスティーから馬車5台分の荷を3台で運ぶとか…これ多分間に合わないだろ?」
「普通に歩くと…成人男性で3時間といっていたしな…」
それも、一般人じゃなくて冒険者が普通に狩りに行く装備で行く場合だ。
報酬を見たら、どう見ても高ランクの
安全を見込んで荷馬車5台を借りられたら大丈夫だろうけど…その場合も矢張り足が出る。自前で5台も荷馬車と荷馬を持っている
「ハァ…」
この村の名前からしても、無理なことさせて慰謝料目当てなんじゃないか?…と疑心暗鬼になりつつも、砂利道を走るヒロ。
だが、いちいち普通に走ってると足を取られる為…ぴょんぴょんとジャンプしつつ走る。滞空時間が長ければ長い程、足を取られずに楽ができるので長距離を飛び越していく…
ずざざーっ!
「ふぅ…」
地図を開いて現在位置を確認する。
(…丁度中間くらいか?)
周囲は草原みたいで開けている。
後ろを見れば今まで歩いて…跳んで来た道が延々と続いている。
前を見れば…草原というか平原?…の先に集落らしき影が見える。
(…まぁ普通に考えるならあれが「ムリャ・ナン・ダィ」か…)
一応「村」と呼ばれているが、ここから見えるそれは「集落」っぽい。
「まぁいいや…見えてるなら1時間くらいで着くだろ」
そう思って動こうとした途端、
「待て。荷を全部置いてって貰おうか?」
と、待ったが掛かるが…ヒロは無視して歩き出し…
「だが断る!」
…とでもいうようにググっと腰を沈め、
「ちょまっ!?」
華麗に静止を振り切って跳んだ。制止しようとした人物はヒロを捕まえようとして…捕まえられずに道に倒れ込んだ!
「くそ…まさかアイテムボックスの持ち主が請けるとはな…」
その人物は拳を握りしめ…急ぎ立ち上がると走り出すのだった。追いつけられないとは夢にも思わずに…
・
・
ひゅるるる………どざざ~~~っっっ!!!
「はぁ…びっくりした」
いきなり殺意を向けられれば誰でもびっくりするだろう…。ましてやいきなり傍で話し掛けられつつ殺意を飛ばされたのだ…思わずダッシュで逃げ出すのも無理はない。
「…あ~…誰だったんだろうな…あれ」
この村に荷が届くと困る悪者か…それとも?
「まぁ考えてもしゃーないか…」
という訳で「ムリャ・ナン・ダィ」村?…へと歩く。ヒロはそれから10分程で到着し…驚く村民?に迎えられるのであった…実に、その時刻は午前8時46分であった…
・
・
「あ~…じゃあこれ」
荷は全て村の倉庫へ仕舞い込んだ。
最初は
「きちんと過不足ないか確認したい」
といわれ…仕方なく全て板を敷いた村の広場へと出し、確認して貰ってから急ぎ収納してから案内された倉庫へと仕舞ったのだ。
「はぁ…疲れた」
ようやく完了したので依頼表にサインを貰う。現時刻は11時55分…かなりのギリギリであった。何しろ、依頼票には
「12時までに作業完了しない場合は完了サインはしない」
と小さく書かれていたのだ…
(闇金の契約書かよ)
…と思った。いや、そんな危ない闇金融なんぞ使ったことはないけどな?
もし、そんなご無体な依頼だったら普通は請けないよな?…うちのギルドってそんなギリギリなのかねぇ…
取り敢えず、作業を完遂したので報酬を貰うことに。今回の輸送依頼は時間までに運ぶだけではなく、荷の確認と指定の倉庫に運び込むまでがセットだ。
「あのぉ~…」
「おお!もう終わったのかね?」
「えぇ、まぁ…」
「では依頼票を…」
「その前に…ちょっといいですかねぇ?」
そこまで話した時点で村長の顔が豹変する。えっとぉ…やっぱ一悶着ありそうだな…
「では、ここじゃ何ですからうちまで…いえ、すぐそこですから」
と、何もいってないのに無言で案内される。あれー?…これって付いてったらヤバイ案件?
・
・
「こちらです…」
見れば集落に近い規模の村なのに、ご立派な村長宅…まぁ、平屋建てだけどよくあるくたびれた…という感じではない。数年前に建て替えたって程度だが…
「へぇ…立派なお宅ですね?」
「は?…まぁ、数年前に建て替えましたでな…」
宿住まいでパーティを追い出された身なので家なんぞ持ったことのないヒロには羨ましい限りだ。
そして中に案内されて落ち着いた時に話しを持ち掛ける。
「そうですか…積載過多と…」
「はい。荷馬車3台と聞いてましたが、実際に荷馬車に積んで見ましたら…」
荷馬車5台相当の荷を運んで来たと話す。事実、指定された倉庫には荷馬車5台分の容積があり、そこにギリギリだったのだ。
「今回は全ての荷が無事で…確かにいつもより多く無事に届きました…」
隣で控えていた奥さんと思える女性が依頼票を確認して話す。
だが…この話し方を聞いていておかしく思わないだろうか?
