ゆうきが出せますように


 私は昨日、友達に嘘をついた。

 昨日、いつもの仲良しグループで遊んでいる時に、うっかりはるくんのオレンジジュースを倒して、ゆきちゃんの大事なぬいぐるみを汚してしまった。急いできれいにしようとしたけど、ジュースのシミはなかなか取れなくて、汚れが残った。


 「これ、うみちゃんがやったんじゃないよね?」

 ジュースのついたぬいぐるみを見て、ゆきちゃんは私に聞いてきた。

 「違うよ」

 私はゆきちゃんに怒られるのが怖くて、嘘をついた。嘘がダメなことはわかっていたけど、本当のことを話したらゆきちゃんに嫌われると思って言えなかった。


 そのせいで、はるくんとゆきちゃんは喧嘩してしまった。ゆきちゃんは、はるくんが犯人だと思ってすごく怒っていた。はるくんは何も悪くない。ジュースをこぼしたのは私だから。

 でも、2人が言い合いをしてるところに、私は本当のことが言えなかった。心の中で謝りながら、黙って話を聞いていた。


 ゆきちゃんは、怒って帰って行ってしまった。はるくんは、悲しそうな顔をしていた。

 もう遊ぶ気分じゃなかったから、そのまま別れて、みんな家に帰った。

 何で嘘ついちゃったんだろう。本当のことを話して謝ればよかった。私は後悔した。


 それから1日経った。今日は7月7日。七夕の日だって、学校の先生が言っていた。確か、心を込めて短冊にお願い事を書けば叶うんだっけ。

 私はお母さんに頼んで、短冊をもらった。

 明日は学校。その時にゆきちゃんやはるくんに本当のことを話そうと思った。でも勇気が出ない。恐い。後からこんなことを話したら、やっぱり嫌われちゃうんじゃないか。もうみんなで遊べなくなるんじゃないか。そう思った。


 だから私はお願い事をした。ちゃんと謝れるように、またみんなで仲良くできるように、許してもらえるように。

 私は大事なお願いを書いた短冊を、ベランダの窓の近くにそっと飾った。


 「みんなに話すゆうきが出せますように」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る