幕間 〜レガの血族とその実態〜

『調査報告

 対象:戦鬼レガ=帳歩とばりあゆむ

    ヴァンパイア 新井動矢およびルーシー・桜樹 計二名

    

 調査時刻:3月13日 11時50分  開始

      3月13日 12時40分  終了

 場所:東京都港区芝浦×ー×〇ー× 港警察署内

 方法:対象者の協力を得た上での検証。

 目的:海外の戦鬼とも呼べるヴァンパイアの生態調査 

    ヴァンパイアが、戦鬼と同質の力を会得した仕組みの解明


 はじめに

 零破の時代に入ってから、世界のあちこちで、これまで秘匿されてきた常識はずれな生物が点在するようになってきた。それは、先人たちの人生を懸けた尽力のおかげで表面化することのなかった問題なのだが、ここにきてその均衡が壊れ始めているように思える(紐解いて考えれば、何百年前には既に壊れているようなのだが)。

 今回、日本に出現した謎の生命体ーー文字通り闇に包まれた存在との戦いを契機に、新たなる戦鬼が誕生した。つい先日も、特務三課の協力者である戦鬼レガの継承者である帷歩が、原初の人格を蘇らせ、且つ自身も新たな戦鬼として覚醒したばかりであり、次第に状況の変化が起こっているようである。これを受け、イタリアに住むイタリア版戦鬼とも呼べる存在、『ヴァンパイア』からの提案があり、世界に散らばる戦鬼を集結させ、今、この世界で起こっている異変について、それが確かなものかどうかも含めて、情報共有を行うこととなった。いわば、戦鬼版のサミットというところだ。

 このレポートは、その戦鬼のサミットに臨む前に、我々が得た情報を改めて整理するためのものとなる。情報共有の窓口となった筆者自身、直接ヴァンパイアを目にするまでは、半信半疑だったものだが、こうしてその存在を確認した(方法については、別途報告することとする)以上、細かな報告は必須と考え、今回の報告をまとめるものとする。

 焦点に当てるべきは、現時点で大きな変化を見せている戦鬼――その起源になっていると思われる、戦鬼レガの家系の人物。今回、取り上げる人物は、苗字こそ異なるが、その大元はレガに連なっていることは、戦鬼ルーガを証人とすることで立証されている。

 急速に変化を遂げている、鬼の生命体。その変化の兆候とも取れる新たな力に目覚めた戦鬼の情報を、ここに記録するものとする。



一)透明の戦鬼 〜トウキ〜

人間態:帷歩

鬼道:他の戦鬼の能力を一部、コピーし、自分のものとする。

   仮称「浄化」→詳細不明だが、オロチの邪気を無力化する能力をもつ。

   レガの召喚。

 ※それぞれの戦鬼がもつ特殊能力を指す。

型:不明(強いて言えば、ヤシャ型に近いが、詳細は不明)


 ヤマタノオロチとの交戦中に発現したと思われる、帷歩の能力の仮称であり、それらの総称。見た目こそ、普通の人間と相違ないが、発揮される能力の数々は、明らかに戦鬼のそれに近い。厳密には、交戦直前の出来事だと本人から証言されたが、その時に彼の先祖に当たる青江氏からの助力を得ることができるようになり、それを契機にこの能力が発現したのだろう、とのこと。しかし、確実に言えることは、このトウキとしての能力を覚醒させて以降、これまではヤマタノオロチの影響に怯えるしかなかった戦鬼たちの認識は大きく覆ることになった、ということだ。


 少なくとも、ヤマタノオロチの力を宿した勾玉(戦鬼の力の中核)を持った戦鬼は全て、彼のもつ浄化の力を受けて暴走のリスクを排除してもらった状態にある。話によれば、簡易的な治癒も可能とのことだが、あくまで応急処置レベルのものであり、且つ「効果に反して多大な妖力を消費する予感がビンビンする」とのことであり、コストパフォーマンスは劣悪なのだという。つまり、万能ではないということか。


〇他者の能力のコピーについて

 は、他に実例がないため未知数な部分はあるが、察するに鬼道の一部をコピーできるものと思われる(つまり、戦鬼の鬼道を司る『剣』に影響を与える仕組み)。レガ変身時に能力を行使する際には、鬼道の本来の持ち主である戦鬼の特色が表面化ーー肉体の色が変化するという特徴がある。特に、イオについては、彼女から能力の媒体となる腕輪を譲渡されているため、より応用が利くようになっているようだ。


