第8話
「あうッ……も、う、無理ぃ……」
「……大丈夫っすよ」
美月の体力が限界を迎えたようだ。情けない腰振りが更に情けなくなったとき、昴は体勢を変えてあたふたする美月の腰を掴んで持ち上げる。逃げないよう掴み直すと、腰の動きを速めた。
「やっぱりこっちの方が好きだろ?」
「ゔゔ〜ッ!」
初めて聞く声と共に膣が締まる感覚に襲われる。最近は昴の家の壁の薄さを心配して吐息混じりの大人しい声で鳴いていたというのに。こんな声も出せるのか。ピストンが難しくなった昴は奥まで肉棒を押し込み、肉壁にぶつけた。
「なに?奥ぐりぐりされて気持ちいいの?」
「これえ、しゅき……しゅき、い……」
いくら攻めの姿勢を見せようとも、美月がM気質であることに変わりはない。清楚系美少女の面影はどこへやら、快感に身を任せる姿は性欲にまみれた、ただの雌だ。
腹の方もやや弱いので、突き上げるように動き薄い腹の内側を押した。
「ぐりぐり、やぁだ……んんッ」
「なにがやなんだよ。イかされて喜んでたじゃん」
嫌なのではなく、ただ口から出力された言葉を吐いているだけだということぐらい昴には分かる。その気持ちよさに溺れて、いつまでも溺れてしまいそうな感覚が怖いのだろう。わざと、何が嫌なのかと質問しているのだ。美月はこういうのが好きだろうと思っていた。MはMでも、かなり筋金入りのドがつくMだ。これぐらいの言い方なら喜んでくれる。以前少し強い言葉を使ったとき、興奮が高まっていたことを昴は覚えていた。
「っ、あぁッ!」
「ほら、なにがやなのか教えろよ?」
「イ、きすぎて……頭、変に、なっちゃううう〜!」
「へぇー」
「ん〜ッッ!」
そうか、と小さく呟いて昴はまた激しく腰を動かした。そして、鳴き始めた美月の口に手を当てて声を抑える。近所迷惑になってしまう心配もあるが、喉を痛めてしまいそうで気になったのだ。多分、もう遅いが。
「ふ、んッ……ぐ……」
控えめに鳴き出した声に安堵する。
「そろそろ出すぞ……」
「うん……」
受け止めろよ、と囁くと美月は手の隙間からか弱い声で返事をした。額には汗をかき前髪がへばりついている。いつもより激しくしすぎたかもしれないことに反省しつつ、もうすぐ迎える絶頂のため腰を揺らした。彼女は苦しそうに、しかし幸せそうに鳴いていた。
「あ、出る……」
「いっぱい、くだひゃいッ……」
コンドーム越しの膣に精子を吐き出した。締め付けから解放されようと思い、腰を後ろに引くと背中に引っかかりを感じた。
「もう、ちょっと……」
抜くな、という意味だろう。足を背中で組んで身体を固定されているようだ。うるっとした瞳に反抗することはできず、美月から解放されるまで動くことを諦めた。この人の瞳には抗えない。いや、抗う必要などないのかもしれない。
昴は幸せな時間を噛み締めるのだった。
後始末をしてふたりは風呂へ入った。以前はなかった筈の女性向けのヘアケア用品に気づいた美月は、勢いよく昴の方を振り返る。
「……これは、あの!」
「松本さんよく来てくれるから買ってみました」
「あ〜めちゃくちゃ助かる……ありがとうね」
女性が男性向けのシャンプーやらを使うのはあまり良くないらしい、と耳に挟んだのだ。かといって一式揃えるのはこの関係性に対して重いような気がしたので、コンディショナーの後に使う洗い流さないトリートメントを選んだ次第である。他の友人たちに見られても自分用だと嘘がつけるというのも理由のひとつだ。昴は女性が使う商品に疎いので妹に聞いた。こういうとき女兄弟がいると助かる。妹からは彼女が出来たのかと延々と問い詰められたが。
美月の反応を見るに、その時間は無駄ではなかったようだ。
「あ、そういえばさ。藍田くん、敬語やめてほしいな〜、なんて」
「それは、なんというか……急だな……」
へへ、と笑いながら美月は加える。
「前から言おうと思ってたんだけどね。タイミング掴めなくて。結局今言ってるけど」
「なるほどね。分かった」
再度笑った美月は声が掠れ、小さく咳をした。
「ん……喉が……」
「最後の方凄かったね〜マジそそる声」
「……うるさ」
太腿をぺちっと叩かれた。鏡越しに頬を染めた美月が見える。自覚があってあの声を出しているのだとしたら更にそそるな、と勝手に想像を膨らませた。
美月の身体を洗いつつ胸や腰、内腿など美月が敏感な部分を執拗にボディタオルで擦る。良いところに触れる度、身体をゆらゆらと動かしながら逃げようとする彼女と、1.5回戦目を所望している昴の攻防戦が始まった。途中までは昴が優勢だったが、面白くなって笑い出してしまったので今日のところは諦める。しかし、太腿の濡れ方は明らかにシャワーの水ではなかった。あんなに激しい、セックスというより交尾と表すべき行為の後でも、身体は準備を整えられるのか。
それは、昴も同じであると気づき、ひとり笑った。
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