第17話 ミニ体育祭!

ブーッ ブーッ


「ん…」 


スマホのアラームが鳴った。まだ六時半だけど、十五時にはホテルを出るので、朝のうちに荷物をまとめておく必要がある。アラームを消して起き上がる。


「おーい、廉也。起きろ〜」


「ん〜 あと五分だけ〜むにゃむにゃ。」


「こらっ!朝起きないとご飯抜きだよ!」


口調を廉也のお母さんに似せた。


「うわっ!母さん!それだけは…ってあれ?」


「よし、さっさと顔洗って十五時にホテル出れるように用意して。」


「は、はい…」


廉也はスタスタと洗面所に歩いて行った。よし。じゃあ僕は今日の予定を確認しとくか。


十分後。


「綾人〜俺は準備できたぞ〜」


「今日はミニ体育大会だからな。」


合宿二日目は一年生だけの体育祭がある。


「綾人、バスケの応援頼むぜ!」


「任せといて。応援ならいくらでもするさ。」


僕らは部屋を出て、すでに朝食の会場にいた市川さんたちと合流した。


「あ、二越くんたちだ!二人ともおはよー」


「三人とも、おはよう。」


「二越くんは男女混合ドッジボール、柳原くんはバスケだったよね?」


「そうそう。みんなで応援よろしくな。」


「ええと…市川さんと西宮さんがバスケで、美奈ちゃんは障害物リレーだったよね?」


「綾人クン大正解〜!こっちも応援頼むね〜」


「よし、みんなで頑張ろう!綾くん、廉ちゃん、いつものやろう!」


美奈ちゃんの掛け声で、僕たちは輪になって真ん中で手を重ねた。市川さんと西宮さんも察したのか、手を重ねてくれた。


「じゃあ俺がやるぜ!お前ら、絶対勝つぞ!」


「「「「おー!!!!」」」」


こうして、戦いの始まりを告げる笛が鳴った。


—————————————————————


一番最初の試合は、美奈ちゃんの出場する障害物リレー。美奈ちゃんは一位通過だったが、他の子がだんだんと抜かされていき、三位。まだ全体優勝は狙える順位だ。


続いては僕が出るドッジボール。総当たり戦だったが僕たちのクラスからは運動が苦手な人ばかりが参加したため、七位。七位だと点は入らない…マジですいませんでした。廉也は「俺たちが優勝すっから安心しろ!」と励ましてくれた。やはり持つべきものは信頼できる親友だ。


続いては女子バスケだ。僕たちの学年は八クラスあるので、くじを引いてトーナメント制の試合をするのだ。


第一試合。VS一組。


お互いまだ全員がボールに慣れきれておらず、たまにパスミスはあったけれど、十五点差で快勝。


第二試合。VS五組。


序盤は運動部の多い五組が攻め続けた。逆転できるかギリギリの得点差が開いたところで、休憩が入った。美奈ちゃんが試合に出ている二人にタオルを渡しに行った。


「廉也、僕たちは応援に専念だ。」


「あったりまえだ。」


始まる直前、西宮さんと市川さんが僕たちを見て手を振ってくれた。


後半がスタート。三組の猛反撃が始まった。ものすごい勢いで点差を詰めて行く。ただ、やはり何事もうまくはいかない。後二点差で攻撃はストップし、防戦一方になってしまった。隣で男子達が大声で応援している。僕は神様に願った。


お願いします、どうか彼女達に力を。


僕がそう願って目を開けると、西宮さんと目が合った。僕は心の中で、「あともう一息!頑張れ!」と叫んだ。


その瞬間、バシッと音がすると、ボールを持っていた五組の子の手は空になっていた。






西宮さんだ。それに反応した市川さんが互いにパスをしながら五組の砦を攻略して行く。五組の防御は固く、人で回しても崩れない。すると突然西宮さんは大きくジャンプした。スリーポイントシュートだ!


「入ってくれ!頼む!」










パシュッ。乾いたゴールの音がした。








「可恋ちゃん、茜ちゃん、お疲れ様!」


「西宮さんも市川さんも、とってもカッコよかったよ。」


「元気もらったぜ!」


「三人とも応援ありがと〜でも決勝負けちゃったなぁ」


「準優勝でも十分すぎるよ。お疲れ様。」


結局、三組は決勝でバスケ部が四人いる一組には負けてしまったけれど、大健闘である。


「次は美奈の彼氏の番だね!私たちも応援するぞ!」


「廉ちゃん、その…頑張れ!」


「美奈…」


二人はお互いを抱きしめていた。


「ウ、ウチらは空気かな…?」


「まぁまぁ西宮さん、二人の世界があってもいいじゃない。」


「廉也〜」とクラスの仲間の呼ぶ声がした。


「呼ばれたから、行ってくる!」


三組のチームには現バスケ部が二人、経験者が一人がいる。もちろん強かったので、軽々と決勝まで進んだ。


そして、決勝戦。対戦相手の七組が一点リードしたまま後半戦になった。七組には現バスケ部が三人もいる。それに…


「倉持玲央…なかなか手強い相手だな。」


相手のチームには倉持玲央もいる。彼の運動センスはさすがというものか、両組のバスケ部連中に負けず劣らずだった。


試合が動いたのは後半残り1分。美奈ちゃんが手を繋いできた。廉也が七組のディフェンスを抜かしていく。残るは倉持玲央一人。なかなかの鉄壁ぶりだ。


「なかなかやるじゃねえか。」


「僕も中学の頃はよく遊んでいたからね。」


そんなことを言い合いながら攻防を行っている。残り三十秒。今度は西宮さんが手を繋いできた。


「まずいよ!このままじゃ負けちゃう!」


「頼む…廉也!」


残り十五秒。僕の隣から美奈ちゃんの大きな声がした。


「廉ちゃん!がんばれーーーー!!!!」


その瞬間、廉也が玲央を抜いた。


そのままレイアップ。三組に二点が入った。







「さ、三組が逆転しましたー!!!」


ビー!!!と試合終了のブザーが鳴った。


「よっしゃああ!!!!」


美奈ちゃんが廉也の方へと走って行き、彼を抱きしめた。僕はというと、西宮さんに抱きしめられていた。なんで?


「ちょ、ちょっと!茜ちゃんだけまた!えいっ!」


「うわっ!?」


市川さんも抱きついてきた。前にも後ろにも柔らかい感触が…もうダメだ…


「おい!二越が抜け駆けしているぞ!」


クラスの誰かの声が聞こえた。その瞬間サッと二人は僕から離れた。


こうしてミニ体育祭は終了。結果は僕たちのクラスが優勝。まぁ、二位とは十点差しかなかったけど。今回の体育祭のMVPは廉也だ。後で精一杯お祝いしないとな。



これから起こることなど、この時の僕にはまだ分かるわけもなかった。

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