第14話 合宿までの道

「それじゃ、いってきます。」


「うん、いってらっしゃい!」


今日から二日間、僕たちはレクリエーション合宿に行く。真希には寂しい思いをさせてしまうが、真希は笑顔で送ってくれた。


「ねぇお兄ちゃん、夜電話してもいい?」


真希が僕の袖をちょこんとつまんだ。妹だけど、やっぱり可愛い。


「いいよ。だけど、僕が連絡するから待っててくれるかな?」


「うん!お兄ちゃんとの電話~えへへ~」


「じゃあね、真希。」


「は~い。電話忘れないでね~」


移動用のバスが停まっている駐車場につくと、既にみんなが来ていた。バスの座席は、左から美奈ちゃん、廉也、市川さん、僕、西宮さんである。クラスで五人班が僕たちだけだったので、後方の五人席を使わせてもらった。


「行きは何する?トランプとかワードウルフとか?」


「ワードウルフいいね!それやろ!」


廉也と西宮さんの意見でワードウルフをやることになった。


「私がゲームマスターやるね。」


「お、美奈ありがと。いつもこういう時は美奈がやってくれるな。二回やったら交代しようか。」


「そ、そんなことないよ。じゃあ今日は廉ちゃんのお言葉に甘えさせてもらおうかな。」


美奈ちゃんは恥ずかしそうにしている。そう、合宿は美奈ちゃんにとって山場なんだ。でも、廉也の方はどうなんだろうか。上手くいくといいけど…


「どうした綾人?苦しい顔して。酔い止めならあるぞ?」


「あぁ、廉也ありがとう。僕は大丈夫、続きをやろう。」


その後ワードウルフは案外盛り上がり、一時間ほど遊んで終わった。まだ合宿所までは時間があるが、僕と西宮さん以外の三人はぐっすり寝ている。


「ねぇ綾人クン、前に聞きそびれた市川さんとの出会いについて教えて?」


「あぁいいよ。そんな大したことじゃないけどね。あれは中学二年生の五月だったな…」







中学二年生の五月、当時二年三組だった僕、廉也、美奈ちゃんは、『三組に転校生が来る』という噂について話していた。


「どんな奴なんだろうなあ。コテコテの関西人とかありそうだな。」


「いやいや、天才の帰国子女だと思うよ 。」


「廉ちゃん、綾くん、転校生に偏見を持っちゃだめよ。だいたいこういう時は笑顔が素敵な美少女が来て学校の男子たちを虜にしちゃうんだからっ。くそっ。」


「美奈ちゃん、あなたが一番偏見持ってますよー」


「あれ、私そんなひどいこと言ったかしら。」


「「はははっ」」


ガラガラガラ。


「よーしお前ら席につけー。今日からお前達に新たな仲間が増える。じゃあ入ってくれ。」


先生にそう言われて入ってきたのは、美奈ちゃんの言った通りの女の子。笑顔が素敵な美少女で、男子たちを虜にするような美しさだ。クラスの数人の男子から、「おおっ。」という声が漏れた。


「今日から二年三組に入ります、市川可恋です。よろしくお願いします。」


「そんじゃあ、あそこの席に座ってくれ。」


そう言って先生は指を指した。指した先は…僕、の隣?え!?なんで!?


「隣は二越だな、頼んだぞ。」


「あ、はい…」


「よろしくね、二越くん!」


「う、うん。ようしく。」


「俺は柳原廉也だ。」


「市川さん、私は金子美奈。二人の幼駲染み。私のことは美奈でいいよ。」


「よろしく美奈ちゃん。私も可恋でいいよ。」


そうして僕たちは一緒に行動することが多くなった。修学旅行も四人で班を組んだし、文化祭も四人で行動した。市川さんはクラスになじんでいたから僕たちは気づかなかったけれど、他クラスの男子からかなり告白されていたみたい。それが問題を引き起こした。


ある日の放課後。僕は部活終わりの廉也と一緒に体育館の閉じまりをしていた。


「ちょっと!アンタ隆志たかしに何色目使ってんのよ!」


パシッ!渇いた音が響いた。


「何だ今の!?おい緵人、方向分かるか?」


「倉庫の裏の方だ!いくぞ!」


僕と廉也は音のした方へと向かった。








そこには、他クラスの女子と泣いている市川さんがいた。


「おい。何で市川さんが泣いているんだ。」廉也が言った。


「なんでって?こいつが私の彼氏を盗ったからちょっとぶっただけ。」


「盗った?何言ってんだ。んなことするわけないだろ。」


「私の彼氏、陸志はこいつが転校して来てからずっとこいつの事を目で追ってた。しまいには、こいつのことが好きになったから別れるって。あなたたち…よく見たらいつもこいつと一緒にいるやつらね。どうせあんたたちもこいつの虜なんだからいくら話しても無駄ね。それじゃ。」


「ちょっと待ってください。」


「何?モブごときが。」


「ぐっ!モブ…じゃなくて、これ!」


僕はポケットにひそめていたスマホを取り出した。


『おい。何で市川さんが泣いているんだ。』


『なんでって?こいつが私の彼氏を盗ったからちょっとぶっただけ。』


「っ!な、なによそれ!早く消しなさい!」


「消してもいいけど条件がある。」


「な、なによ。」


「まず、この場で市川さんに謝罪すること。それとこれ以上彼女を恨むのをやめることです。」


「わ、わかったわ。さっきはやりすぎたわ。ごめんなさい。」彼女は素直に謝罪した。


「君は美人さんだから、きっと良い人が見つかるよ。それに辛かったら周りを頼った方がいい。まだモヤモヤするなら僕でいいなら聞くから。」


「私はあなたたちの友達にひどいことをした。そんな権利はないわ。」


「何言ってんだお前。とりあえず今日から俺たちとお前はダチだ。市川さんが許すかどうかは分からんがな。」


「私は許すよ。彼女もきっと辛い思いをしたはずだから。」


「とんだお人好しね。私は黒瀬彩、よろしく。」






「ということがあったんだよ。」


「なるほどね。美少女ゆえに辛いこともあるんだね。てかその女は今どこに?」


「別の高校。時々市川さんと遊びに行ってるらしいよ。」


「一度に二人を救っちゃうなんて綾人クンはすごいねえ。」


「僕にできることをしただけだよ。」


「お前らーもうすぐ着てから寝てるやつ起こしてくれ。」


先生がそう言ったので廉也たちを起こした。廉也は寝ぼけていたのか「合宿終わっちゃった!?」と焦っていておもしろかった。






さぁ。合宿の始まりだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る