05 追放されたポーター、ポーターギルドの初仕事 その1
主人公:ヒロ
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- 身辺調査とか色々 -
「…調べて来たぞぉ~」
「「「どうだった?」」」
「…うぜえ、散れ!」
冒険者ギルドに調べ物をしてきたギルド職員が怒鳴り、その圧にも屈せずにその手に持っていた書類の束を強奪するギルド職員。だが…
びりびりびり・・・
「ぉぃぉぃ…」
「破いてどうするよ!?」
…という訳で、思わず強引に奪おうとして割けてしまった書類の修繕作業に入るアホどもであった(苦笑)
・
・
「これでいいか…」
破けて読めなくなった部分は怪しいが、取り敢えず主要な部分は読めるようになったので冒険毎のデータを読み漁るギルド職員たち。
「…やっぱおかしいと思わないか?」
「あぁ…並みのアイテムボックスじゃねーよな、これ…」
「ん?…ちょっと待て。ここ…」
「「「何だ?」」」
「ついこの前の記録だな…」
「アイテムボックス(袋型)を強奪?」
「で?…そのアイテムボックスが機能消失だぁ?」
「まぁ…所有者から余り離しておくとそーなる縛りの魔導具はあるそうだが…」
「「「…」」」
「じゃあ何か?…あの新人君は今…アイテムボックスを所持してないって話しになるんだが…」
「でも、固有魔導具所持欄には明記してあったよな?」
「「「ふむ…」」」
暫く考え込み、ギルド職員たちは…ヒロへの指名依頼をでっち上げると翌日、アイテムボックスが無ければ無理な量の荷運びの仕事を依頼するのだった…
- 翌日 -
「じゃあ、これを明日までに隣村に運べばいいんですね?」
「あぁ…急な依頼で済まないが頼んだ」
という訳で、急遽裏庭に積み上げられた様々な道具やら商品を運んでくれと頼まれたのだが…(ちなみに帰って来る時は、向こうの生産物を持って来いといわれている)
「わかりました」
ヒロはそう返すと、ナップザックを肩から下ろして積まれている荷物に口を当ててどんどん収納していく。
(おお…これは確かにアイテムボックスだな…ではあれに書かれていたことは…間違いなのか?)
見物していたギルド職員はぶつぶつと呟きながら収納作業を眺めていた。
・
・
「では、行ってきます」
「あ、あぁ…気を付けてな?」
片手を振って見送るギルド職員。ヒロがギルドの正面出口を出て行った後…他のメンツが集まって来る。
「どうだった?」
「って、これを見れば本物ってことはわかったが…」
「まさか全部収納してったのか?」
ヒロのアイテムボックスの性能がいまいち把握できなかった為、本来なら荷馬車1台に積む量の…実に3倍を積んでいたのだ。
「あぁ…まさか全部持って行くとは思わなかったが…」
「荷馬車3台分だろ?…とんでもない新人だな…」
「まぁ…あの書類にはそれだけの荷物をぶちまけたって書かれてたからな…ギリギリだろうがそれが最大収容可能ということだろ」
「え?…そのアイテムボックスはもう昨日喪失したんじゃないのか?」
「「「…ということは」」」
3人は相当な量を収容可能なアイテムボックスを、実は2つ持ってたのだろうと納得するのだった。真実は違うのだが…ヒロにとっては有難い勘違いだった…
- 隣村「ワドビレ」 -
「…ふぅ。ようやく着いたな」
整備された街道を歩くこと半日。歩きながら昼飯を携帯食と水で済ませて到着したのは朝から歩き通しの後…もうすぐ夕焼けで空が赤くなる頃合いだった。初めて歩く道程だった為、借りた地図を確認しながらでは思ったより時間は掛かったのだった。
「誰か村人は居ないかな?…あ、居た居た…すいませーん!」
声を上げながら見えた姿に歩み寄るヒロ。そしてこちらに気付いた村人1号さんが
「なんじゃ?」
と訊き返してくる。
・
・
「ほお!…ダスティーの
何処にも荷馬車が見掛けない為、村人1号さんはきょろきょろと見回しながら質問する。
