第11話 美奈のカミングアウト

中間テストが終わった。ウチの学校では、五十位まで順位が張り出されるのだ。僕は廉也達と見に行った。


    一年 中間テスト 順位表


   一位 倉持玲央 830/900

         ・

         ・

         ・

         ・

   十位 二越綾人 792/900


「二越くん!あったよ、あった!」


市川さんが嬉しそうに指を指している。やめてくれ。周りの視線が痛い。羞恥で瀕死になってしまいます。


「わ、わかったから落ち着いて…」


「綾くんはすごいね〜私は二十位だった。」


「美奈ちゃん、それはもう誤差の範囲なんだけども。」


「二越くんも美奈ちゃん凄すぎる〜」


「綾人〜お前のおかげで最下位回避だぁ〜」


「廉ちゃんそんなんで喜んじゃダメだからね?もっと上げないとバスケのレギュラーも勉強が理由で取れなくなるよ?」


「は、はい…」


廉也はもう美奈ちゃんに逆らえませんね。お疲れ様です。


「そうだ、綾くん。帰りにちょっといいかな?」


「あぁ、あのことね。了解。」


そう、勉強会の日に取り付けた相談を受ける時が来たのだ。


—————————————————————


放課後。廉也と市川さんには先に帰るように促しておいた。僕と美奈ちゃんは誰にも聞かれないように、屋上に来ていた。


「それで?相談って?」


「あ、うん。綾くん、私、実はね…」















「廉ちゃんのことが好きなの。」






「!?」


いや、驚いた。驚きすぎてとんでもない速さで振り向いた。まさか美奈ちゃんが廉也のことを好きだったなんて…


「綾くん、昔から私たち、三人でいたでしょ?」


「うん。それがなにか問題でも?」


「廉ちゃんがどうかはわからないけれど、私たちがもし本当にお付き合いしたら、綾くんを一人にさせてしまうかもって。二人きりの時間が多くなったら、三人の仲悪くなっちゃうかまって…それで、それでね…」


美奈ちゃんは泣いていた。僕は気づかなかった。彼女が僕に気を遣って自分の好意を心にしまっていたこと。彼女が僕たちの仲を大切にするために自分を犠牲にしていたことに。友人として、情けなさを感じた。それでも。


「美奈ちゃん、本当にありがとう。そして今まで僕のせいで縛っててごめん。」


「でも、綾くんのせいじゃないよ…」


「ううん。僕のせいだ。こんなに優しい友達の苦しみに気付かなかった。美奈ちゃん、本当にありがとう。僕は美奈ちゃんに幸せになってほしい。僕のことがどうこうとかじゃないと思う。自分の幸せは素直に願っていいんだよ。それに、美奈ちゃんと廉也が付き合っても、僕は二人と友達をやめるつもりはないし、これからもさらに仲良くなりたい。だから、僕は美奈ちゃんを応援するよ。」


「うぇ…ぐすん……ありがとう、綾くん。私、頑張るから。」


僕は彼女の手を握った。小さくて柔らかい手だったけれどどこか覚悟を決めた感じがした。


—————————————————————


美奈ちゃんを家まで送って、自宅へ歩いていると、私服姿の市川さんがいた。


「あ、二越くん!美奈ちゃんと何話してたのー?」


「え、あぁ、うーんと、テストの話。」


「へぇー?なーんか怪しいけど、余計な詮索はやめておくよ〜」


「そうしてくれると助かるかな。」


「なんで助かるのー?」


「今余計な詮索はしないっていったよね!?」


「はいは〜い、じゃあ私用事あるからこの辺で〜」


「うん、また明日〜」


市川さんは手を振って去っていった。流石に美奈ちゃんの件は誰にもいうわけにはいかない。それにしても、美奈ちゃんが廉也のことが好きだったなんてな〜いつからだったんだろう。でも、彼女が打ち明けてくれたからには応援しよう。


—————————————————————


「ただいま〜」


………あれ。返事がない。


「お〜い、真希〜?」


恐る恐るリビングのドアを開ける。


あ、置き手紙だ。


『       お兄ちゃんへ。

  今日は美奈ちゃんとご飯を食べにいってきます。なので冷蔵庫に入ってるおかずをレンジ

にかけて、自分で食べてください。無事生きてることを願います。


P.S お兄ちゃんにしてはよくやった。  』


なるほど。美奈ちゃんと食べに行くのね。でも、この追伸なんだ????まさか今日のことか????わけわからんな。とりあえずご飯は食べておかなきゃな。


—————————————————————


「真希ちゃん、やっぱりお兄さんはとってもいい人だよ。」


「そんなのわかってるよ。それより、これでようやく第一歩だね。」


「うん。私本気で頑張る。」


「ねぇ美奈ちゃん、頑張るってどう頑張るの?好きアピールを増やすとか、ボディタッチを多くするとかってこと?」


「……ええと、その、何にも考えてませんでした。」


「美奈ちゃんって昔からよくわかんないとこで抜けてるよね。まぁ安心して。私が美奈ちゃんをプロデュースして、廉也くんのハートをガッチリ掴めさせてあげるから!」


真希は拳を高く上げた。


「真希ちゃんはほんとに綾くんに似てて頼りになるね。」


「血は繋がってないけどね…」


「私が終わったら次は真希ちゃんの番かもね?」


「わ、私!?す、好きな人なんかいないし。」


「バレバレだよ。ふふふっ。」


そんな乙女たちの会話は、綾人には全く届かないのであった。

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