異世界旅行を終えて

あの不思議なミステリーツアーは、あれ以降見つけられなかった。

あの異世界で作ったパスケースは、今も手元に置いてあった。中には不思議な文字が書かれたカードが入っている。書いてある文字は読めないが、これが何かは知っている。


「あれ、真悠姉それどうしたん?」

「あら、素敵なパスケースねぇ〜」

「えーと…」

「ははーん、なるほどなるほど。これはアレね」

「あー、アレかぁ。旦那さんからのねー」

「ラブラブなのねぇ〜。ウチはもうそんな時期終わっちゃったわぁ」

「はは…」

「ほんと、ウチの旦那なんて出張行ってもお土産一つ買ってこないのよ?『それ以上デブになる気か』なんて言ってさ」

「うちのオヤジもそのタイプだったな〜」

「うちもよ〜!職場には買っていくのに、家には何も無いから文句言ったら『そりゃ若い娘には何か買ってやりたくなるだろ』ですって!失礼しちゃうわぁ」

「あー、旦那さん浮気予備軍間違いなしだね」


今日のお茶会は旦那さんへの愚痴大会になるようだ。相槌を打ちつつパスケースをちらりと見る。


(皆は覚えてないのか…)


その事実に少しだけ寂しさを感じてしまう。あの楽しかった日々を、あの時一緒に居た誰とも共有出来ないのだ。

すでに次の話題に移った三人を眺める。なんだか自分だけが遠くに行ってしまったようだ。


「ねぇ、次どこ行きたい?」

「えっ?そうだな〜、…温泉でゆっくりしたいかな」

「温泉かぁ。前に行ったトコ良かったわよね!」

「ねー、海鮮も美味しかったし…」

「あそこのお湯、超しょっぱかったよね!」


佐藤さんが旅行のパンフレットを机に広げて、あーでもないこーでもないと話している。ふと、時計に目をやると用事があるのを思い出した。


「ごめん、ワタシ急いで銀行へ行かないと!お先に帰るわね」

「あ、窓口?お会計はいいから行ってきて!」

「ほんと、ごめんなさい。また連絡するね!」

「気をつけてね〜」

「また〜」


慌てて店を飛び出すと、急いで銀行へ向かった。


「ありがとうございました〜」


ギリギリで窓口に駆け込んで、用事を終わらせて店を出る。何となく帰る気にはならなくて、そのまま街をフラフラと歩いてみた。

目的地があるわけではないが、いつもは通らない道をどんどんと進んでいく。


まるで何かに呼ばれているような感覚がして、そちらの方へ足が自然に向いた。明るい大通りから外れて薄暗い路地を歩いていく。

今は何時になるんだろうか。そのへんも曖昧になっていく。まるで、夢の中を歩くような不思議な心地だ。


しばらくすると、目の前に小さな明かりが見えた。小さな木の看板をみると、どうやら古びた喫茶店のようだ。窓ガラスやドアもアンティーク調で、どことなくあの異世界を思い出させる。

ワタシは導かれるように、その店のドアを開いた。すると、そこに居たのは…


「お待ちしていました。…また会いましたね」

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オバチャン集団の異世界体験旅行 高井真悠 @Miju_0116

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