最強の剣で社畜が異世界無双する
賢者
第1話 異世界らしい
気が付いたら異世界にいた。
何を言っているかわからないが、実際に異世界にいるのだからしょうがない。
周りを見渡すがさっきまでいた仕事を押し付けてくる上司も、人の話をきかない後輩もいない。森だけだ。
こういう時は大概能力を授かるイベントやプロローグがあるもんだが、何もない。
俺をここに送り込んだ神様とやらはかなり気まぐれの性格のようだ。
カチャ
む……。いつの間にか腰に剣がつるしてある。神様も流石にそのまま異世界に放り出すのも、忍びないと思ったのかもしれない。試しに剣を持ってみる。
何やら力が湧いてくるような不思議な感覚。体が軽かった。近場にあった木を切ってみた。
ズバン
真っ二つだ。
「すげーな、これ。この剣あれば無敵じゃね?」
もしかして、魔法とか使えるかも。手のひらに念じて手をかざしてみる。
……。
何もおきなかった。
「流石に魔法は使えないか」
少し残念。せっかく異世界なんだから魔法使いたかったんだが。まあ、この剣でも十分凄いから別にいいか。
そんな事を考えてたら、何やら遠くから悲鳴のような声が聞こえてきた。
「女の声?ちょっと行ってみるか」
剣を抜いたまま、走り出す。普段の自分からは想像できないほどの速さ。
あまりの速さに景色があっという間に変わっていく。
「はは、少し楽しいかも」
人間ではあり得ない速度に、気分が高まってくる。
「お、おっと」
煙だ。あたりに焦げ臭いにおいが漂ってきた。何やら人が騒ぐ喧噪も聞こえる。
騎馬に乗った山賊らしきものたちが、馬車を囲っていた。
馬車の周りには騎士のような恰好をした男たちが倒れている。
山賊の一人が、ちょうど馬車のドアを手にかけようとした時、吹き飛んだ。
女騎士だ。大事そうに少女を抱えて馬車から飛び出した。
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「姫様大丈夫ですか?」
「はい、エレノア。私は大丈夫です」
そう気丈に振る舞ってはいるが、膝に置いた手は震えていた。
無理もないまだライラ姫は13になったばかりだ。むしろよく耐えている。
エレノアは震える手をそっと握る。
「大丈夫です、姫の護衛は精鋭中の精鋭。山賊ごときすぐに蹴散らしくれます」
「……はい。ありがとうエレノア」
エレノアがそう言うと少し落ち着いたのかライラの震えがとまった。
馬車の窓から後方を追いかけてくる山賊たちを見る。ライラには、そう言ったものの後方の山賊たちは明らかに練度が違った。まるでそれは訓練された兵士のようで、護衛の兵士たちを蹴散らしながら迫ってくる。
「あと少し、ここの国境さえこえれば合流できます」
エレノアがそう呟いた瞬間だった。
爆発が起きた。
馬車は火炎に包まれ横転する。
「きゃあああ」
「姫様!」
エレノアはとっさに姫に覆いかぶさった。凄まじい衝撃がエレノアとライラを襲った。
一瞬視界が暗くなる。
「……っつ。……姫様!…姫様!ライラ!」
エレノアは視界が悪い中、手探りで隣にいたライラを手繰り寄せる。
「……え、エレノア。わ、私は大丈夫です」
「……つう」
無事な様子のライラを見てホッと息を吐くが鋭い痛みをエレノアに襲う。馬車が倒れた拍子に、打ちどころが悪かったのだろう。足にかかる強い痛みに耐えながらライラを不安にさせまいと笑顔をむけた。
その僅かな表情もライラは機敏に悟った。
「失礼します」
そうライラは言うとエレノアの靴を脱がす。足首が赤く腫れているのがわかった。
「すぐに治療を!」
ライラは手をかざして治癒魔法を使う。
ライラが手をかざす暖かい光が足をつつみ、赤い腫れがひいていった。
「ありがとうございます。姫様。少し楽になりました」
完全に治療は終わってないもののエレノアはライラを制止して治癒魔法を中断させる。
「でも……」
「今は私よりも、この状況をどうするかです」
エレノアを現在の状況を判断するため見渡す。馬車内部は魔法障壁で守られて無事だが、外部は別だ。外は轟轟と音をたて火柱があがっていた。
室内の温度もあがってきている。いずれ限界がくるのも時間の問題だろう。
姫様だけは……。ライラだけは救わなければ。
ぎゅっとエレノアはライラの手を握る。
「姫様、私が時間を稼ぎます」
ライラはハッとなり顔をあげる。
「……っ!だめ!」
「ライラ聞いて。ここにいても、どのみち二人とも助からないわ。なら生存率が高い方にかけましょう」
「…………」
「もしかしたら、誰かが助けてくれるかもしれない。だから」
ライラもこの状況はどうしようもない事はわかっていた。ただ頭で理解していてもそれを受け入れることはしたくなかった。
ガン
馬車のドアを叩きつける音が聞こえる。
山賊が馬車に追いついたのだ。
「いくわ」
エレノアはライラをぎゅっと抱きしめる。
「……はい」
手に魔法を念じ、発動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
馬車に登っていた山賊が吹き飛ぶ。
「おー、すげー飛んだな。やっぱこの世界も魔法あるんだな」
女騎士が馬車が飛び出した。すぐそばにいた山賊をレイピアのような鋭い剣で突き刺す。
そのあまりの気迫に盗賊たちがわずかに下がった。その瞬間を女騎士は見逃さなかった。
氷のつぶてを飛ばし、退却路を作る。
少女を手をひきその僅かに生み出した退却口から突破できると思われた、が。
「あ、ダメだ」
炎の壁が女騎士と少女の行く手をふさいだ。
ダメ押しとばかりに女騎士の足に、山賊が放った弓矢が深々と刺さった。
そばにいた少女が女騎士にかけよる。
山賊たちは少女たちを囲むように、追い詰めていく。彼女たちの命ももう終わりだろう。
別に救おうとは、思わなかった。
凄い力は手に入れた。しかし、剣で刺されれば、たぶん俺も死ぬ。
ましてや今さっきあったばかりの赤の他人だ。しばらくは、そりゃ気分は悪いだろうが、時間がたてば忘れるだろう。だから正直見捨てようと思った。
目があった。
山賊に囲まれても、自分よりも負傷している女騎士を気にかているお人よし。
どうにか救う方法がないか、必死に助けを求めている。
そんな少女と目があってしまった。
……た、すけて……。
「はぁ……」
剣に力をいれる。
瞬間、俺は山賊たちと、少女の間に割って入った。
「……!」
一太刀で数人の山賊を切り伏せる。
「あ、あなたは?」
「ただの社畜だよ」
最強の剣で社畜が異世界無双する 賢者 @kennja
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