二 意外な性格
「吸血鬼」
智樹は常盤が口にした台詞をただ繰り返した。
「吸血鬼って、あの?」
昨夜もテレビでやっていた。近年政府が認めた新人類。
血液が主食であるらしいニュータイプ。不老の体を持ち、力が強く、五感が鋭い。
伝承の吸血鬼と似ているが、いくつか違うところもあるという。
そういえば、キスで精気を奪えるらしいと聞いたことがある。
でも確か…
「吸血鬼って確か血液パック支給されるんじゃ…」
「そうだよ。正しくは支給じゃなくて、安価で販売されてるんだけどね」
「じゃあ、なんで…?」
どう見ても、今の彼女の態度は恋人との逢瀬というよりは、食事に近いものだった。
真っ暗な中で、女の子を襲っていたのだとしたら、当然非難されてしかるべきことだ。
眉を寄せて、半ば睨みつける智樹に、常盤は慌てたように左手を振った。そして、片手で平然と少女を抱え上げる。
「いやいや、ちゃんと同意の上だよ。というより寧ろ彼女から言い出したことだ。告白を断ったら、せめてキスしろって言われてね。そこまで言われたら据え膳は喜んで頂くさ」
ならなんで、こんな真っ暗な中で?
首を傾げる智樹の疑問に、常盤は頰を掻いた。
「いやあ、夢中になってたら時間を忘れてしまってね。気づいたら真っ暗だったわけさ。私たちは夜目も利くから、余計に気づかなくて。まあ彼女には貪りすぎて悪かったと謝っておくよ。もうすぐ目覚めると思う」
悪びれることなく、常盤は言った。
実際まあその程度なら過失だろう。あとは起きた本人が許せば、問題にすらならないことだ。
智樹は警戒をといて、呆れて笑った。あの常盤時雨がこんな奴だったとは思わなかった。フった相手に手を出すとか、こいつ倫理観とかないのかよ。
智樹はふと校門から見かけた常盤のキスシーンを思い出す。
「あ。あれもそうか?この間駐輪場裏で男とキスしてたやつ」
常盤は一瞬キョトンとして、そして照れたように笑った。
「あれも見られていたのか。まあそうだよ。これでも吸血鬼だからね。物珍しさからか、あちこちから声がかかるのさ。田舎だから話も広がりやすいしね。むしろ、君が知らなかったことに驚いたよ、恩田君」
いや、あれもかよ。倫理観どこいったんだ?こいつ。
呆れた目を向ける智樹に、常盤はある言い訳をした。
「知ってるかい?血液パックって、私たちに回されるのは古いものだから、不味いんだよ。主食が不味いって結構精神にくるんだ。だからつい、たまにこうしてご好意に甘えてオヤツを摘んでしまうわけさ」
常盤の言い訳に智樹は納得しかけて、しかしまたも首を傾げた。主食っていえば。
「ん?そいや、なんで血を吸うんじゃないんだ?」
智樹の質問に常盤は今度こそ肩を強ばらせた。
不味いことを聞いたらしい。
「いや、彼らもおやつになってることは知らないからね」
ああ、そういう…。つまり、彼らに了承は得てるがおやつ扱いしてることは知らない。だから、吸血は頼みづらいってことか。
まあ互いのために言わないのが吉だよな。
智樹が納得している様子なのに、常盤は安心したように笑った。
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