「えと…持って来てはいるんですが…此処に出しちゃ不味いんじゃないですか?」
現在位置は往来のど真ん中だ。荷物を置くと通行の邪魔になるし、下に保護材の板もない。直接置いてしまうと荷が傷む可能性があるのでそういったのだが…
「ふむ、それも道理だの。じゃあ付いて来なされ」
…と村人1号さんの案内の下、ヒロは村の奥へと歩き出すのだった…
・
・
「じゃあここになら大丈夫じゃろう?」
案内されたのは倉庫として使われている小屋だ。中に入ると木の床で荷物を置いても良さそうだ。
「そうですね。では…」
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
「…え?」
ごしごしと目を開けたまま擦り、痛がる村人1号。苦笑いしながらヒロは限界まで倉庫の中に荷を出し続けるが…
「いやちょっと待ってくれ…それでは取り出すのが大変になる!」
倉庫の中にミチミチに詰まった荷を見て、
「あ~…」
取り敢えず、人が入って荷を持って出られる程度の余裕を持たせるまでアイテムボックスに仕舞い直す。倉庫に馬車1台分を残し、2台分をアイテムボックスに戻すが…
「あと、荷馬車2台分程あるんですが…」
「はぁ?…いつもは1台分だけなんじゃが…」
お互い目と目を合わせてどうしたもんか…と溜息を吐いていると。
「どうしたんじゃ?」
…と、少し身なりが立派な老人が現れる。
「村長!…実は………」
と、かくかくしかじかと説明が入る(実際にそういって説明した訳じゃないけども)
「ふむ…ならこちらに来なされ」
村長に案内されるヒロ。倉庫の方は村人1号が整理するようだ。結局名前を教えて貰ってないが…
・
・
「ここに残りを出してくれるかの?」
案内された場所は村長の住居らしき周囲の建物よりは立派な作りの建物…の離れだ。そこは先程の倉庫より大き目の建物で、中に入ってみると同様の作り…倉庫然としていた。
「あ~…此処に入れればいいんですか?」
「その前にだな…中身を持ってってくれんか?」
「はぁ…」
見れば、この村の収穫物というか生産された作物が詰まれていた。丁度荷馬車1台分くらいだ…
「わかりました」
取り敢えず納品書を書いて貰い、全部を収納して今収納した生産物のリストと見比べる。
「…はい、確かに。じゃあ、今回持って来た定期便の荷の表です」
歩きながら書き出したアイテムボックスの内容物だ。個人的なアイテムは別にしているので今朝突っ込んだ内容のリストだけを書き出した訳だ。
「うむ…確かに。では、残りを出して貰おうか?」
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
あっというまに埋め尽くされる村長の倉庫。村の共同倉庫と違い、まだ余裕はあるようだ。
「…」
村長は何かを考えているようだが、黙ったまま母屋に向かうので…仕方なくヒロは倉庫のドアを閉めて追いかける。
・
・
「…」
「あの?」
「…」
応接室らしい部屋に案内され無言の時間が続き…ヒロは何で黙ってるのかと問うがまだ黙っている村長。
「…だ」
「はい?」
「…いや…その…。荷馬車3台分も支払える蓄えは…無いんだ」
「はぁ…」
「いつもはな…村から荷馬車1台分の作物との交換しかやってないんだ…」
「そうですか」
「だから…すまないが、待って貰えないだろうか?」
「何をですか?」
「だから…その…お代か…交換分の作物の準備…をだな…」
「なら、荷馬車2台分は持ち帰りましょうか?」
「え…いいのか?」
「えぇ…持って行けといわれたので運んで来ただけですので。こちらで受け入れられないというのであれば…持ち帰るのは
普通なら荷馬車3台使って運んで来て、それを持ち帰れというならば…2台分の荷馬車と馬と御者のコストが余分に掛かる。故に持ち帰れといえばいい顔をされないのだ。