〇レガの召喚

 帳歩自身が独立した戦鬼となったこと、且つレガ本来の人格である紅郎氏、その妻である青江氏両名の精神が覚醒したことで、妖力を糧にすることで本来の姿と力を取り戻すことが出来るようになった。

 活動限界が実質的な本体である帷歩の能力依存となっていること、あまり離れることが出来ない、といった制限はあるものの、最強の戦鬼の力を発揮できるようになったことは、最大の恩恵と言えるだろう。それゆえに、プライベートでは色々苦労はあるようだが、そこは当人同士の問題であり、何事にも「影響」というものは存在するため、多少は頑張ってもらいたい。それだけ、原初の戦鬼の力と知識は大きな助けになる。


 覚醒したばかりであるため、帳歩自身も、己のスペックを把握しきれていないようだ。それは、裏返せば可能性に満ち溢れているということを意味する。

 世界情勢を考えると歓迎は出来ない状況だが、今後も戦いを通じて、何か新事実が判明する可能性がある。新たなる敵が現れたということで、今後も帷歩とは協力関係を継続する必要があり、彼もそれを了承してくれた。その恩返しも兼ねて、引き続き彼の成長をサポートする義務が、我々にはある。



二)ヴァンパイア

 この度、サミット招集のメッセンジャーを務めた新井動矢とルーシー・桜樹の両名に協力してもらい、簡単な検査を実施した。そこで判明した性質をまとめる。


〇生態

 結論から言えば、概ね戦鬼と変わりはない。彼らが『魔力』と呼称する己の力の源は、日本で生まれた戦鬼の『妖力』と完全に一致していることが判明した(※以降も、使い分けによる混乱を避けるため、呼称を妖力に統一する)。

 強いて挙げれば、次の点に差異があると言えるが、その影響の大きさは今のところ不明である。


 ・生物としての仕組みを書き換えた存在

 ・血を力の媒体とする


 今後、サミットに参加すれば、より詳細な情報を得ることが出来る可能性があるため、その時に改めて報告を行うものとする。


 ※固有の能力

  戦鬼同様、ヴァンパイアにもそれぞれに用意された個性のような能力が付与されている。

・『未来視』 使用者:ルーシー・桜樹

 三秒後の未来を確認することが出来る。

・『鼓動』 使用者:新井動矢

 特殊な心臓の動かし方を通して、特定の利用に特化した妖力の使用法(瞬発力の強化、妖力の放出等)。

 


三)鉄血鬼

人間態:新井動矢

 型:モノノフ型(ヴァンパイアに戦鬼にカテゴライズするのもおかしな話だが)

能力:特殊な心臓の動かし方によって、様々な強化や妖力の動かし方をする。


 イタリアの戦鬼として覚醒したはずの新井動矢が、帷歩の血を摂取したことで、モノノフ型の戦鬼を模した姿。例えるなら、戦鬼ルーガのような等身大の姿になったレガ、とでもいうべきもの。同じ祖先を持つ者同士、はとこの関係にある二人の血の繋がりによって生み出された奇跡の産物とでも呼ぶべき力の発現。おそらくは、レガの因子のようなものが帳歩の体内の血液に含まれるようになり、それを取り込んだことで新井動矢の肉体にも同様の変化をもたらしたものと考えられる。

 元来、ヴァンパイアの力に加えて、レガと同じ力を発揮することが出来るようになったことで、戦闘力が飛躍的に向上している。武器の生成までは出来ないようだが、現時点ではまだまだ未成熟な能力になるため、今後の成長次第では可能になるかも知れない。

 反面、妖力の消費が著しいことが課題となっており、これを克服することが、目下の課題とされている。



 最後に

 血の繋がりとは不思議なもので、似通った性質をもつ者同士が組み合わさることで、新たな可能性が芽生えたというのが、今回の事例に該当する。性質は似通えど、それぞれルーツが異なる戦鬼とヴァンパイア、その両方の資質を兼ね備える新井動矢の存在は、鬼という生命体に革命をもたらした。これは、戦鬼という生命体に新たな可能性を示した帳歩同様、興味深い研究対象になるだろう。

 そう遠くない未来、地球に住む鬼が集結する機会が訪れることになる。

 その時、彼らの存在が、全ての鬼たちの目にどう映るのか、見届けるつもりだ。



 戦鬼ハクオウ 白峰しらみね加世子かよこ




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