02 追放されたポーター、少女を助ける。2

主人公:ヒロ    運搬者ポーター。性格も見た目もふつう。少女の目には異常に映る

冒険者:サンディ  フォレストウルフに追われていた少女。ヒロに助けられる

━━━━━━━━━━━━━━━


- 翌日 -


「んん…」


洞穴の丸太の壁の隙間から入って来た朝日に刺激されて目を覚ますヒロ。


「朝…か」


念の為、人が1人入れる程度に隙間を開けたけどまた狼たちが集まらないとも限らない為、中に入った後に丸太を再び出して隙間を埋めた…けど、即席の壁の為にどうしても光が漏れてくる。


「…ってうおっ!?」


気付けば、昨日助けた少女が毛布の中に入り込んで添い寝をしていた。いや!…確かに寝袋を渡したよね!?…と、内心大混乱のヒロ。だが…


「あ…震え…ってまさかっ!?」


彼女の額に手を当ててみると…結構な熱を発していた。


(そーいえば…ここら辺って山の中だし結構夜は冷えるんだよな…忘れてた。この子、結構汗だくだったし…そりゃこの薄着で放置すりゃ体調も悪くなるよな…)


革鎧の下は普段着ではあるが割と薄着だ。恐らく胸に布も巻いておらず、長ズボンではあるが防御は革鎧任せらしく動きが悪くならないようにと薄着なのだろう…


(汗は…退く訳ないよな)


緊急事態だと自分にいい聞かせ、収納袋から真新しいタオルを取り出して彼女の…まずは顔やら腕やらを拭いて行く。そして服の中に手を突っ込んで拭いていくが…それだけでは濡れた服が肌を冷やしてしまい、余り宜しくない状況となるだろう…所謂、体を冷やしてしまって体調悪化へと繋がってしまうのだ。


(はぁ…不本意だしこの子から悪く思われてしまうだろうが…死なせるよりはマシ…だよな?)


役得ともいえるかも知れないが、彼女は体調悪化しつつある患者。自分は医者ではないが…体調悪化を見逃せない善意の一般人…といい聞かせて…替えの衣類を取り出す。流石に下着はサイズが合わないが、そのまま男物のズボンを着せ、直接擦れて怪我をするよりはいいと、全て交換することにした。


(胸は…何でこの子、こんなにでかいのに保護しないんだろ?)


仕方なく、大き目のタオルを巻いて胸バンド代わりとする。


こうして…気が付いた後にどんな目に遭わされるか不明だが…人助けと思って全身を洗浄(清浄化クリーンの生活魔法を使用)し、タオルで拭いてから着替えをしたのだった…無論、寝袋を改めて清浄化で綺麗にして毛布を下に敷いておくのも忘れない(そちらも綺麗にしておいた)


「う~ん…熱が引かないな…」


流石に朝から魔力を酷使しまくりだが…目を覚まさないので「体力回復スタミナヒール」を使っておく。風邪気味ではあるが体力が回復すれば目を覚ますかも知れないと思ったからだが…果たして、彼女は1時間程が経過した頃にその目蓋を開くのだった…



「う…此処…は?」


意識が深い所から浮かび上がり、息苦しかったのが嘘のように…体調も苦しかったような気がしたが、今は普通…寧ろ快適に思える。


「…洞窟の…中?」


視線だけをゆっくりと左右に巡らし…洗濯物を干している人物を認める。


「彼?…彼女?…」


何をしているのかと眺めていると…その手は見覚えのある布切れを掴み、何故か洞窟の中にある横棒に引っ掛けていた…


「あれ…若しかして…わたしの…ぱ…ぱん…パンツぅっ!?」


横にびよぉ~ん!と伸ばされた三角形の布切れは…何を隠そう…わたしの下着だ。何故わたしのってわかるか?って…だって…名前が…サンディって名前が書かれてるんだもん…いやぁ~~~っ!!…恥ずかし過ぎる!!!


