第15話(表)願う者
「「「着いたぞー!」」」
廉也、市川さん、西宮さんが叫んだ。
「まったく。廉ちゃん達は元気ねぇ。人の気も知らないで。」
「そういえば美奈ちゃん、今夜はどうするの?」
「夜に星の見えるところ…あそこの広場とかどうだろ。綾くんに廉ちゃんの誘導をお願いしたいんだけど…いい?」
「了解。また連絡するね。」
「本当にありがとう、綾くん。」
「美奈ちゃんには色々とお世話になってるから。」
美奈ちゃんの友達として、彼女が幸せになれるなら全力を尽くしたい。それは紛れもない本心だ。
「美奈〜綾人〜早くいくぞ〜」
「はいはい、今行くから!」
僕たちは今日から二日間ほどお世話になるホテルへやってきた。ロビーは見たことないほど大きいし、スタッフさんが何人もいる。
「二越くん、びっくり〜って感じだね。」
「うん。僕こんな広いホテル来たことないや。けど… 「なんか、ワクワクしない?」」
「あ、それ今言おうと思った。」
「へっへ〜ん心を読みました〜」
「うぐっ、綺麗に見透かされている…」
「コラッ!二人でイチャイチャすんな!」
「あれれ?茜ちゃん、どーしたのー?私はただ、二越くんと喋ってただけだよー?」
「ウ、ウチは可恋が綾人クンに変なこと吹き込まないか見てるだけだから。」
「またまた、可愛いんだから〜おりゃ〜」
「ちょっ!?やめろ〜!」
ファミレスの時以降、なんやかんや二人は仲良くなっていた。
ホテルに先に荷物が送られていたので、部屋に行って荷物を整理することになった。もちろん男女のフロアは違う。二人一部屋で、僕と廉也がペア。
「なぁ、綾人。ちょっと話したいことがある。」
「ん、どうした?」
「その、実は俺…」
「美奈のことが好きなんだ。」
「…うげぇ!そ、そうなのか。」
思わず変な声が出てしまった。
「すまん、本当はずっと隠しておくつもりだった。お前に悪いと思って。美奈を好きになるってことは、お前を置いてけぼりにするのと一緒なんだ。」
廉也もやっぱり僕のことを…あまりにも自分が情けない。親友二人の気持ちを抑えつけていたのは、僕だったなんて。
「廉也…僕は廉也も美奈ちゃんも大好きな親友なんだ。僕のことは気にしないで。」
「でも、それじゃお前が…」
「ううん、僕だって少しくらい友達は増えたし、廉也達とこれからも親友を続ける気しかない。だから今日の夜、想いをぶつけてこい。ただし、ヘタれたら絶対許さない。」
「綾人…お前は本当にいいやつだな…」
廉也がハグしてきた。これで彼も僕の呪縛から解き放たれた。
「美奈ちゃんには僕が連絡しとく。場所は来る時に見えた広場にしとく。あそこだと星も見えてロマンチックさ。」
「綾人…何から何まですまん。」
廉也、それはこっちのセリフだ…君たちを苦しめていたのは僕の方なのだから。とりあえず美奈ちゃんに連絡をっと。
綾人「廉也を例の広場に誘えたよ。」
美奈「本当にありがとう、今度お礼するね。」
綾人「お礼はカップルになってくれることでいい。幸運を祈るよ。」
よし。これで準備は整った。
「綾人〜そろそろ部屋出るけど準備できた?」
「あぁ、今行くよ。」
合宿初日の午前は、説明や荷物整理でほとんど無くなった。午後からはカヌー体験や、うちわ作りなど、楽しい経験ができた。体力がヤバいけど。
綺麗な夕日が差し始めた。夕食後八時までは周辺の散策が許されている。僕たちは五人で歩くことにした。
「なんかこの辺、自然って感じがして、ウチ好きだわ〜」
「西宮さんってこういうとこ好きなんだね。」
「うん、昔は友達と公園とか広場でよく遊んだよ。」
「私も引っ越す前はよく公園で遊んだなぁ」
「市川さんも?やっぱり子どもの頃っておのずと外に出たくなるよね。」
「廉ちゃんと綾くんはホントに元気すぎて、大変だった記憶があるなぁ。」
「俺たち毎日のように遊んでたからな。」
皆と喋っていたら、広場についた。そろそろ頃合いか。
「ごめん、僕ちょっとお手洗に行ってくるね。」
「私も行こうかな。ほら茜ちゃん、行くよ~」
不自然かもしれないけど、これで彼らを二人きりにできた。後は頑張ってくれ、二人とも。
僕たちは一足先にホテルに戻ってロビーで話していた。
「あの二人上手く行ってるかなぁ…」
「大丈夫。あの二人なら。」
「羨ましいなぁ…二人は昔から一緒だったんだよね…」
「まさか両思いだったなんて、僕全然気づかなかった。」
「稜人クンなら仕方ないね。」
「私も茜ちゃんと同感。」
僕はそんなに周りが見えていなかったのかな?二人から言われて否定できる僕ではない。素直に認めておこう。
「あ、二越くん!美奈ちゃん達帰って来たよ!」
僕は市川さんが指を差す方へと顔を向けた。そこには確かに廉也と美奈ちゃんが立っていた。二人は泣いていた。でも、
二人の手はしっかりと繋がれていた。
二人はそのまま僕の前まで来た。そして、
ぎゅっ。
僕を優しく抱きしめてくれた。理由は分からないけれど、涙があふれてきた。僕が泣きやむまで二人に抱きしめられていた。たまたま口ビーにいた園井先生が写真を撮っているとも知らずに。
無意識のうちに感じていた壁に、初めてひびが入った気がした。
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