第16話 きよしこの夜
午後七時。僕は一人で広場にいた。真希に電話するためだ。
綾人「そろそろ電話するけど、いい?」
すぐに既読がついた。
真希「うん!こっちからかけるね~」
プルルルル…プルルルル…
「もしもし、真希?」
「もしもし、お兄ちゃん?元気?」
「うん、元気だよ。真希は大丈夫かい?」
「元気だけど…お兄ちゃんいなくてちょっと寂しい。家には一人しかいないし。」
「閉じまりはしっかりしてる?」
「ばっちしだよ~近くに可恋ちゃんたちいる?」
「ごめん、ホテルに戻っちゃってる。」
「ううん。むしろそっちのほうがいいの。お兄ちゃんさ、今日何かあったでしょ?」
「僕は特にないけど。」
「まぁ知ってるんだけどね。今日の美奈ちゃんと廉也くんのこと。」
「市川さんから聞いたの?」
「今日のことは茜ちゃんから。でも、前にお兄ちゃん達がファミレスに行く前日に、美奈ちゃんと LINEしてたら、好きな人いるっていったの。それで問いつめたら「廉ちゃんのこと好きだけど綾くんに辛い思いさせるから。」って言うの。だから私、「それはお兄ちゃんが決めることでしょ!」って怒っちゃった。我ながらやりすぎちゃったかなって思ったけど。ちなみに廉也くんも同じようなこと言ってきたよ。結果オーライなのかな?」
そうか、真希だったのか。美奈ちゃんと廉也を動かしたのは。真希がいなかったら、このまま二人がくっつくことなく進んでいったかもしれない。真希はやっぱりすごい。僕にはもったいないくらいの妹。
「真希、ありがとう。美奈ちゃんと廉也が付き合えたのはお前のおかげだ。」
「そうかな?私はお兄ちゃんが一番貢献してると思うけど。お兄ちゃんは自己評価低すぎるから。仕方ないね。」
「僕にだって自尊心はあるけどね。あ、そうだ。ビデオ通話にするね。」
「え、いいけど。どしたの?」
僕は外カメにして夜空を写した。
「どうだ、真希。そっちではこんな綺麗な夜空はなかなか見れないだろう。」
「うわぁ。すんごく綺麗。お兄ちゃん、あれ歌って。」
「あぁ。『きよしこの夜』ね。」
「久しぶり聞きたくなっちゃって。」
それはまだ真希が家に来て間もない頃の話。家族を失って一人になった上に、我が家に引き取られて混乱していたこともあってか、真希は毎晩うなされていた。僕のふとんに入って寝ていたが、やはり汗はびっしょりだった。
ある日の夜。
「綾人さん、私やっぱり寝れません。やはり私は迷惑をかけてしまいます。この家の人ではないのに。お邪魔になるだけです。」
僕は小学生ながらにも、真希がまだ自分はー人ぼっちだと思っているということに気づいた。
「真希ちゃん、僕たちはもう家族なんだよ。父さんも母さんも、僕も。だから真希ちゃんは一人じゃないよ。ほら、こっちにおいで。」
真希は抱きついてきた。
「私、家族になっていいの…?」
「うん。真希ちゃんは僕の可愛い妹だからね。」
僕はそっと頭を撫でた。真希は僕に抱きついたまま泣いていた。
「じゃあ今日はもう寝ようか。」
「うん…お兄ちゃん!」
僕は学校の音楽の授業で習った、『きよしこの夜』を歌ってあげた。歌い終わった時にはもうそれはぐっすり寝ていたけれど。
その日を境に、真希は元気になっていったし、両親のことも「お父さん、お母さん」と呼ぶようになった。両親は号泣していたっけ。それから一ヶ月くらいは寝る前に歌った。真希は嬉しそうにその歌を聞いていた。
「すぅ…すぅ…」
僕が歌い終わった時、画面の向こうで真希が可愛らしい寝顔で寝ていた。
「寝ちゃったか。おやすみ、真希。」
僕は通話を切って廉也の待つ部屋へと戻った。
「お、綾人。おかえり。遅かったな。」
「あぁごめんごめん、真希と電話してた。」
「大事な妹だもんな。」
「当たり前さ。」
「ちょうどサッカー始まるし、これ見て寝ようぜ!お菓子とかジュースとか買っといたから、遠慮なく。今日のお礼だと思ってくれ。足りんけど。」
「ありがたくいただく。」
サッカーは日本が四対一で勝った。裏で行われていた別グループの試合は一対一の引き分けだった。これでグループリーグを通過できるらしい。僕と廉也は結局感想を言い合っている途中に眠気に襲われてしまった。
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一方、女子の部屋にて。
「ねぇねぇ美奈ちゃん?告白されて、キスとかしちゃった?」
可恋の問いに美奈は顔を赤らめて頷く。
「うひゃー美奈たち大胆!!誘ったのはどっち!?」
「え、えとそれは…」
「そーゆー反応ってことは美奈ちゃんからってことだよね!?」
またまた頷く美奈。
「きゃー!美奈やるじゃん!!!」
「美奈ちゃんに先越された〜って美奈ちゃん?」
美奈はいつのまにか寝ていた。
「もしかして、美奈が頷いてたのはただのうたた寝…?」
結局真偽は曖昧になり、モヤモヤしながら寝る可恋と茜であった。
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