第18話 青紫色の花弁

 私は少し走り出してしまいます。

 珍しい草花の群れに心躍るのもありますが、何よりも目の前に浮かぶ青紫色の花弁に心を掴まれました。


 ガサゴソ……ガサゴソ!


 草花を掻き分けます。

 植物をあまり傷付けないように進んでいくと、水辺に一輪の青紫色の花が咲いているので、近付いて観察してみます。


「コレが青紫色の花。もしもコレが原因だとするなら……ですが、とっても綺麗ですね」

 

 私はついつい手を伸ばしていましたが、反対の手で手首を押さえます。

 馬鹿な真似をしてはいけません。

 下手に触ってしまい、私までもが同じ目に遭うのは流石にです。


「手袋を着けて、そーっと、そーっと」


 私は花弁に指を添えました。

 しかし特に目立った毒性はありません。


「おかしいですね。毒素がありません」


 私の着用している手袋は特注品です。

 何と、生物に害のあるものであれば、手袋が素早く反応して、何らかの色を示します。

 例えば酸性なら赤色。アルカリ性の毒素なら青色。一般的な毒性ならば紫色になり、それが黒に変色しそうになれば、より危険度は増してしまいます。


 にもかかわらず、何の変化も生まれません。

 つまりこの青紫色の花は何の害もない、ただの植物と言うわけです。


「ハズレですか。残念ですね」


 私は凹んでしまいました。

 ですが病魔を治すためには挑戦の連続です。

 試行錯誤を繰り返すことで、ようやく辿り着けるので、まだ何かないか辺りを調べます。


「まだ何かありませんかね。もう少し先に……」


 私が歩き出そうとしました。

 すると脚がぬかるみに取られて転びそうになります。


「きゃっ!」


 私は叫びます。すると体が支えられました。

 転びそうな私を適宜に助けてくれる人。

 シュナさんしかいまへん。


「アクアス様!」

「シュナさん」

「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「はい、いつもいつも足を引っ張ってしまってごめんなさい」

「そんなことはありません。ですが、気を付けてください。この先は少し土が柔らかいです。水分を吸収していて、地盤が緩くなっているようです」


 シュナさんの見解は抜群でした。

 つまり間違いはありません。

 私はしっかりと言葉を聞き入れると、少し首を捻ります。

 

「待ってくださいシュナさん。この辺りの地盤は緩いんですか?」

「はい。間違いはありません」

「信じてはいます。ですが、根拠などはありますか?」

「もちろんです。アクアス様、下をご覧ください」

「下ですか?」


 私は地面を見つめます。

 幾つか亀裂が入っていました。

 コレはもしかして……それが確信に変わります。


「もしかして……このや辺り一帯は元々川?」

「川か如何かは不明ですが、おそらく水場です」

「なるほど。ですが、それでも何故……」


 私は苦悶します。

 首を捻り、頭を巡らせ、考えを募らせました。

 その結果、一つ気が付きます。水に直接花弁が、濡れれば如何なるのか。非常に気になります。


「やはり水を掛けてみましょうか」


 とは言え根から吸収した水は道管や師菅を通り、全身に供給されるはずです。

 と言うことは、花弁にも何かしらの変化は既に出ているはずです。


 勝手な解釈違い。

 その可能性は十分にあるので、イマイチピンと来ません。


「やはり水分でしょうか?」

「如何でしょうか? 私はその可能性が強いと思いますが……」


 私は少しだけ残っていた水溜りから川の水を汲み上げ、花弁に垂らします。


 ポタッ、ポタッ、ポタッ!


 水滴が滴り落ち、花弁が濡れます。

 少し太陽の陽射しを受けて眩しくなりますが、それ以外に変化はありません。


「冷たい水では反応がありませんね」

「失敗でしょうか?」

「分かりません。環境に適応していると見るのが一番手っ取り早いのですが……」


 とは言え、確証はありません。

 試行回数を増やしていけば、もしかすると何か出るはずですが、やはり水分が関係しているのではないか。

 私の結論はそこに至りつつありました。


 とは言えこうして環境のものを考慮しても駄目でした。

 私は汗を掻きながら、額を吹きました。今日は少し汗を多く掻く一日です。

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