「ん?…おお!ようやく目覚めて…ぼぐしゃあっ!?」


ヒロは、サンディの下着パンツを両手で伸ばしながら振り向いた瞬間…見事な体のバネを生かした立ち上がり右ストレートパンチでノックダウンされるのだった!…南無。



- 凡そ30分が経過したと思いねぇっ! -


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…(以下略)」


「あ、いや、俺も殴られて当然のことしてたしさ…」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…(以下略)」


「だから終わらないから…ストップ!」


「…はい」(素直かっ!w)


鼻血で顔と上着が真っ赤に。殴られた鼻が潰されて変顔コンテストに出れば優勝待った無しだったヒロだったが、何とかヒールエイド癒しの助力で怪我を治して汚れは清浄化クリーンで何とかした。流石に変形した顔はすぐには元には戻らないが、何日か掛ければ治癒が可能だと聞いて、サンディはホッと安堵した。


「その…命の恩人なのに…ごめんなさい…」


「いや…だからまた止まらなくなるから。いいって…」


取り敢えず、サンディと名前がわかった彼女のことは、今後はサンディと。自分のことはヒロと呼んでくれと伝えて、昨夜のこともヒロが覚えている範囲でサンディに伝える。


「…そうだったんですね。ヒロさんは命の恩人さんですね…有難う御座います」


「いや…偶々近くを通り掛っただけだから…あはは」


普通に考えればあんな所、街道から離れているので通らないだろう…何しろ街道から200m程は離れていたのだから。


サンディに何であんな所をフォレストウルフに追われていたのか訊いてみると…


「その…仲間とはぐれて…気付いたらあの狼たちに追われていて…」


と、余り良くわかってないような感じだった。


「ダスティーに向かう途中で…「こっちの方が近道だ」っていわれて横道に入ったんです」


聞いていると、何となく似たような境遇と感じたが、こちらは仲間にぶっ殺されていたので


(はは…違うか…つか、比べるのも烏滸がましいかな…)


と思い、サンディの言葉に意識を戻す。


「それで…気付いたらパーティのみんなが居なくなってて…大声を上げて呼んでたら…あの狼たちを呼び寄せちゃって」


(いや…そりゃ森の中で大声を出せば呼び寄せちゃうよ…)


と、声には出さないけど


(何やってんだっ!?)


と、頭を抱えるヒロだった…勿論、


「ヒロさん?…どうかしましたか?」


とサンディがヒロに訊いて思わず怒鳴る所だったそうな(苦笑)



サンディはピクピクと頬が震えていた…


(捨てて来たと思ったのに…)


実は、サンディの装備品はことごとく…ヒロが収納袋に納めて持ち歩いていたという…


(だったら先にいって欲しかったってのよ…)


ぶちぶちいいつつ、乾いた彼女の服に着替えていたサンディは…今まで着ていたヒロの予備の衣類を返したが…


「あれ?俺のパンツは?」


「あ…後で洗ってお返ししますので!」


「…なら、これも洗ってくれる?」


と、シャツやらズボンやらを渡され、


「そ、ソウですネ!?」


と、引っくり返った声でサンディは洗い物を受け取る。ヒロは変なこといったかな?…と思いつつ、出発の準備を続ける…とはいえ、サンディの荷物を渡したが、低下した体力では全部を持ち歩くのは辛そうだったということで…


「一応、昨日預かったのはこれで全部だ」


と、洞穴の中に全部出した。


「革鎧に剣と盾…」


「他、ベルトホルダーにバックパック…確かに、これで全部ですね」


念の為にとバックパックやベルトホルダーの中身も出して過不足を確認するサンディ。


(んな盗む暇なんてなかったのに…やっぱ疑われてるのかなぁ…)


ひとつひとつ取り出しては頷いて確認しているサンディに、ヒロはずぅ~ん…と落ち込んでいた。



「準備おっけーです」


「わかった…」


結局、バックパックや壊れ物を入れているベルトホルダーはヒロ預かりに。革鎧と盾と剣は装備することに。念の為、「体力回復スタミナヒール」をもう1度掛け、洞穴を出ることにする一行。