だが、今回は話しが違う…コストはヒロの体力と往復の飯代くらいだろう。来るときは慎重に迷わないように歩いて来たが、帰りは走って帰ればいい…急げば門が閉じる時間にギリギリ間に合うだろう…
「それじゃすまないが…持ち帰ってくれんか?」
「…わかりました」
その代わりといっては何だが、
(銅貨5枚か…)
ダスティーで1泊すればすぐ消えるが、今夜の宿代が浮くと思えば足取りも軽くなるってものだ。
「他に何か伝言はありますか?」
いきなり荷馬車3台分も寄越してきたのだから、何かいいたいこともあるだろうと思い訊いてみたのだが…
「あ~…そうじゃな。「定期便の荷を増やすなら事前に報せてくれ」と伝えてくれんかのう?…こちらにも準備があるでな…」
と返す村長。それは尤もな話だ。
「わかりました。今回、初仕事でロクな説明も受けないでこちらに来てしまいましたが…それも含めて申し訳ありませんでした」
ぺこりと頭を下げてヒロは謝罪すると、
「いやいや…頭を上げて下され。先程、少しだけ荷を調べてみたがの?」
「…はい」
「全然傷付いてなかったからの…また頼めたら頼みたい所じゃよ…」
微笑みながら村長は感謝するといってくれた。定期便には食料は少なめだがこの村では生産ができないのだろう…
(まぁ…俺の
ちなみに1台分の荷には乳製品や調味料は含まれていたが、2~3台目の荷には食材などは含まれてなかった。恐らく急ぎではない荷がメインだったんだろう…
「じゃ、俺はこれで」
「泊まっていかれるのではないのか?」
「大丈夫です。俺、足が早いので!…では」
ヒロは村長の声に足を止めず、軽く会釈をして村長宅を出てワドビレをも出る。そして…村から離れて
「そろそろいいかな?」
…と、早歩きから全速力に切り替える…それこそ、
「うぎゃあああ…」
「あれ?…誰か後ろに居たか?」
悲鳴はあっという間に後方へと置き去りにされ、すぐに聞こえなくなる。
「…気のせいか?」
後日、這う這うの体で帰還した
-
「ちょっと待ったぁ~っ!?」
門を閉められるギリギリの時刻に間に合い、ぜーはーと息急き切ったヒロが門番に待った!を掛ける。
「…時間は守ってくれよ?」
「…も、申し訳…ない…」
ギルドカードを示し、少しだけ空いてる門扉を抜けるヒロ。門番は通過を確認すると門扉を閉め、通用門を通って来る。
夜の時間帯は魔物たちが狂暴となり、外の世界は弱者たる人間には厳しい。少し賑わってる町とはいえ、中の人間たちは大抵は自宅に引き籠り、夜に活動するのは酒を求めて酒場に集まってくる冒険者くらいのものだ。無論、酒場で働く者は夕刻から営業を開始するので店を閉める深夜までは開店しているのだが…
「さて…
まだ1回しか訪れてない冒険者ギルドへと足を運ぶヒロ。まだ明るい時に訪れたきりだし、その時は人に連れられてのことだったのでうろ覚えなのだ。だが、明かりがついてるのは深夜営業の酒場とギルド関連の建物だけなので探すのは容易だった…
・
・
「良かった。まだ開いていてくれたか…」
歩き回った結果、数軒の酒場を渡り歩いたヒロは
ドアを開け、中に入ると…何やら賑やかというよりは騒々しかった。
「ん?…この町の
そして受付カウンターに歩み寄り、
「隣村「ワドビレ」に荷物を運び終えたので報告に…あ、これ納品書です」
受付のおっさんが納品書を見て怪訝な顔をする。
「これ…今日の昼出発じゃないか?」
「そうですね」
「…で、今時分のお帰りか?」
「そうですね…あ、そうそう。ワドビレの村長からの伝言です」
「なんだ?」
「えと…「定期便の荷を増やす時は事前に教えて欲しい」…とのことです。荷馬車1台分しか用意してなかったからだと思いますが…」
そこで区切り、息を吸い直して
「だもんで、持ってった荷馬車2台分は持ち帰りました。裏庭か倉庫に出して置けばいいですか?」
「…は?」
今まで騒がしかった周囲も、
ざわ...
