第13話 波乱の買い物デート

西宮さんとの買い物デート当日。

僕たちはショッピングモールで待ち合わせをしていた。僕は西宮さんを待たせてはいけないとばかりに、三十分前に来た。とりあえず西宮さんが集合場所にいなかったことに安堵しつつ、今日の買うものリストに目を通していた。

すると突然、目の前に顔が現れた。


「うわっ!ちょっと驚かさないでよ、西宮さん。」


「あははっ。ごめんごめ〜ん。」


西宮さんは白のロゴTシャツに、黒のロングスカートを履いていた。普段の学校の雰囲気とは違うというか、大人な女性感が溢れていた。不覚にも、見惚れていた。


「綾人クンぼーっとしてるけどだいじょぶ?」


「え、あ、その、普段とは違って大人に感じで、見惚れてました…」


僕がそう言うと、西宮さんの顔がパァっと明るくなった。


「あ、ありがとう!綾人クンもその服かっこいいよ〜」


うぐっ!美少女にそう言われると嬉しさのあまりダメージが…


「褒めてくれたお礼に…えいっ!」


手にやわらかな感触がした。手を握られている。


「え!ちょっと西宮さん!?」


「今日はデートなんだからこれくらい普通です。」


「僕たち恋人でもないけど…」


「友達でも繋いじゃダメなの?私じゃ嫌?」


そんな目で見つめられたら耐えられませんよ…


「わ、わかった。今日は仕方ないな。」


「仕方ないって何よ〜むすっ。でも繋いでくれるならそれでいいよ!」


こうして波乱の買い物デートは始まった。


なんやかんや午前中は順調に買い物を済まし、僕たちは昼ご飯を探していた。なお、その間も手は繋がれていました。


「綾人クンは何か食べたいものある〜?」


「ん〜パスタとか?」


「あ、いいねいいね〜それじゃそれにしよ。」


そうして僕たちはパスタ屋さんに入った。僕が頼んだのはもちろんカルボナーラ。パスタ界ではこれが最強である。(綾人調べ。)西宮さんはたらこパスタを頼んでいた。


「綾人クン、一口どーぞ。はい、あ〜ん。」


!?!?!?!?!?超特殊レアイベントかこれは!?僕は混乱しすぎて目の前に差し出されたパスタを食べた。


「うん。やっぱりたらこも外せないね。」


あれ?西宮さんが顔を真っ赤にしている。なんで?僕はただ差し出されたパスタを…ん?あのフォークは誰の?……………あ。


「西宮さんごめん!その、新しいフォーク持ってくるから。」


「待って。綾人クンも私にあーんしてない。」


「え、僕もするの?」


「しないと変なことされたって学校で言いふらす。」


「ひ、ひぃっ!わかった。やるからそれだけは勘弁してくださいお願いします。」


「わかったなら良し。」


「それじゃ、あ〜ん。」


ぱくっ。西宮さんは顔を真っ赤にしながら食べた。可愛い。


「私は別にこんなこと気にしてないから。」


「そ、そうか。なら安心だ。」


君が良くても僕が大丈夫じゃなかった。危うく恥ずか死するところだった。

店を出た後も、西宮さんは手を繋いできた。断る理由もないので、素直に繋ぐことにした。


「そういえばさ、綾人クン。市川さんとどう言う関係なの?」


「あぁ。それはね…」


と、僕が言いかけた言葉は大きな声によって遮られた。


「え!お兄ちゃん!?」


「え!?真希!?どうしてここに!?」


「どうしてって、可恋ちゃんと一緒にデートしてただけ。むしろ、お兄ちゃんその隣の女、誰?ちゃっかり手繋いでるけど。」


そう指摘されて慌てて繋いでいた手を離した。


「こんにちは。ウチは綾人クンの友達の西宮茜です。」


「友達?それだけなのに簡単に手繋いでたね。見た感じギャルだし、お兄ちゃんを騙すつもりなの?」


「こら。真希、言っていいことと悪いことがあるんだぞ。」


「綾人クン、いいの。ええと…真希ちゃん?誤解を生むようなことをしてごめんなさい。」


西宮さんが頭を下げた。


「西宮さん、悪いのは真希で…」


そんな僕の言葉を聞かず、西宮さんは続ける。


「でもね、真希ちゃん。ウチ本気だから。」


西宮さんの瞳は真っ直ぐ真希を見つめていた。


「…っ!そ、そうなのね。でも、まだ認めたわけじゃないわ。」


「じゃあ認めてもらえるように頑張る。連絡先だけ交換しとこ。」


「そうだね。」


初対面だというのにもう二人は連絡先を交換していた。さっきまでバチってなかったか?コミュ力の塊が二人揃うとすごいんだな。


「あれ?二越くんと…茜ちゃん?」


まずい!市川さんが来てしまった!


「あ、可恋ちゃんおかえり!この人知り合いだったの?」


「え?あぁそうだよ?茜ちゃんは私たちのクラスメイトだよ。」


「そっか。茜さん、さっきは酷いこと言ってごめんなさい。」


「西宮さん、本当に妹が悪いことをした。僕からも謝る。ごめん。」


「いいのいいの。真希ちゃんと繋がれたし結果オーライってことにしとこーよ。」


「それより茜ちゃん?なんで二越くんと一緒にいたの?まさか抜け駆け?」


「ぐぎっ!そ、それは…」


西宮さんが狼狽えている!ここは僕から説明を…


「おい!綾人たちじゃん!」


「え!?美奈ちゃんと廉也!?」


そこには私服姿の二人がいた。こんなに広いショッピングモールでどうしてこうも鉢合わせするのか。


「あれ?美奈が綾人達は予定が合わないって…」


あー、その一言で察した。多分美奈ちゃんは廉也と二人きりで行きたかったんだろう。


「あわわ…」


美奈ちゃんがパニクってる。ここは彼女のためにもその場しのぎをしなきゃ。目配せで真希に合図を送る。


「あはは…お兄ちゃんと私でショッピングモールに来てたの。そしたらたまたま一緒に買い物してる二人を見つけて…って感じ。」


「なんだぁ、予定って買い物かぁ。それじゃ一緒に回ろうぜー」


ありがとう真希。そして廉也、騙すような形になってしまってごめん。


その後はみんなで買い物しながら会話を楽しんだ。流石に西宮さんは手を繋いでこなかった。ちょっとだけ期待してた自分が馬鹿みたいだ。勝手な期待をしたら良くないことはわかってるのに。


—————————————————————


みんなと別れて、僕は真希と一緒に帰った。真希がどうしても手を繋いで帰りたいというので、そうすることにした。兄弟だから問題ない。


その夜家で宿題を片付けていた時のこと。


「お兄ちゃん、今日の晩ご飯何がいい?」


「んーお昼はパスタ食べたしなぁ。魚とかは?冷蔵庫になかったっけ?」


「お魚ならあるよ。じゃあ今晩はそれだ!」


「なんか手伝うことある?」


「じゃあにんじんの皮剥くの任せた!」


「了解。」


僕はピーラーを手に取ってにんじんの皮を剥いでいく。


「お兄ちゃん、なんか新婚夫婦みたいだね。いつかは…」


『ピンポーン』


「あ、ちょっと出てくるから。真希は料理頼む。」


「う、うん。」


波乱の買い物デートの日は余韻を残したまま終了した。





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