オバチャン集団、ツアーへ出発

公民館に集まるオバチャン4人組。

佐藤真梨子55歳。行動力に溢れたパワフルオバチャン。運送会社に勤め、4トントラックを乗り回し、配車から重い荷物の積み下ろしまでこなす。一人称は「アタシ」

次は高橋雪美53歳。面倒見の良いオバチャン。国内有数の大学病院で看護師長を勤めている。医者の信頼派篤く後輩からも慕われ患者からの人気も高い。一人称は「私」

木村紗彩35歳。元ヤンなオバチャン予備軍。若い頃からバイクや車が好きで、工業高校を卒業後大手自動車メーカーで整備士をしている。一人称は「ウチ」

そして、ワタシ。漫画アニメゲーム好きのサブカルオバチャン。劇団員・事務・居酒屋・IT会社…職を転々としていた。器用貧乏な45歳。


ペチャクチャと他愛もないお喋りに興じていると、目の前に1台のワゴン車が停まった。後部座席の窓は真っ黒なスモークフィルムが貼ってある。車体には『ファンタジー号』の文字。若干ダサい。アヤちゃんがボソッと「アレに乗るの恥くね?」と漏らしていた。全く同感だ。

車からスーツ姿の年若い男性が降りてきた。こちらを見てニコッと笑う。


「お待たせしました。ファンタジーツアーにご参加の皆様ですね。わたくし、案内役のソウガミと申します。早速ですが、ご本人様確認を済ませた方からご乗車ください」


ここから乗るのはこの4人だけのようだ。名前と受付完了メールを見せてから車へ乗り込む。一番うしろに佐藤さんと高橋さん。その前の座席にワタシとアヤちゃんが座る。

座席に座ると、ソウガミさんから一枚の紙が渡される。


「こちらはキャラクターシートでございます。お申込み時に頂いた情報を元にしてアバターと呼ばれる異世界で皆様がお使いになるキャラクターを作成しました。QRコードで読み込むと見た目等を変更出来ますので、ご確認下さい。作成が完了しましたらツアーの開始です。これより現地まで移動しますので、どうぞその間にアバターの作成を行って下さい。」


そう言うと、ソウガミさんは後部座席のドアを閉め助手席へ乗り込んだ。運転席と後部座席の間には板が貼ってあって前の様子も見えなくなっている。徹底的に隠されていて感心してしまった。


「あばたー?なんて何に使うのかねぇ…こういうの良くわからないわ。真悠ちゃん、見てもらえる?」

「あ、私のもお願い!」

「はいはい。とりあえずカメラでQRコード…そう、この四角いの。これを合わせて…はい、これが高橋さんのね。こっちは佐藤さん。このボタン押すと目とか耳とか好きなようにかえられるから。いいね、そんな感じ。」


2人のアバター作成を手伝いつつ、自分のアバターにも手を加える。まぁ、ほんの少しスタイルを良くして髪の色や瞳の色なんかを弄る程度だ。


「こんなものかしら。みんな出来た?」

「ウチは出来たよ〜。これ何に使うんだろね?」

「さぁ…?良くわからないな。こういうのは初めて。」

「あら、紗綾ちゃんのあばたー可愛いわね!アタシも可愛くすれば良かったかしら…」

「さと姉のキャラめっちゃ強そう(笑)ユキ姉さんは…おぉ、インテリ美女って感じ」

「やだわぁ、なんだか恥ずかしいわね。真悠ちゃんはどんな感じにしたの?」

「ワタシはあんま変わらないかな。スタイルは良くしたけど(笑)」

「真悠姉らしいや(笑)」


アバターを作り終えて、持ってきたお菓子をつまみながらペチャクチャとお喋り。会話の中身は芸能人のスキャンダルや職場の愚痴。夕飯の献立や近所の飼い猫まで多岐にわたる。よくもまぁ、そんなに話のネタがあるもんだと思うけど何度も同じような話をしがちなので尽きることは無い。ここで「それこの間も聞いた」なんて言うのは野暮ってもんだ。プロのオバチャンはその辺のスルースキルが高い。


しかし、さすがのオバチャンでも長いこと喋り続けると疲れるので自然と会話がなくなり、代わりに寝息が聞こえはじめる。

アヤちゃんはイヤホンを付けて音楽を聞き始めたし、後ろの2人は早々に眠っている。ワタシも車の振動を感じながら目を閉じた。

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