「収納」


ぱぱぱぱぱ…っと消え去る丸太群。


「…凄い」


そしてこんにちわする野生の熊。


「「ぎゃああああっ!?」」


ヒロは収納した丸太を数本ぶちかまし…熊はノックアウトされるのだった…アハハ~…orz



「あ~…びっくりした」


「ほ、本当ですね~…」


2人してドキドキしつつ、洞穴を出る…あの熊は洞穴の本来の主…だったのかも知れないが、びっくりして丸太アタックでぶち殺してしまった為、永遠の謎となってしまった…


「…取り敢えず行こうか」


「はい…」


探査サーチ」を発動させてから歩き出すヒロ。それを使うなら洞穴を出る前から使えばいいのに…と思わなくもないが、朝っぱらからドキムネしていたヒロにはそんな余裕は無かったとだけ…。年齢の近い可愛らしい少女と洞穴の中で同衾する(寝る時には離れていたのだが)ともなれば、起きた時に混乱するのも無理は無いだろう…


(街道までは左を進んだ方がいいけど…獣が多いな…)


大きさからみて、恐らくは狼か…野犬だろう。どちらかといえば狼は夜行性の傾向がある…だとすれば野犬だろうか?…犬なら昼夜問わず…


(襲ってくる可能性が大…か)


「真っ直ぐ行こう」


「え?…あ、わかった」


サンディは昨夜、途中で気を失ってしまった為に洞穴から街道までの道順はわからない。故にヒロの宣言に多少は怪訝な顔をしたが従った。そして…時々歩みを止めてから「探査サーチ」を発動させて周辺の状況を調べる。


(野犬?の群れからは離れられたか…そろそろ左に向かっても大丈夫だな…)


「此処から左に向かうぞ」


「え?…こんな何も…いや、わかった」


サンディが怪訝な顔をするが、ヒロにも何か考えがあってのことだろうと無理やり納得し…頷く。そして、道なき道を歩き…時折やや曲がって進んだりしながら…2人は街道へと余計な時間は掛かったが辿り着くのだった…



- 戻りたいし進みたい -


「ダスティー…に向かってたのか」


「うん…」


街道に出て、元々どちらに行くつもりだったのか訊くヒロに答えるサンディ。そして、サンディはダスティーに向かう途中だったと話す。ヒロはそちらに向かうと…と気不味い表情をする。


「ヒロは…ひょっとして?」


「あぁ…反対方向へ向かってたんだよ」


反対方向とは「ダスティー」ではなく出発した町の「モノリス」だ。パーティ追放どころか、この世から追放されかかっていたヒロとしては、あの殺人集団に顔を合わせたくない。かといって、戻る理由を詳しく話すと巻き込んでしまう恐れがある。


「そ…っか。ダスティーには無理いって付いて来て貰う訳にはいかないよね…」


職業は運搬者ポーターといってたけど護衛も付けずに運搬業務をこなしてるヒロだ。何か理由わけがあるんだろうけど…あれだけ強いのだからソロでも仕事をこなせるんだろう。そう考えたサンディは、ヒロに感謝を伝え、バックパックなどの預けていた荷物を出して貰ったのだが…


「くっ…あれ?…おかしいなぁ…あはは…思ったより疲れてる…みたい」


と、フル装備で立ち上がろうとしたが足がガクガクと笑ってしまい、立てなかった。


「あー…まぁ、もうすぐ昼だからな」


まだ森の中の街道で飯食うのも何だろう…と、仕方ないとサンディの荷物を全部預かり…サンディを背負うヒロ。そう…柔らか双丘再びである!(いやだって…革鎧つっても当たると痛いし!?)


