変化する関係
第8話 いつかの君
ある四月の夜。僕、二越綾人は夢を見ていた。それは夢だったけれど、懐かしい思い出でもあった。それは、いつの日か心にしまった悲しい記憶。
僕がまだ小学生のころ。
公園で女の子が泣いていた。僕と同じくらいの子だ。
「ねぇねぇ、泣いているけど何かあったの?」
「うぇっ…ぐすっ…あのねあのね、うちのトパーズが死んじゃったの。ぐすっ…」
「とぱーず?」
「うん。お家で飼っているワンちゃん。私が生まれた時からずっと一緒だったの。」
「そっか。それは悲しいよね。それじゃあ…お墓を立ててあげよう。そしたら天国のトパーズも喜ぶよ。」
「うん!お墓、立てる!」
「じゃあ決まりだね!そういえば、君の名前は?西小学校じゃないよね?」
「私は東小学校の二年生。私—————っていうの。よろしくね!」
「僕は西小学校。君と同じ二年生の二越綾人だよ。よろしく。」
「あやと…じゃあ、あーくんだね!」
それから僕たちは何度も公園に足を運んで墓を立てた。お互いの学校の話をしたり、好きなアニメの話をしたりして盛りあがった。僕は廉たちともよく遊んでいたが、彼女と遊ぶのは違う楽しさがあった。お墓の周りには僕たちが会うたびに花が増えた。お墓の周りを花が囲んだら完成ということにした。
そして、お墓が完成した次の日。いつものように僕は公園についた。彼女は既に公園にいた。いつもは僕のほうが早く公園にいるのに。僕はもっと早く気づかなければならなかった。しかし、残念ながら幼い僕はそんな鋭い感覚を持ち合わせていなかった。
「——ちゃん。今日は早いね。」
「あ、あーくん…」
「今日は何して遊ぼうか?ブランコとかジャングルジムとか。」
「あのね、あーくん…」
彼女はどこか寂しげな顔をしていた。
「どうしたの?」
「あのね…その…」
「あーくんとは、今日でお別れなの…」
「……へ?」
彼女の言ったことが、僕には理解できなかった。というよりもしたくなかった。ずっと続いていくものだと勝手に思っていた。
「私の家族ね、お引越しするの。だからここにはもう来れないの。」
「引越し?もうずっと会えないの?」
僕の声は震えていた。
「ううん、きっとまた会えるよ。願い続ければ、きっと叶う。」
「そっか。また会えるよね。」
「うん。だからバイバイじゃないよ。またね、あーくん。」
そう言って彼女は僕に近づいて、
ちゅっ。
右頬にやわらかな感触がした。
何が起きたのか分からなかった。彼女はすぐに走り去った。僕はしばらく棒立ちになっていたけれど、その後すぐに家に帰った。
家に帰ってからは僕はずっと泣いていた。まるで最初に会った時の彼女のように。僕は知らなかったけれど、彼女は知っていた。別れの辛さを。そして彼女の覚悟を僕は知った。
彼女と会えなくなる辛さが僕の心を支配していたのと同時に、彼女が僕にとっていかに大きな存在だったか気づいた。たった二週間の付き合い。でも僕には関係無かった。そう、僕は…
彼女に恋をしていた。
それに気づいた時にはもう彼女はいなかった。
そうして僕、二越綾人の初恋の幕は閉じた。
—————————————————————
懐かしい夢だった。
まだ名前を思い出せない。
僕の心がブレーキをかけている。思い出してもまた辛くなるだけだぞ、と。
いつか会えるといいな。いや、会える。と信じよう。だってそう彼女が言ったのだから。
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