オバチャン集団の異世界体験旅行
高井真悠
オバチャン集団、ツアーに申込み
妙齢の女性は「オバチャン」と呼ばれる。
それは愛称であったり蔑称であったり縁戚関係上の立場だったり様々な意味が込められている。
呼ばれることに少々抵抗があるのは、妙齢だという現実と向き合わねばならないからだろうか。
人生を重ね子育ても終わり、スーパーのチラシを読み漁り、お昼のテレビで雑学を仕入れ、ご近所さんとの情報戦を制し、パートでお小遣いを稼ぎ、冴えない夫の世話を焼き、老いた両親と巣立った我が子を気にかける毎日。
代わり映えのない毎日に飽きつつも、家庭の平穏を維持し続けている。
そんなオバチャンの1人、神崎真悠(かみさき まゆ)はご近所さんから渡された旅行会社のチラシを眺めていた。
「ミステリーツアー…ねぇ」
ミステリーツアーとは、詳細な旅程を明かさずに行われる旅行会社の企画の一つだ。どこへ行くか分からないワクワク感とビックリするような体験が出来るとあって、色んな旅行会社がこぞって企画していて人気も高い。
手元にあるチラシも、そんなツアーのひとつ。ご近所さんが「コレ、面白そうよ!」と持ってきたのだ。見慣れない旅行会社ではあるが、大手のツアーはそれなりに参加しているので、名前も知らない旅行会社のツアーが目新しく感じる。
オバチャン達は日帰り旅行が大好きだ。温泉はもちろん、フルーツ狩りや名所旧跡めぐり。桜に紅葉、海鮮にお肉。詰め放題に飲み放題。お得と聞けば、西へ東へ南へ北へ。
その為にパートもしている。ちなみに、ワタシは週に3回スーパーの品出し。空いた日にはデイサービスの施設清掃もやっている。ご近所さんもそれぞれパートで働いている人が殆どだ。
さて、ミステリーツアーである。
《今流行のファンタジーツアー!いつものミステリーツアーと一味違う?!最高の異世界体験をアナタに!》
そんな謳い文句がチラシのど真ん中に大きく書かれている。
そういえば、最近は異世界転生モノとやらが流行ってるって娘が話してたなぁ。事故や病気で亡くなった人が漫画やゲームの世界へ行く…みたいな小説が流行っているのだとか。
「そんな都合のいい事なんてあるわけ無いのにねぇ。現実逃避でもしたいのかしら?まぁ、ワタシ達には旅行って楽しみがあるから関係ないわね。…っと佐藤さんからだわ。」
『チラシ見た?次の旅行ソレにしようかと思うんだけど高橋さんも紗綾ちゃんも行くっていってる!』
「へー、高橋さん達も行くのか『見たよ!ワタシも行こうかな!』っと。」
メッセージを返してスケジュールを確認する。佐藤さん・高橋さん・アヤ(紗綾)ちゃんは旅行仲間で、年齢も趣味もバラバラだけど何故か気の合う友人だ。
グループ会話で日程を決める。今回の旅行は二泊三日で、動きやすい格好推奨。集合場所は近所の公民館でツアー内容の説明をそこで聞くことになる。内容は当日までわからないが、それこそがミステリーツアーの醍醐味だ。この手のツアーも何度か行っているので何の不安もなかった。
申込みをして代金の支払いも済ませた。あとは当日になるのを待つだけだ。
そうそう、夫は海外赴任中で後数年は戻ってこないから家を空けても問題ない。猫を飼っているが、留守中は娘が防犯がてら様子を見に来てくれるので安心だ。
そして、いよいよミステリーツアーの出発日になった。
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