第19話 可恋とデート

市川さん達と映画を見に行く当日。僕は集合時間よりも三十分前には到着した。ピッタリに行ってキョロキョロしても恥ずかしいしね。


十五分前。いつもなら廉也がもう来る時間だが、なぜか来ない。なんで?


十分前になった。あそこで誰かが僕に手を振ってる。あれは…


「お〜い!二越くん!」


い、市川さん!そんな大声で叫ばれたら恥ずかしいよ!


「お、おはよう市川さん。他の人はまだみたいだね。」


「他の人?」


「え?今日って廉也達も一緒じゃ?」


「何を言ってるの?今日は私たちだけだよ?」


しまったぁぁぁぁぁぁあ!!!僕はとんでもない勘違いをしてしまっていたぁあ!ううう…頭が痛い…


「二越くん大丈夫!?」


「う、うん。全然問題ない。 」


「それならいいんだけど…じゃあ行こっか!」


市川さんは手を握ってきた。恥ずかしかったけど拒むのも申し訳ないので何も言わなかった。


「ねぇねえ二越くん?一つお願いがあるんだけど。」


「できる範囲なら構わないよ。」


「私のこと…これから名前で呼んでくれる?」


自分からお願いを聞くって言ったけど難題キターッ!でも…やるしかないぞ二越綾人。


「か、か、可恋……さん……」


「二越くん違うよ、『さん』はいらないよ。可恋。」


「か、可恋…」


「うんっ!今日は楽しもうね、綾人くん!」


今日は大変な一日になりそうだ…


—————————————————————


まず最初に僕達は映画館に来ていた。市川さん……いや、可恋が誘ってきたということはよほど見たい映画があったのだろう。


「綾人くんっ!これこれ!」


「どれどれ…」


どうやら、「なないろ」という映画らしい。どうやら、あるラノベ主人公の親友ポジのストーリーらしい。意外と面白そうだな。


「面白そうだね、早速チケットを買いに「チケットならもう買ってありまーす」」


「ごめん…ありがとう、じゃあこれ代金ね」


「あ、そういうの大丈夫!誘ったの私だし、気にしないでね〜」


うぐっ…渡すべきなのに渡せない雰囲気を作られている…あとでなんか奢ろう、というかあげよう。


「じゃ、じゃあ恥ずかしいけどここはお言葉に甘えて…」


「それでよ〜し!」


可恋は嬉しそうに僕の手をとって映画館へ向かう。今日の市川さんには振り回されそうだな……あ、可恋だった。


—————————————————————


「面白かったー!」


「思ってた以上だったよ。観に来てよかった~」


「だよねだよね!私この本見たことあったから、なおさら深くストーリーを楽しめたんだ!また今度貸してあげる~」


「楽しみにしてるね」


それから僕達はお昼ご飯を食べることにした。のだが……


「か、可恋?なんか誰かから見られている感じがするんだけど…」


「そう?そしたら私だね〜」


いや、違う。確かに可恋はチラチラとこちらを見てくるけど、明らかにどこからか視線を感じる。結局僕は「可恋が目立っているのだ」ということにした。


「可恋は何か食べたいものある?」


「ん〜パスタかなぁ」


僕は事前に調べておいたリストからパスタが売っているとこを見つけた。


「ここなんかどうかな?」


「お!いいねぇ、じゃあ出発だぁ〜」


今日の可恋は調子が良いというか、楽しそう。これが彼女の素なのだろう。学校だと控え気味だけども。


店に着くと、案外空いていたようで店員さんはすぐ僕達を席に通してくれた。お互い悩んだ末に注文してから十分後…


「うわぁ!綾人くん美味しそうだね!」


可恋は目を輝かせている。美奈ちゃん達とは普段こういう場所に来ないのだろうか。


「そうだね!じゃあ、いただきます。」


パスタを食べている途中、やはりどこからか視線を感じた。可恋はパスタに夢中になっているから違う。まさかとは思うが、ストーカーってこともあるのか…?


「綾人くん!」


「え!?あ、どうしたの?」


「なんかぼーっとしてたから〜はい、あ〜ん」


フォークに絡まったパスタをパクッと食べた。


「あ、ありがとう。……!?!?」


うわぁぁぁ!しまった!視線のことを気にしすぎて、今の行動に疑問を抱くことを忘れてしまった!これっていわゆる……


「間接キス、だよね?ふふっ」


可恋が僕の心を見透かしたようにニコニコしていた。策士、市川可恋。


その後、パスタを食べ終えた僕たちは本屋でおすすめの本を紹介したり、カフェで昔話に花を咲かせていた。うん、気付かぬうちに楽しいデートになってる。可恋のエスコートのおかげである。これでいいのか、二越綾人。


日も沈みそうになってきたので、帰宅を促すと、「最後に寄りたいところがあるの…」と言われたのでついていくことにした。そこは、紛れもないゲーセン、ゲームセンター。ゲームがいっぱいある場所。


「実はさ、今日の記念にプリクラを撮ろうと思ったんだけど…いい?」


うっ。上目遣いで言われると、というか言われなくても答えは一つ。


「OK。じゃあ、行こうか。」


モード選択で『友達』か『恋人』があったけど、可恋は「まだ早いよ///」と言って『友達』

を選択していた。多分、「(お前には)まだ早いよ」ってことなのかな。自重します。


ゲーセンを出るともう日は沈んでいた。流石にこのまま彼女を返すのも良くないので、送っていくことにした。


「綾人くん、今日楽しかった?」


「え?そりゃ楽しかったけど?」


「そりゃよかったぁ…えへへ///」


今日はあんまりエスコートできなかった(というか可恋にほとんど主導権を握られていた)けど、楽しんでもらえたならよかった。


「あ、家着いた。」


すんごく立派な家。豪邸とまでは行かないけど、大きいお家。中学の頃は良く廉也と美奈ちゃんと遊びに行っていたので、今更驚いたりはしないけどね。


「じゃあ、綾人くんまた明日〜今日楽しかったよ〜」


「僕もだよ。また明日。」


帰る途中振り返ったら、まだ可恋は手を振っていた。僕も振り返して、家への帰路を歩いた。


夕日はとっくに沈んで綺麗な夜空が広がっていた。














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