オバチャン集団、冒険者になる・後編

精霊樹から現れた、旅の案内精霊のリュカに連れられて冒険者ギルドへやってきたオバチャン集団。いざ、冒険者登録だ!


「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ。」

『この人たちの冒険者登録をしたいのですぅ〜』

「あら、会話のできる精霊をお連れなんですね。では、登録用書類に必要事項を記入して下さい。あちらの机で記入していただいて良いですよ。」

『それじゃ、あっちで記入しましょう〜』


用紙とペンを受け取って、椅子に腰掛ける。

名前を書こうとして早速リュカに止められる


『あっ、名前は本名を書いちゃダメですよ〜。元の世界に戻れなくなっちゃいますので〜』

「えっ!何それ怖い!」

『名前というのは大事なのですよ〜。この世界の人達は通称と真名を使い分けてます〜。真名は他人に知られると、真名を知る者に支配されて…簡単に言うと何でも言う事聞くようになっちゃうのですよ〜』

「やだ、怖いわね…アタシ達お互いの名前知ってるけど、支配できちゃうの?」

『皆さんはこの世界の方ではないので、お互いの本名を知っていても大丈夫です〜。ただ

この世界の方に知られるとそうなっちゃいますね〜』

「うわ〜、マジやばい。マナ?ってのあれば簡単に舎弟にしてパシらせられるじゃん」

「えーと、それじゃここに書くのは偽名にしなきゃいけないって事ね?」

『皆さん同士で名前を呼び合う時も気を付けて下さい〜。うっかり知られたら大変なことになりますよ〜』

「アタシ…うっかり名前言う自信しかないわ。」

「私もよ〜、ついこの間も話しちゃいけない事をウッカリ話しちゃってねぇ。」

「あら、何かあったの?」

「聞いてよ〜。特別室に入ってた患者さんなんだけどね、その人なんの手術だったと思う?…それがね、お尻にオデキが出来ちゃってそれの切除手術だったのよ〜〜」

「やだ〜!特別室って事はお金持ちなんでしょー?」

「ケツにオデキで手術とかやば(笑)」

「あら、結構大変なのよ?中に芯があって、それが膿んじゃってね〜。痛くても我慢して放置しちゃってたから椅子に座れなくなっちゃったのよ。範囲も広くて大変だったわぁ」

『えーっと…』

「あ、ごめんね?何の話してたかしら。」

「ほら、本名をうっかり話したら大変だって…」

「あっ!そうだったわ!…それにしても困ったわねぇ。魔法で何とかならないの?」

「うーん、本名をうっかり口に出来なくなれば良いんだよね…何とかなるかも?」

「ほんと?流石だわ〜!」

「とりあえず名前付けちゃわない?お腹すいたし。」

「そうね!何で名前がいいかしら…?」


名前を考えること小一時間。

佐藤さんは『サティ』

高橋さんは『シラユキ』

木村さんは『アーヤ』

ワタシは『ユーシィ』

それぞれ学生時代のあだ名を出し合って決めた。名前が決まったので、ウッカリ防止の為の魔法を考えてみる。

口から出てくる言葉が今決めた名前になれば良いんだよね。よし、イメージは出来た。

ワタシのスキル、創造魔法はイメージ力が大切だ。火の魔法なら、ロウソクの火をイメージするか、バーナーの火をイメージするかで変わってくる。

特に詠唱は必要ないんだけど、創った魔法に名前をつけると次からは頭でイメージしなくても名前を言うだけで使えるんだよね。

今回の魔法は一回きりだし、特に名付けなくていいか。いざ魔法…って時にふとこれまでの道中の事を思い出した。めっちゃ本名で呼びまくったよね…フルネームではないけど流石に覚えてる人が居たらまずいな…。

なので、この街全体を対象にワタシ達の名前を聞いたであろう人達の記憶もちょっと改ざんしてしまおう。まず、ワタシ達にはウッカリしない為の魔法を掛ける。指を振ればキラキラとした光がワタシ達に降り注ぐ。これで完了。

次は記憶の改ざんだ。今回は範囲が広いのでしっかりと力を込めて腕ごと振った。キィィンと魔法が広がっていく。


『あら、ユーシィ様?なんの魔法を使われたんですかぁ〜?』

「あぁ、ワタシ達ここに来るまでお互いのいつもの呼び方であちこちで話してたから、名前を聞いてたかもしれない人達の記憶も今決めた名前になるようにちょっと…ね」

『ふわぁぁ、素晴らしい発想力です〜!』

「えっ、それってダイジョウブなん?」

「ワタシ達には作用しないし、大掛かりな記憶改ざんではないからね。名前知られる方が大変だし。」

「流石ユーちゃんね〜。アタシ達も安心して話ができるわぁ!」

「ほんと、助かるわ〜」


そんなこんなでようやく書類を出したワタシ達。これで冒険者ね!

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