第6話 ハイブリッドはとこ

 〜3月13日 12:56 港警察署〜


 正体不明の敵との交戦後、その件の報告も含め、動矢とルーシーが来訪した目的についての説明が行う会議が開かれた。原初の戦鬼にして歴史の生き証人とも言える戦鬼ルーガこと蒼井蓮司は欠席だったが、あの正体不明の敵に関する情報はもっていないこと、イタリア行きについては酒井の判断に委ねる旨のメールを寄こしていたという。

 詳細は置いておくにしても、全貌がよくわからない鬼という存在に対する理解を深める絶好の機会ということで、特務三課は参加することに対しては前向きの姿勢を示し、会議は終了となった。

 それだけのことを確認できればいいだけの話なのに、突如現れたという謎の生物――仮称『アンノウン』の対処をしなければならなくなった。自分達に落ち度はないにしても、不運を慰めるぐらいのことはしたかったのだろう。


「なんか、すまないな」


 会議終了後、酒井がため息と共に、動矢とルーシーに対して労いの言葉をかけた。


「い、いえ。こっちも、まさかあんなことになるなんて思いませんでしたし」

「しかし、あれは一体何なのだろうな? ……繰り返しになって申し訳ないが、君たちも知らないのだろう?」

「はい、残念ながら」


 ルーシーが、重苦しいため息をつく。


「あのような生命体と交戦したなんて記録、聞いたことがありません」

「カスケットなら、何か知ってそうだけどね」


 動矢は眉を顰めながら、あの時のアンノウンの戦闘を思い返す。

 あの黒い桃太郎軍団の力は、ヴァンパイアのそれを上回っている――直感でそう感じていた。もしも、あのアンノウンがイタリアに現れたとして、自分達組織のメンバーが全員集合することで、ようやく倒せる敵なのではないか? と思ったくらいだ。ヴァンパイアの魔力、戦鬼の妖力が有効であることは確かなようだが、二度と戦いたいとは思わない。

 レガのような力を使えるようにならなかったら、絶対にそう思っていただろう。 


「しかし、まさか君が、帷くんと同じ血族だったとは、意外だったな」


 酒井が、興味深そうに動矢と歩の顔を見比べる。


「いやいや、何というか」

「僕らにとっても、初耳なもんですから。何とも言えず」


 歩と動矢は、互いに顔を見合わせ、苦笑いする。

 動矢が歩と同じく、円家の直系という事実は、驚き覚め止まぬものだった。二人とも、特に似ているわけではないが、柔和な雰囲気をまとうところなんかは、シンパシーを感じる。動矢の認識は、せいぜいそのくらいのもの。歩に至っては、見た目の共通点については興味ないといった様子だ。

 無論、周囲が興味をもっている点は、見た目ではない。

 

「戦鬼の血を取り込んで、その能力と特性をコピーした、ということか」


 動矢が目覚めた――鋼鉄の鬼の力を発揮することから、〈鉄血てっけつ〉と名付けることにした能力。

 話題となるのは、やはりここだろう。

 

「原理はよくわかんないですけど、多分そういうもんかと」


 酒井の予測に対して、動矢は適当に相槌を返す。

 色々な意見をもらえること自体は、さまざまな視点でものを見るという意味で大きな助けになるから歓迎できるが、事は自分自身の事。元来、目立ちたがり屋というわけではないため、こういう扱いをされることに慣れていない動矢としては、早々に解放されたい気分だった。

 そんなことを言える場面ではないことは、重々承知しているのだが……。


「しかし、純粋に能力が強化されたのであれば、とても頼もしいことだと思います」


 秀真が、iPadをスナイプしながら、動矢を注視する。程なくして手を止め、iPadの画面を動矢に見せた。

 画面には、グラフが表示されている。パワー、スピードといった、パラメーターを表しているもののようだ。


「暫定的ではありますが、あの血の鎧を纏った姿の能力値を測定してみました」

「数字だけ見せられても、ピンとこないなぁ」


 比較対象がないのだから、急に「100点!」なんて言われても、どう喜ぶべきかわからないのは、無理のない話だろう。


「あの時の新井動矢さんの力は、戦鬼でいうところのモノノフ型に値する能力値であることが判明しました。モノノフ型は、肉弾戦を得意としたタイプの戦鬼の枠に達しているようです。加えて、ヴァンアイア特有の能力が加えられる。これは興味深い事象です」


