第8話 龍舞村の人々
私の居る屋敷があるのは、辺境の村。
名前は
元々この土地はブレイズさんが管理していました。
しかし今では私が代理を務めています。
最初はあまり村に馴染めてはいませんでしたが、今ではすっかり村の人達とも仲良くなっています。
「あっ、アクアス様!」
「アクアス様。今日も村にお越しに?」
村で畑作業をしていた夫婦に声を掛けられました。
私は「はい」と即答すると、収穫したトマトを手渡してくれます。
「アクアス様、如何です? 良い色合いでしょ」
「本当ですね」
「土がまだ付いていますが……あっ、流石に食べたら」
「あむっ」
私はトマトに齧り付きました。
土が付いていて泥だらけなのに、私は全く気にしません。白い歯が茶色になってしまうと、口の中いっぱいにトマトの酸味と太陽の光をたくさん受けたことで甘く完熟していました。
「お、美味しいです! やっぱり新鮮かつ時期もののトマトは最高ですね。あれ、如何かしましたか?」
夫婦はポカンとしていました。
そう言えば、私がこの村に来て初めて交流した時もこんな顔をされました。
ちょっと懐かしくなってしまいますが、あの時も私はこの方法で仲良くなったんです。その理由は極めて稀なものでした。
「やっぱりアクアス様は、貴族って感じがしませんよね」
「そうですか?」
「そうですよ! だってこんな真似、村の人でも一部の人しかしませんよ? 普通は洗ってから食べます。もうっ、口元が泥だらけですよ」
私は夫婦のご婦人にタオルで顔を拭かれてしまいました。
少し恥ずかしいかも? ですが、私は特に気にしません。逆にヤバい人だと思われたのか、それとも放って置けない人と思われたのかなと、私は思いました。
「ありがとうございます」
「それで、アクアス様はこれから如何なされるんですか?」
「これから村長さんのお家に向かおうと思います。丁度届け物があるので」
私は鞄をポンと叩きます。
それを受けて私は夫婦と別れ、早速村長さんの家に向かいます。
「この村は長閑でいいですよね。空気と美味しい、水も美味しい、何より聖水に使える植物の宝庫です」
私はこの村が好きです。
足取りは軽やかで、道を歩くのでした。
村長さんの家は村の奥にあります。
なので私の住んでいるお屋敷からは少し距離がありますが、もう慣れました。
コンコンコン!
私は木の扉を叩きました。
鈍い音が響きます。
「村長さん、アクアスです。今、居られますか?」
私は声を掛けます。
すると扉が開き、中からお爺さんが出て来ました。この村の村長さんです。
「おう、アクアス様。待っておりましたぞ」
「はい。えーっと、お孫さんは?」
「はい、こちらでございます」
私は家の中に入らせて貰います。
和の様式がとても素敵で、玄関の土間を抜けると、畳の上に上がりました。
その隣の部屋。障子で分けられていて、その奥の部屋には子供が一人寝ています。苦しそうにうなされていて、咳き込んでいました。
「顔色が悪いですね。おまけに頬も赤くて……ちょっとごめんなさい。口の中を見せて貰えますか?」
私は女の子の口の中を少しだけ見させて貰います。如何やら腫れは口の中にまだ広がっていて、トマトのように腫れ上がっています。
そのせいで気管支を圧迫していて、咳が上手くできず詰まってしまい、苦しそうになっています。
「如何ですアクアス様。孫は治りますか?」
「それは分かりません。私はお医者さんではありませんから」
私自身は医者ではありません。
ですがこの手のことなら私の得意分野です。
鞄の中から薬を飛び出しました。
もちろん自然由来の代物で、水に溶かしてあります。魔力を含んだ薬、それが私の作る聖水なのです。
「ちょっと苦しいかもしれないけど、飲んでね」
私は女の子の唇に瓶の口を沿わせます。
ゆっくりゆっくり飲ませると、腫れた部分に当たって苦しそうです。
「がっぷ、かっわっぷ!」
女の子今にも吐き出しそうになり、目からは涙を浮かべます。
それでも私はゆっくり飲んでもらい、聖水を半分近く飲んで貰うと、少しだけ腫れが和らぎました。
「やっぱりですね」
私は確信します。これは間違いなく病魔。
魔素を介した魔力によって生じる病気です。
普通の医者では治すことなできない代物ですが、私には可能でした。
「もう大丈夫ですよ。三日間ほど安静にしていれば、元気になると思います」
「本当ですかな!」
「はい。多分、トマトに含まれる微量の魔素に反応してできた病魔です。適応する聖水を丁度持っていたので、今回は助かりました」
私は安堵しました。
すると村長さんは私に感謝してくれます。
嬉しかったです。ですが感謝されたくてやっているわけではないので、何だか歯痒い気持ちになりました。
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