第7話 私は対等ですよ

 シュナさんは私と一緒に喜んでくれました。

 本当に嬉しかったです。


「それではアクアス様、朝食の準備が整っているのですが、如何なさいますか?」

「はい、いただきます」

「かしこまりました」


 シュナさんは丁寧に礼をしました。

 それから沈黙が流れました。


「あのシュナさん、先に部屋を出てくださって構いませんよ?」

「承知致しました」


 シュナさんは部屋を出ました。

 私はシュナさんの後に続き部屋を出ます。


「アクアス様、如何して私を優先したのですか?」

「えっ?」

「私はアクアス様に支える身です。主人を優先するのは当然のことに思いますが」

「それはですね、私のポリシーに反しているからですよ、シュナさん」


 私はおかしなことを言うシュナさんに対して、そう返します。

 するとシュナさんはぼやきました。


「私のような者に“さん”などと、敬称して貰わなくても良いのですが」

「何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません」


 シュナさんは隠してしまいました。

 それから無表情のまま食堂の扉を開け、私が入るのを待ちました。


「どうぞ、アクアス様。お入りください」

「……そのようなことをしなくても結構ですよ」


 私は自分でドアを押さえました。

 シュナさんは目を丸くした後、何か粗相をしたのではないかと自分を戒めました。が、それは全て間違いだと言い聞かせます。


「シュナさん、いい加減慣れましょう」

「慣れ、でしょか?」

「そうですよ。シュナさんは飲み込みが早いので大丈夫です」

「ありがとうございます! 主人からのお褒めの言葉、喜ばしい限りにございます!」


 シュナさんの表情が可愛らしく変化しました。

 私が褒めるといつも嬉しそうに表情を緩めてくれるので、心の底から安堵します。


「そ、それでは朝食を運んで参ります!」

「あっ、ちょっと待って……行ってしまいました」


 私は手を伸ばしました。

 しかしシュナさんの姿は無くなってしまいます。

 毎度のことながら、過敏な動きと気配の隠蔽術に感服してしまいます。


「自分の分くらい、自分で取りますけど」


 しかしシュナさんには届くはずもありません。

 何故ならシュナさんは私のためにいつも頑張ってくれているからです。


「まあ、仕方ありませんよね」


 嬉しい限りなのですが、ほんの少し寂しいです。

 だからでしょうか。頬を掻いてしまいました。




「本日の朝食もこちらでよろしかったでしょうか?」

「はい、シュナさんのお料理はいつも美味しいですから」


 私のテーブルの前に皿が幾つか並べられました。

 白い皿の上にはクロワッサン、スクランブルエッグ、野菜の簡単なサラダ、彩りも栄養もバッチリな食事が並びます。

 私は大満足ですが、シュナさんは如何にも怪訝な様子です。


「シュナさん、如何したんですか?」

「いえ、本当にこれでよろしかったのかと」


 如何にもシュナさんにはこれでは不満を持たれるのではないかと、疑心がありました。

 それもそのはず、私が仮にも公爵家と繋がりがあるため、体の心配をしてくれているのです。もっと言えば世間体ですが、私はそんなものを気にする貴族ではありません。


「シュナさん、私は貴族と言う爵位に甘えたりはしません。私はアクアスです」

「しかし、アクアス様!」

「それに私にまで“様”を付けることはないではないですか」


 シュナさんは少しだけ黙ります。

 ですが素早く反論します。ですが弱々しかったです。


「それでは主人に仕えるものとして……」

「シュナさん、私はシュナさんにまでそう呼ばれたくないんですよ。ブレイズさんも私のことを“さん”と呼ぶので、少し疲れてしまいます」


 そう私はごねます。しかしシュナさんもそこだけは割り切ってくれません。

 本当に皆さん頑固です。

 私は対等になろうと頑張っているのに、如何してこうも上手くいかない中、正直分かりませんでした。


「……まあ、それは諦めます。ですが一緒に食べましょう」

「主人であるアクアス様とご一緒にでしょうか? そんな烏滸がましいこと」

「私が許可しているんです。シュナさんと一緒に共有したいと思う私の気持ちは、烏滸がましいと言うことでしょうか?」


 ここは私が詰め寄ります。

 するとシュナさんは頭が良いので言いたいことを理解してくれます。


 自分の分の料理を運びます。

 テーブルに置き、椅子を引くと座ります。そのまま席に着き、少し緊張気味でしたが、何処か嬉しそうに見えます。


(やっぱりこの方が良いですね)


 私は聞こえないような唱えます。

 だってシュナさんの口角が薄っすら吊り上がっていたので、こんな姿を見られるのは今しかないと思ったからでした。

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