第19話 そうか、全ては汗だったんですね!

 私は青紫色の花が如何して人体に影響を与えるのか非常に、非常に気になってしまいます。

 かなり難儀な問題ではありましたが、とりあえずやれることをやってみます。


「この手袋に変化がないということは無害ですが、青紫色自体が自然界では珍しいはずです。きっと何か見落としているはずです」


 もちろん見落としているのは、この花が濡れた時の効果でした。

 村長さんの話によると、花弁を摘み取り、染色したそうです。


 伝承にも似たようなもの、実際所は詳しい記載はありませんでしたが、採取したのは明白です。

 それなら実害が出たようですが、それでは要因が多すぎて、何が原因か特定ができませんでした。


「本当に難しいですね」

「アクアス様。一度休まれては如何でしょうか?」


 シュナさんは行き詰まってしまった私にそう声を掛けてくれます。

 確かに今考えてもあまり新しい画期的な発想は出てきません。

 私はお言葉に甘えて休むことにしました。


「ふぅ。如何しましょうか?」

「如何と言われましても、私には分かりません。私はアクアス様のお手伝いをするだけですので」

「そうですか。うーん、この青紫色の花。せめて花弁に毒性があるか如何か分かれば良いのですか……」


 私はシュナさんに紅茶を淹れてもらいながら、そんなことを呟きます。

 おそらくですが、多くの方が私の言う言葉に不可解さを疑問視するでしょう。


 ですが私の言っていることは間違っていませんでした。

 手袋が反応しなかったとは言え、特定の条件を満たした際に、毒性を強く発揮する場合があるのです。


 なので私はしっかりと対策を練ります。

 とは言え、行動を起こさなければ聖水を作ることはできません。

 何かしらの条件。その条件を知ることができれば、物事は少し動きます。


「それにしても熱いですね」

「山登りは大変ですからね。しかもこの山は木々が生い茂っていて、標高が上がり、涼しくなったとは言え、服には汗など余分な水分が吸収されてしまいますからね」

「そういうことですね。はぁー、ん?」


 ポタッ!


 私は口元に手を当てました。

 すると額から汗が溢れます。


 その汗が丁度青紫色の花の花弁に触れました。

 すると変化が起きました。

 たった一滴溢れただけ。触れて瞬間、青紫色の花弁がより一層、濃い紫に変化しました。


「コレは一体……」

「アクアス様。これは如何いうことでしょうか?」


 シュナさんも私に尋ねてきます。

 正直予想外でした。まさか汗で変化が生まれるとは思いません。


 もしかすると水分に反応したのでしょうか?

 私はシュナさんが紅茶を沸かすために持ってきたお湯を少し頂き、花弁に垂らしてみます。


 ピチャ! ポワーン——


「アクアス様!」

「はい。まさかこんなことに……面白いですね」


 私は言葉を失いました。

 お湯を垂らしただけ。厳密に言えば、水分を含ませた瞬間、何も起きませんでした。

 さっきまでは反応したのにもかかわらず、こうして何も反応がない。


 冷たい川の水もお湯も試しました。

 ですが反応は出ず、出たのは汗を垂らした時だけです。


「如何やら朝が毒素の原因のようですね」

「はい。ですが何故汗に?」

「おそらくですが、汗に含まれる何らかの成分。それこそ、体の中の老廃物が汗として出るんです。おそらく、体内に含まれる魔力に反応して毒素を生み出し、病魔となって襲う。そうか、なるほど、そう言うことだったんです!」


 私はほぼ全てを理解しました。

 この青紫色をした花。それから汗による毒素。

 何故舞を披露する巫女にばかり毒素が伝染し、病魔へと変貌するのか。


 その根拠として、舞を披露する巫女にだけこの病魔は見られる。

 つまり舞を披露するための装束を染め上げる職人には何の影響も出ていない。そこに繋がって来ますが、そこにこそこの花の毒素の発動条件に当てはまらないことを意味していました。


 私は全ての点と点が繋がったので驚愕です。

 自分を疑ってしまうほどで、これなら何とかなると思いました。

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