と、時が止まったかのように静まり返り、そしてざわつき始める。
「あれが…」
「アイテムボックス持ち…」
「うちのチームに来ないかな…」
「荷馬車の管理から解放されるのに…」
…と、ひそひそ声が聞こえてくる。いや、本人たちは聞こえないように話してるつもりなんだろうが…
(普段から大声で喋ってると、声量の調整って大雑把になるんだよな…)
耳もバカになるから大声じゃないと通らないという弊害もあるんだろう。中には色目を使っている女性もいるが…こういう所の女性は力が第一で筋骨逞しいので…ヒロのお眼鏡に叶う人は居なかったとだけ…(苦笑)
「…確認した。裏の倉庫へ来て欲しいそうだ」
「わかりました。で、報酬は?」
「は?…村で貰わなかったのか?」
「え?…定期便の報酬ってこんなに安いんですか?」
と、まだ食べてない携帯食料1袋(アイテムボックスには仕舞ってなかった。体温で温めれば携帯食料といえど美味しくなるかもと期待してだが…)と銅貨5枚を懐から取り出してカウンターへと広げるヒロ。
「は?…これ、本当に村で貰った報酬なのか?」
「えぇ…それも、今回早く送り届けたからと頂いた追加報酬みたいなものだっていってましたが…」
「あんのクソオヤジ…わかった。ギルドで建て替えといてやるから…ほれ!」
と、銀貨3枚をカウンターへと投げてよこすと、受付のおっさんは裏へと引っ込み何やら怒鳴り散らしていた…俺は転がり落ちそうな銀貨3枚を慌てて拾い、先の袋と銅貨も懐へ仕舞う。
「…まぁ、最初の新人でもできる仕事だもんな…」
と、銀貨3枚を有難く頂戴するヒロだった。尚、馬車はギルドで用意して運用するのだが賃貸料が発生する。御者ができなければ御者も雇わなくてはならない。そうすると報酬の銀貨も然して残らない…馬車のグレードと御者の人選にも依るが、最低グレードでも銀貨1枚残れば御の字だろう。それでも、宿に泊まっても銅貨数10枚は残る…道中、被害に遭わなければ、だが…
-
「…お、戻って来たか」
「本当にワドビレに行って来たのか?」
「怪しいものだな…」
出発時に居た3兄弟なおっさんたちが居た。勿論印象からだが本当に兄弟だったら笑い転げる自信はある。
「じゃ、此処に出してくれ」
「はい」
裏庭の倉庫の中。村から持ち帰った生産物を出せといってると判断し、背負ったナップザックから出すように見せ掛けて
(うっかり、
どうせ見たことがない人ならアイテムボックスとはそういうもんだろうと思い込む。いちいち説明する義理も無いし、面倒だったので放置して来てしまったのだ。
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
まずは持ち帰ったワドビレ村の生産物を取り出して置く。そして納品書の写しを1人に手渡す。
「これが納品書の写しです。確認お願いします」
「おう…どれ」
確認して貰ってる間、空いてる場所に持ち帰った荷を置きまくる。
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
ひゅっ…どさっ
「な…それは!?」
「おいおいおい、何で持ち帰った?」
待機している2人が驚いていたので説明するヒロ。
「荷馬車3台分の定期便の荷を渡されたのですが…」
と、交換品が1台分しかないので持って帰って欲しいといわれたと説明するヒロ。どうせ放置していても痛むような食料品や調味料の類は2台目、3台目の荷には含まれてなかったしいいだろうというのもある。
「いや、それはそうだが…」
「おい、やばいぞ?…これがバレたら…」
と、いい淀み、そしてヒソヒソと内緒話をするギルド職員のおっさんたちだったが…
「何がバレたらヤバイんだ?…あぁっ!?」
と、偉そうなおっさんが現れた。
「げぇっ…ギルマスぅっ!?」
一応、親族以外でも経営してるんだな…と今更ながら再認識するヒロ。ギルマスは昨日見た、あのローズって受付嬢の父親だ。
「ヒロだったか?…ご苦労だったな。宿は…この時間だと無理だろう。おい!」
「あ、はい…何でしょう、ギルマス?」
「仮眠室の使用許可を取っておけ」
「え…この新人に使わせるんですか?」
「当たり前だろう?…あ~、飯は食ったか?」
「あ、いえ、まだですが…」
「なら、食堂がまだ開いてる筈だ。俺の奢りだから何でも食っていいぞ?」
「あ…有難う御座います!」
「うむ…じゃあまたな?…さて?…お前らは俺に報告忘れてることがあるよな?」
「「「ひいいっ!?」」」
…という訳で、おっさん3兄弟はポーターギルマスにこってりと絞られる羽目に…勿論、物理的にではなく精神的にだがw
そしてヒロはギルマスの奢り!…という訳で、食べたことのない肉類をたっぷりと食べ…食べ過ぎたせいで、翌日胃もたれで1日苦しんでたそうだ…ナニヤッテンダカw
━━━━━━━━━━━━━━━
ジョウドのパーティに居る間は、主食が黒パン(防御力1相当)と水(最低品質)だったので、お肉にありつけるのはパーティ所属する前以来という…そら野良犬の如く…ですな(苦笑)
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