オバチャン集団、帰路につく

最高のキャンプを楽しんだ夜更け

私は一人、テントの外でボンヤリしていた。真っ暗な森の中だけど、月の光が降り注いでいて不思議と怖くはない。


(それにしても、私達は元の場所へ帰れるのかしら?)


ふと、そんな疑問がわいてくる。日本国内ならお財布さえあれば帰るのは可能だ。何なら無くてもどうにかなると思う。問題は、ここが異世界という場所ということ。来た覚えもないから帰り道なんて到底知るわけがない。

あの三人はその事に気付いているのか…いや、気付いてないな。うん。


(何なら私はずっと居てもいいんだけどな〜。こっちの方が楽しいし!)


旦那は海外赴任で居ないし、子供達も独り立ちしている。家に帰っても一人なのだ。毎日同じことの繰り返しで少々飽きてしまっていた。友人と行くツアーは楽しいが、なのだ。


空を見上げる。月明かりがあるのに星もしっかり見える。こんな夜空、日本じゃ見られない。それもまた、異世界の魅力だと思った。

ふと、人の気配を隣に感じた。顔を向けると何故かツアーの最初に居た男性が座っている。スーツ姿の彼は、この場所に非常に不似合いだなと思った。


「貴女は帰宅したくないのですか?」


唐突に聞かれて、驚いた。何で考えていたことがわかるんだろう?


「帰りたくない…とは言えませんね。残してきた家族も居ますし」

「おや、そうなのですか?」

「ふふっ…そりゃそうですよ。天涯孤独なら迷わず答えたと思いますけどね」

「なるほど、確かに血の繋がりは弱く脆く強いですからね。しかし、帰りたいとも思っていらっしゃらないでしょう?」

「…そうですね。子供の頃はこういう世界に憧れてたから。とても楽しくて、帰りたくなくなっちゃいますね」

「そうですか。なかなか難しい問題ですね」

「そうですね。難しいです」


たぶん、ここに連れてきたのは彼の力なんだろう。ソウガミ…創神。つまり、そういうコトなんだと思う。

そんな事を考えながら、隣の男性を見ると「鋭いですね」とニッコリと笑っていた。


「なぜ…と理由を聞いても?」

「そうですね…この世界を楽しんで頂けたらと思っただけですよ」

「そうですか…十分楽しめてますよ。ありがとうございます」

「それは良かったです。…さて、明日にはちゃんとご帰宅頂けますから、安心して最後の夜をお楽しみください」

「そうなんですね、名残惜しいけど…ゆっくりこの景色を目に焼き付けておきます」


そういうと、満足そうに微笑んで闇に消えていった。明日には帰れると聞いて少し残念に思う自分が居た。でも、不思議と嫌とは思わなかった。

彼の言う通り、その後も心安らかな夜を過ごしながら最後の夜を終えた。


「ふわぁぁぁ〜、良く寝たぁ!」


皆が起き出してくる。

私は用意してあったカップにコーヒーを注いだ。結局この場所でウトウトとしただけで朝になってしまったのだ。年をとると徹夜は結構堪えるのだが、意外とスッキリとしている。


コーヒーと軽食で、朝食をとっているとリュカが飛んできた。


『みなさま、異世界体験お疲れ様でした〜!まもなく迎えの馬車が来ますので、それに乗って帰宅となります〜』

「あら、もうツアーは終わりなの?何だかあっという間だったわ〜」

「ほんと、充実してたわね。もっとお土産買っておけばよかったかしら…」

「また来たいなー。結構楽しかった」

「そうねぇ〜、また見つけたら申し込むわ!」

「いぇーぃ、よろしく!」


とうとうこの世界とお別れか…なんだか淋しく感じてしまう。次があれば良いけど…たぶん、こんな経験一生に一度だけだと思う。後片付けを終わらせると、向こうの方から馬車がやってきた。


『迎えが来ました〜。みなさんお乗り下さい〜』

「たのしかったわー!リュカちゃん、ありかとね〜」

「お疲れ様でした。案内ありがとう」

「リュカっち、おつかれさん。ありがとね」

「お世話になりました。また会いましょう」

『はい!みなさん楽しんでいただけましたか?また会えるのを楽しみにししてます〜!』


馬車に乗り込んで扉が閉められる。行きと同じで周りが見えないようになっていた。

三人は旅の思い出を話しているが、夜更かしのせいで瞼が重い。あぁ、楽しかったな…そう思いつつ、瞼を完全に閉じてしまっていた。


「みなさん、長旅お疲れ様でした!まもなく到着です」


そんな声でハッと起きる。いつの間にか寝てしまったようだ。

見渡すと行きで乗ったバスの中だった。服も持ち物も、出発した時のものだ。あれ?と思いながらも、あれは夢だったのかとも思った。何故なら3人とも、あの世界での話をしていなかったからだ。


(なんか、長い夢見てた気分だわ。疲れたのかしら?帰ったら熱いお風呂に入ろうっと)


なんだか、記憶がボンヤリとしている。ただ、楽しかった想いだけが残った。ドコで何してたかも思い出せなかったが、とても充実した旅立ったのは間違いなさそうだ。


「それでは、皆様お気をつけてお帰り下さい。またのご利用お待ち申し上げております」


案内人のソウガミさんが、そう締めくくった。何だかフワフワしたまま車から降りる。ふとソウガミさんを診ると、ニッコリと笑っていた。軽く会釈をして、帰路につく。


ふと、服の中になにかあるのを感じた。首から下げたソレは見覚えのないパスケースで、中にはきれいなカードが入っていた。

こんなもの、いつ持ったんだっけ?と思いつつも何故か、それは無くしちゃダメだと感じて再び服の中へしまった。


こうして、私のミステリーツアーは終わった。

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