という訳で、背中のサンディは恥ずかしいのもあったが体力が十分ではない為、まさにおんぶに抱っこであるがヒロに任せて自身は背中から前を見るだけで精一杯だった。そして森の中を抜け出て…背丈の低い木々や草原を中心に広がっている地帯へと出て…やがて見えて来た。


「ダスティー…?」


「あぁ、多分な」


「多分?…ダスティーからモノリスに向かってたんじゃ?」


「あー…っと、ちと色々あってな…」


と、言葉を濁すヒロに怪訝に思うサンディ。


(連中に顔を会わないといいな…)


と思いつつ、2人は黙ったまま…疲れてきたので駆け足から徒歩移動に切り替えて…ダスティーへと向かうのだった…



- ダスティーの入場門 -


「止まれ。入場の意図は?…身分証があれば提示を」


「モノリスから来たヒロだ。旅の途中で立ち寄っただけだが仕事があれば請けたいと思っている。身分証はこれだ」


ヒロは運搬者ポーターギルドのギルドカードは所持してないが、一応冒険者ギルドの登録はしている。でないと、冒険者パーティに付き添って働けないからだ。ランクはFで未だにランクアップはしてないが、ポーターなのだから殆ど上がることはない。


「同じく、モノリスから来ましたサンディです。冒険者パーティ「青い刃ブルーエッヂ」の一員です。が、途中ではぐれてしまいまして…こちらのヒロさんに助けて頂きました。あ、身分証はこれです」


サンディは冒険者ギルドのギルドカードを門番に渡していた。チラ見すると同じランクFであることがわかる。


「ヒロに…サンディだな?」


「おい…」


「何だ?」


急にもう1人の門番が身分証を確認していた門番の耳に口を寄せてヒソヒソ話を始める。


「…それ、本当か?」


「昨日、報告を受けたからな。虚偽の報告でなければな…」


少し離れて会話しているので何を話しているのかは不明だが…顔色だけ窺うと余りいい話ではなさそうだと感じるヒロ。


「あの…」


少々話しが長くなっているし、後ろを見るとイラついている待ち行列に(いつの間にか数人並んでいた)冷や汗を流すので、門番に話し掛けたのだが…


「な、なんだ?」


「いえ…待ってる方がいるようですし、長くなるんでしょうか?」


といえば、流石に余り待たせるのも良くはないと判断した門番は、


「少し待て…そうだな。2人はこの者に付いて行け。では、次の者、こちらへ…」


と、取って付けたような説明でヒロとサンディは門番の立っている門から見て内側の小さな建物…恐らくは駐在所とかそういった建物だと思われる…に案内されるのだった。



門番の1人が先に駐在所?に入り、代わりの人が出て来てそのまま門へと向かって行った。そしてさっきの門番が顔を出し、入ってくれと手招きする。そして中に案内され、やや広めの部屋に入り、4人掛けできるテーブル前に立つ。


「まぁ…そこに掛けてくれ」


「あ、はい…」


「はい…」


3人くらい座れるソファに座らされ、門番は単座の椅子に座る。流石にヘルムは脱ぎ、テーブルの上に置いているが金属製の軽鎧は着用したままだ。勤務中だから仕方が無いのだろう…


「…いいかね?」


短く溜息を吐いた後、これからいうことを聞く準備はいいか?…と訊いたつもりの門番だったが、


「えと…何か問題があったんですか?」


「…」


ヒロがそう訊き返す。サンディは訳が分からないと無言のままだった。


「…まず、ヒロだったか?」


「はい?」


門番がヒロを見て手元の紙を見て、


「君は…所属している冒険者パーティがあったな?」


「え?…えぇ…まぁ…」


サンディは黙ってはいるが、「聞いてないけど?」というような顔をしている。


「その冒険者パーティ「黄金の旅人ゴールデントラベラーから報告があったそうだ…「ポーターのヒロが途中でマッドベアに襲われて…死んだ」とな。死体は食い荒らされて無残そのものだったので道中で埋めたとも報告がある」


嘘八百だ。俺はアサシンのナナシに横っ腹を獲物の短剣で串刺しにされて即死。トドメとして胸を…心臓の辺りを斜めに切り裂かれたのであって、熊なんぞに食い殺されている訳がない。そもそも、食い殺されたらこうやってダスティーに現れる筈がないじゃないか…


復活したのはスケドのお陰なので傷口は塞がっているが跡は残っている…中位以上の回復魔法で傷を癒してしまうと傷口は消え去ってしまうが、スケドみたいな魔導具で復活すると傷口を無理やり塞ぐだけで傷そのものは残るのだ。


「そうですか…」


何かもう、面倒臭くなってきたのだが…取り敢えず細かいことは冒険者ギルドで報告したいのでいいですか?と確認すると、


「わかった」


とだけ門番は返し、次はサンディへと向き直してこういった。


「サンディ…といったか。君のパーティがだな…」


横で聞いていたが、俺と似たような状況らしい。サンディは「信じられない…」と、傍からわかる程に意気消沈している。まさか、俺と同じ状況の者が横に居るとは自分でも信じられないが…


つまり…死んでも構わない状況に追いやられ=追放され…次の町で死亡報告した…という訳だ。狼が多数現れる街道から外れた場所で少女が1人残されれば…食い殺されてもおかしくないという訳だ。


(そこだけが俺と違う部分だが…まぁ大差は無いか…)


殺されて道端に放置されるのと、喰い殺されてもおかしくない地に置き去りにされる…


(本当…クソだな。世の中腐ってる…)


内心、メタクソ腹が煮えくり返ってはいるが…なるべく平静を装って、双方共に冒険者ギルドで報告して指示を仰ぐ…という訳で、門番の駐在所を出た。取り敢えず…サンディは呆けていて歩くのも危ういので再び背負って…背中が幸せの絶頂モードになって…冒険者ギルドに入ったら物凄い視線で殺されそうになったとだけ…ウウ、理不尽ダ…orz



- 冒険者ギルド・ダスティー支部 -


「うう…視線だけで殺されるかと思った…」


「あはは…まぁ、そんな薄着の美人さんを背負って現れたらな?」


此処は冒険者ギルド・ダスティー支部の応接間だ。一瞬にして注目を集めた後、死線ともいえる視線を集めたヒロにギルド職員が苦笑いと共に案内した…隔離ともいう…という訳で、現在暇そうなギルド職員…というのだろうか?…ギルマスを職員というのならばそうなのだろう…要はギルドマスターが目の前で笑っていた。


「あー…成程な」


秘書然とした女性職員が持って来た書類に目を通して、恐らく俺とサンディの書類を見てるんだろう(似顔絵も添えてあるし)…そして書類に落としていた目をこちらに向けている。先程、サンディに「体力回復スタミナヒール」を掛けたので、何とか普通の状態を保っている。腹が減っては何とやら…ということで、携帯食料も分け与えておいた。これで午後一杯は多分大丈夫だろう…


(夕飯くらいは普通の飯を食いたいけどな…)


昨日の夜からずっと携帯食料だけで腹具合は少々バッドだからだ。いうならば「足りない」ってことだな…彼女は女の子だから十分かも知れないが…(一般的な女のコ基準での判断でだが…)


「状況は確認した。死んだ筈のパーティメンバーが生きて現れた…といった所か?」


サンディは可能性としては無い訳じゃない。何しろ確認しないで報告してる訳だからな。だが…


「取り敢えず…虚偽の報告をした2つのパーティは…ランクダウンは当然として…悪質なら資格剥奪…という処置になる」


取り敢えず返事は保留し、頷くに留める。サンディも同様のようだ。


「当然ながら…2つのパーティでは何故?…と訊いて来るだろうな…そうなると真実を伝えることとなるが…」


「「…」」


「当然、君たちが死んだ…と信じて疑わない奴らだ。あ~…時に、君たちはどういう状況で死んだ…と報告されているか知ってるのかね?」


ギルマスがとぼけた顔で訊いて来る。


「あ~…俺は…熊に食い殺されたって聞いたといわれました」


「…わたしは…狼に…」


それ以上は感情が制御できないのか、瞳に涙を一杯に…そして零れ落ち…後は嗚咽で話せなくなっていた。


「わかった。2人とも、動物に食われて死んだ…まぁ簡単にいえばそんな報告されてるようだ」


ぱさっと書類がテーブルに落とされ…見えるように広がった。チラ見すれば、いったことと書いてることに差異は殆どないようだ。


「はぁ~…こんなこといいたくはないんだが…実際、どんなことをされたんだ?」


サンディを見る。未だにえぐえぐしていて説明はできそうもない。


「あの…いいですか?」


「ん?…どうぞ」


「えっとですね…サンディさんですが…こんなんなってますので喋れないと思うんですよ」


「…だな」


チラっとサンディを見るギルマスが、短く溜息を吐くとどうしたもんか…とヒロに視線を戻す。


「ですから、俺が彼女と出会った時からで良ければ…状況説明ができますが?」


想像してたのと違った台詞を聞き、ギルマスは僅かに目を見開き…


「まぁそれは構わないが…その後で君の状況説明もしてくれるんだろう?」


というので、


(流石にいわないとダメか…)


と、頭を掻いたヒロは記憶を辿りながら説明責任を果たすのだった…



「…つまり、サンディくんは…狼の群れに追われていた所をヒロくんが助けたと?」


「はい」


「そして…ヒロくんはパーティメンバーのアサシンに急所を斬り付けられ、殺されて…両親…いや、祖父母に持たされてた復活の魔導具で一命を取り留めたと…」


「はい。まぁ…その祖父母も何処で入手したか覚えてないっていうので…その辺りは問い詰められても知らないとしかいえないんですが…まぁ、大体その通りです」


ふむ…とギルマスが張本人から真実を聞き出すと、その内容を纏めて書き出し…恐らくは本当のことをいってるのか確認するのだろう…秘書に渡して下がらせた。こちらとしては真実しか述べてないのだが…サンディは未だにグズってるので後で再び事情聴取されるのだろう。辛いだろうがここで真実を伝えないと不味いこととなるだろうし…


「どうだ?」


「概ね、真実みたいですね」


「うわびっくりした!」


いきなり、明かりが無い影から滲み出る人影。そしてギルマスの問いに抑揚のない声で答えると、常時探査してる訳でもないヒロは心臓を鷲掴みされたようにドキドキドッキンコしながらソファから崩れ落ちそうになった。


「ななな…誰っ!?」


「恐れ入ります。鑑定士のアナンケと申します」


何処に恐れ入った要素が?…と思わなくもないが、頭を下げていたので座り直して頭を下げ、


「あ、はい…ヒロと申します」


「はい、既に知っております」


と、何となく失礼な物言いで返される。


「はは…まぁ、こいつはこーゆー奴だから気にしないでくれ」


と、余りフォローになってないギルマスのフォローが入る。うーむ…


「…で、鑑定ってことは…嘘とか付いてないとかわかるもんなのか?」


「あー…ここだけのことにしてくれるか?」


「まぁ…こちらの立場上…黙るしかないしな」


「わかった…まぁ、鑑定士って職業は本当のことだが…」


ギルマスがテーブルの上に顔を寄せ、つい釣られて俺も顔を寄せる。


「こいつは鑑定というより真贋判定ができるんだ。まぁ、本物か否か。そして…嘘を吐いてるか本当のことをいってるか…な」


つまり、このギルドには王宮にいてもおかしくない能力を持つ者を有していると…そういうことか。そりゃ…公言できないよな…


何となく、脛に瑕持つ者とか…一癖も二癖も持つ者が集まってそうな…そんな気がした。このギルドには…


「はぁ…なんつーか…モノリスに留まってた方が良かったような…」


そんな呟きを漏らすと、ばんばん肩を叩かれて、


「がはははは!…なぁ~に辛気臭いこといってんだよ!…ほら、奢ってやっから食堂の飯でも食って来い!…午後からも聞き取り調書取るからな?」


…と、他のギルド職員を呼んで、俺とサンディをギルドの食堂に案内させるのだった…



「面白そうなのが来たもんだな。おい!…あのパーティの連中に逃がすなよ?…暴走して殺されたら面白くないしな!」


「…はい。お任せを」


チャキィ~ン!…と、細い短剣を…一見ナイフに見えるそれを抜き、そして太ももの鞘に納めてからギルマスの前から立ち去った。


「おお怖っ…うちの秘書さんは敵に回したらヤバイよね…じゃ、次の仕事に移るか…」


ギルマスは応接間を出て、自室へと戻る。疲れた顔をしつつ…


━━━━━━━━━━━━━━━

文字数的には第1話より短いけど行数は多かった(とりまここで切ります)

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