【
では前回は?…その前は?
ヒロは不審に思って問う。
「今回は全ての荷が無事…と仰られてますが、以前はどうだったのですか?」
「そりゃあ…」
「あなた!」
「…おっと、不味い」
益々怪しい…と思ったが余り突っ込んだ所で益は無い為、報酬が割に合わないので追加報酬…というよりは正規の報酬を貰えるように交渉することとする。
何しろ、ギルドとしては依頼をギルド員に渡す為の中間手数料を貰っておけば損は無く、実際に割を食うのは
(恐らく、今までも多過ぎる荷を送り届けたはいいが、無事な荷の輸送料しか貰えなかったんだろうな…ハァ…不良案件って奴か)
途中で邪魔しようとした人間が居たが…あれは荷崩れを起こしてなかった際の保険だろう。手が込んでいるというか…
…という訳で、無事に送り届けた荷の輸送料と、時間まで(それも特急料金だ)に届けた時の増額報酬を合わせて…正当な報酬として受け取った。
通常なら安全を考えて10時間は見ておくし、半日を掛けて荷馬車5台の量を輸送する料金としては…
(まぁ銀貨5枚くらいが妥当か?)
荷馬車1台分で銀貨1枚(道が悪路の為、荷の安全を考えればそれくらいが妥当だろう…)
加えてギルドの始業時刻が朝の7時。昼の12時までの5時間で…つまり悪路を超特急で…となると
(荷馬車1台で銀貨5枚×5台で銀貨25枚は必須だろう?)
無論、道中なにも無い場合の輸送料金だ…駄菓子菓子。邪魔をする者が居た…ということは荷を狙う盗賊が居たと考えると…
(プラス銀貨5枚って所か?…護衛の冒険者が必要な案件だったってことだからな)
そう暗算したヒロは用意していた低品質紙にサラサラと書き出し、今回の経費を請求することとした。勿論、同じ内容を別途書き出しておく…こちらはギルドに報告するのに必要な為だ。そこに記された請求金額は銀貨30枚だ…
「なっ…そんなに払う金は…」
「いつもは銀貨3枚で済んだのに…」
「いや、それは荷がダメになったからでしょう?」
恐らく荷馬車3台分くらいまで減ったせいでダメになってない分の輸送料に値切っていたんだろう。だが、ダメになった荷も含んだ荷の料金はどうしたんだろうか?
「ひょっとしてですが…」
「はい?」
「
「………」
「はぁ…」
黙っている村長夫妻の態度で、
(…払わせてたんだな)
…と、ヒロは判断した。
「取り敢えず…俺はきちんと全てを無傷で持ってきましたし時間までにいわれた通りに倉庫に納入までしました…請求に問題は無い筈です」
「「…っ」」
未だに夫妻は黙っている。そして現れる殺気!
「死ねやおらぁっ!」
頭に振り下ろされる凶器!…だが、慌てず騒がず…
「なっ!?」
「俺の獲物を何処にやりやがったっ!?」
騒ぐ青年。誰?…こいつ。
「やめんかっ!」
「だ、だけどよぉ…」
「この人はあんたじゃ敵わないわよ…」
村長の知り合い…だろうな。この気安い間柄を見る限り…
「…ハァ。盗賊って村長の…子?」
「いや、わしらにゃ子は居ない」
「村の端っこに住む元孤児のコジよ」
孤児だからコジって…安易っつーか。
「それよか…俺襲われたんだけど?…こいつギルドに連行していいよな?」
何となくゆるゆるな雰囲気になったが、普通にまともに頭に当たってたら大怪我を負う案件だ。だが、コジはというと…
「ええっ!?…俺捕まっちゃうのっ!?」
と、自分のやったことの大きさを余り理解してないようだった…これだから元孤児は頭悪くて困るんだよな…ハァ。
━━━━━━━━━━━━━━━
ヒロ「じゃあ、俺がやられたことをやり返してチャラってことでもいいんだぜ?」
コジ「やだよ…すごく痛くて大怪我するじゃないかっ!?」
ヒロ「…そこまでわかってて大怪我させようとしてたのかよ…」
コジ「だって村長がやれって…」
村長「なっ!?」
ヒロ「ハイ!村長もダウト!!」
…という訳で、芋づる式に村の数人が今までやってた悪事を暴き…急ぎ応援を呼ぶことに…
※緊急時の連絡用の水晶を使いました…使い捨ての高額品なのに(銀貨30枚を払って貰っても足出るのよ…orz)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます