第16話

「……入れてもいい?」

「うん……」


 そう言うと、美月は花園の入口を人差し指と中指で広げた。だらだらと溢れた愛液から察するに、彼女も準備万端なのだろう。間接照明に照らされた肢体は官能的で、昴は思わず息を飲んだ。

 昴は高まる鼓動を必死に抑え、サイドテーブルの引き出しから買ったばかりのコンドームを取り出し封を切った。かなり早いペースで使い切るので引き出しの中には幾つかストックが用意されている。


「それ初めて見る、どんなの?」

「前使ってたものより薄いやつ」


 シルバーに輝く外箱を見せると興味津々といった表情で説明書きを読み始めた。そして商品の謳い文句に美月はクスッと笑い、昴を見つめる。何か面白いことでも書いてあったのだろうか。


「どうした?」

「いや、温もりがどうのこうのって書いてあるからね。藍田くんまたすぐ出しちゃうんじゃない?」

「うるさい……」


 美月の煽りにまんまと乗せられた昴は勢いよく肉棒を押し込んだ。膣奥を抉るように激しく腰を振る。どうせわざとらしく昴を挑発するのが好きなのだ。毎回彼女の煽りに乗せられているような気もするが、悪い気はしないのでそこには目を瞑る。小さな口から聞こえる甘ったるい嬌声は、彼女がお気に召したことを昴に知らせているようだ。セックスと呼ぶには余りにも動物的な、荒々しい交尾がふたりにはよく似合っている。

 子宮口にぐりぐりと圧をかけるように先端を押し付けると、美月は昴の身体に腕を回した。


「あッ、あぁ……それ、だ、だめえッ!」

「松本のダメはもっとほしいって意味だもんな」

「んッ、うぅ……い、くッ!」

「え、もう?入れる前に煽ってきたくせに、もうイッちゃったんだ」

「ん〜ッ、んあああ……」


 美月の腹を掌でぐっと押した。その手を横に移動しては押し、移動しては押し、を何度か繰り返すと身体の内側にぎゅーっと圧がかかる。また絶頂したらしい。


「ゴム薄くて嬉しいのはお前だよな?」

「ゔッ……んうッ」

「あーあ、イきすぎて馬鹿になっちゃったんだ。2択の質問にも答えられないね」

「ん〜ッ……ゴム、薄くてっ嬉しいですっ」

「はい、よく言えました」


 優秀な美月には褒美を与える義務があるだろう。昴はピストンのテンポを変え、入口から奥まで全体をほぐすように肉棒を動かした。すると美月の嬌声は更に激しくなり、しがみつく腕の力も強くなった。


「あーッ!なぁ、んでえ!やだあ、またイくッ」

「言えたご褒美だよ。やだじゃないよね?」

「んぅ……気持ちいい、です……」

「そうだよな、ま〇こいじめられてイくの大好きだよな」

「んッ好きっ、好きですっ」


 好き。

 そんなはずないと分かっていながらも、昴は思わず身体が震えていた。自分に対して向けられた言葉ではないと頭では理解している。しかし、身体はその言葉に応えていた。


「今日、結構長いね……」

「あ……ごめん……」


 大抵の場合、昴が果てるときにはそろそろ限界だと伝えるようにしている。突然射精されたら驚いてしまうかも、というぼんやりとした理由だ。意味があるのかは分からないがとりあえず一方的に宣告している。

 今日は珍しく何も言わずに吐精してしまった。数日の間、自慰を禁じていたのも原因のひとつかもしれない。




 

「最近嫌なことでもあったの?」

「え?」


 風呂にも入ったし後は布団に入って寝るだけ、というときだった。昴は驚き、その感情が言葉となって出力されていた。


「なんて言うか、余裕がなさそうだから気になってたの。お姉さんに話してみなさい!」


 小柄で小動物のような雰囲気を持つ美月に、頼り甲斐がありそうな見た目であるとはお世辞にも言えないが、学校での彼女を見ているとただの庇護対象ではないことが分かる。フォローと気配りに長けていて、常に物腰柔らかな言動。おまけに外見も良く成績優秀ときた。彼女がマドンナ的存在として扱われていることに疑問を抱いたことは1度も無い。そのマドンナとひょんなことから身体の関係で繋がっている昴だが、もちろん尊敬もしている。


「テスト近いからさ……」


 嘘は言っていない。美月に対する思いをどう処理すればいいか分からない、というのを本人に言う勇気はなかった。今ここで伝えても意味がないことぐらい昴には分かっている。


「そういえばそろそろだね。終わったら夏休みか〜」


 美月は呑気なことを言いながらスマホのカレンダーアプリを開く。

 目に入ったのはテスト明けに開催される夏祭りの予定だった。近辺で行われる祭りより規模が大きく、2日間には花火が打ち上がる。昴は篠原とテストの打ち上げを兼ねて満喫するつもりだ。彼女もまた、普段仲良くしている友人達と行くのだろうか。


「ゆりちゃんとなーちゃんとお祭り行くからテスト頑張らないと。藍田くんは何か予定あるの?」

「俺も篠原と祭り行くよ」

「お、いいねえ〜。嫌でもテストはなくならないし、楽しいこと考えよ?」

「それもそうだな……」


 美月は浴衣を着るのだろうか、その姿を目に入れることは出来るのだろうか。気になることは浮かんだが、今は眠気の方が勝るのでまた今度聞くことにしよう。

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