第20話 持ち帰って研究
私は青紫色の花を採取しました。
早速屋敷の研究室に籠り、研究を始めます。
とは言っても、しっかりと調べている余裕はもうありません。ここから聖水を作るために全力で取り組みます。
「ここからが正念場ですね」
私は道具を用意しました。
意外にも聖水をつくる方法はシンプルで、そう難しくはありません。
「まずは霊水を用意します」
霊水。それは綺麗な湧き水や雪解け水などに魔力を流したものです。
他にも言霊などを込めることによって生まれる特別な代物です。
「その中にこの花を入れて……湯煎します」
欲しいのは霊水に花を浸した後の残り物です。
つまり濾すことが大事なのですが、これは本当に大変です。
火の加減を間違えれば、植物が有している毒素や魔力が消えて無くなってしまいます。
そうなれば本末転倒。ここまでの苦労が全て水の泡になってしまいます。
「霊水の中に魔力と毒素、それからあらゆる菌類だけを残します。ここが一番肝心な部分です」
私の作る聖水は普通の聖水と異なる部分があります。
本来、ポーションと呼ばれる代物は、冷水に植物を煎じたものを混ぜ、加熱したものです。
しかしそれだけでは私は満足しませんでした。
私は病魔を打ち払うものは、病魔の中にあると思っています。
そのため病魔に打ち勝てるものは、一番効果のある材料の中にある。
あえて毒素などを残すことにより、病魔を患っている人の細胞を刺激し、高い治癒効果と、今後は発病しないための抗体を作るのです。
「でもこの作業は、少しでも気を緩めると、失敗してしまうんですよね」
私は何度も失敗をしてしまっているため、何となく分かってしまいます。
急ぎ過ぎても遅過ぎても駄目です。
この作業を成功させるには、しっかりと植物の持つ成分を霊水の中に落とし込むしかありません。
ですがこの作業を間違ってしまうことがあります。
疲れなどから火の加減を間違えたり、ビーカーが急な沸騰で割れてしまうこともあります。
更には時折魔力を注ぐことで、成分を底上げしないといけないのです。
本当に休む暇もありません。
なので疲れていても頑張るしかないのです。
「あっ、後でシュナさんにコーヒーを淹れて貰いましょうか」
私ができること。それは待つことです。
聖水を作り上げるためには時間と労力が掛かってしまいます。
しかも結果は待っていても訪れません。
予兆を感じさせてはくれますが、その度に適切な処置を取らなければ、量産など叶わないのです。
「それにしてます色が出ませんね……」
あれから十分は経ちました。
しかし青紫色と言うかなり濃い色合いにもかかわらず、全くと言っていいほど霊水に変化が出ません。如何やらかなり遅い分のようで、ここからは耐久戦が始まります。
「そうですよね。あまり慌ててはいけませんからね」
私も待ちに入ります。
ここからじっくりと霊水のお湯に色が付き、不純物が出るのを待ちます。まだこれでは特効薬にもなりません。
そのためできることをしておきます。
「火にかけて、布を巻いて漉して、それから……それから」
私は色んなことを錯綜させます。
すると迷いそうになりますが、その扉を壊してくれたのは、実際に扉が開いたからでした。
振り返って部屋の開かれた扉を見ます。
するとそこにはシュナさんがマグカップをトレイに置いて持って来てくれていました。
「シュナさん」
「アクアス様、お疲れのようでしたので、紅茶を淹れてみました。ハーブも入っているので、きっとお疲れが取れると思いますよ」
シュナさんは気が利きます。
私は「ありがとうございます」と優し答えると、マグカップを受け取りました。
「大変ですね、アクアス様」
「確かにそうですね。このまま時間の経過に伴って、色々な作業があります」
「色々な作業ですか?」
「はい。そこのメモに書いてありますよ。……この紅茶、美味しいですね。それに何だか眠たくなって……」
私は目をトロンとさせました。
開いているのが酷になるくらい、強烈な睡魔に襲われてしまいます。
如何やら少し疲れているようです。
私は大きな欠伸を「ふはぁー」と掻くと、そのまま目をゆっくり閉じました。
視界がブラックアウトします。
如何やら瞼を閉じてしまったようで、そこから抗おうとしましたが、意識がドンドン深い所に落ちてしまいました。
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