窓枠

松木 夜鷹

二十首連作


あまおとは雨の音だということをしってる僕にあまおとは降る


八重洲口がきれいになった東京は今更すこし京都のようだ


花(山吹)を呉れた村の娘に道灌はそのとき笑顔を返せなかった


東京の夜景の果てしないことを“気味がわるい”と思ってしまう


ローマ字でKARAOKEと書く 片仮名のカラオケよりも楽しそうなり


「フモール」か「ユーモア」どちらでも良いから早く、一つ、ください。


モリーという少女が森に捨てられるお話――駄洒落ではない――。


アメジオをじっと見つめていた人の黒目が(めずらしく)ちゃんと描かれている


モディリアーニに描かれたこの人物は(赤毛だが、)加藤登紀子にすこし似ている


花菖蒲を描いたタイル、山手線「渋谷」の駅の乗車位置には。


ユニバーサル・シリアル・バスというわりになんだか穴がちいさくないか


休耕田の畔に似ている、動物のかたちに板を切り抜いたパズルの枠は。


憲法の「憲」という字を半分ほどかくしてみると「害」にもみえる


「押しつけられた憲法」などと言いながら、JAPANと呼ばれてYESと応える。


JKはJFKの略ではなく、JDももちろんジェダイではない。


冷房のなかでカップとソーサーの触れあう音に耳をすませる


動乱となれば、少女は――少年の十四倍の確率で――死ぬ。


石鹸の滓というより新たなる石鹸ともいえる、この白きかたまり。


セザンヌの描いた木立が大根の葉っぱに見えてしまって困る


何処かへと運ばれてゆく窓枠は未だ窓とは呼べぬしろもの



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窓枠 松木 夜鷹 @y-matsuki

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