 つまりは、ヴァンパイアと戦鬼のハイブリッドということか。


「正確に表現するなら、そのヴァンパイアの力を使ってレガを再現したってカンジだけどね……」


 検証が足りないため不確かな面はあるものの、それでも歩からは「レガの力に似ている」と言われ、動矢自身もそのような感覚を得ていることから、レガの力を再現する能力という認識をもつに至った。

 動矢の言葉を受け、秀真は動矢と歩の顔を交互に見比べる。


「歩くんが血を与える判断は、青江さんからの指示だと言ってましたよね?」

「うん。そうだよ」

「一体、どうして血を与えれば強くなる……なんて判断に至ったのでしょう? 彼女は、ヴァンパイアを知っていたのでしょうか?」

「どうなんだろうね? 聞いてみよっか……もしもし、ご先祖様。青江様。聞こえますかー?」


 歩は真紅の三鈷剣を手に取り、問いかける。

 しかし、何も反応はなかった。


「……あれ? 全然反応ないね」


 動矢は唖然となり、三鈷剣をジーっと見つめる。

 あの時、自分に語り掛けてくれた人は、幻だったのだろうか? そんな疑問が頭の中によぎりかけたが、


「出てくる時と、そうでない時があるんですよ」


 歩は苦笑いを浮かべながら、自分の胸に目を落とす。


「いつも、話が出来るわけじゃないっていうのは、まあ、ぼくらにもあることだから、しょうがないとは思いますけどね」

「トイレみたいなもんか」

「あんたね……」


 デリカシーのない例えはルーシーには呆れられたが、とりあえず歩の説明のおかげで、浮かび上がりかけた懸念はすぐに霧散してくれた。


「ウチのドーヤが失礼しました。それで、肝心なところなんですけど」

「ああ、イタリアでの会合だったね」


 酒井が、歩を含めた特務三課の面々に振り返る。


「繰り返すが、メンバー選考は後で考えるとしても、ひとまず参加の意思があることは表明する……皆も、それで良いか?」

「賛成じゃ」


 ソファで寝っ転がっていた白峰が、気怠そうに振舞うも、真っ先に答えた。


「元を正せば、妾が原因で起こったことじゃしの」

「不謹慎というか、ゲームで情報漏洩とは何事かとも思うが」


 酒井は眉間に指でつまみながら、重苦しいため息をつく。

 現在は、戦鬼の存在を世間にアピールしたい時だから良いが、これが他の時期だったり、あるいは他の機密事項に関わる話だったが、大問題に発展しているところだ。


(課長さんも大変だなぁ……)


 きっと、酒井としては白峰の行動についての制限について検討しているのかもしれない、と歩は考えていた。「管理職はつらいよ」とはよく聞く話だが、どうやら洒落になってないようだ。


「ですが、我々のリーダーは、このご縁を感謝しています」

「まあ、結果が全てということにするか」


 ルーシーの言葉添えもあり、酒井はなんとか、この結果を飲み込むことが出来たようだ。


「追って、日時についてはお知らせする、とのことでした。代表者は、酒井さんということでよろしいでしょうか?」

「窓口としては、その認識で構わない」

「参加自体は、されない可能性が?」

「目的は、鬼たちのことなのだろう? であれば、他に適任はいる。何より、私自身は戦鬼のなりそこないのようなものでね。実質、ただの人間のようなものだ。加わったところで、有意義な話し合いができるとは思わない」

「左様でございますか」

「とはいえ、今回の提案自体は、素晴らしいものであることは承知している。メンバー選考には少し時間をいただくことになるが、組織として必ず参加できるよう、尽力する所存だ。……ヤマタノオロチなんてのが出た直後なんだ、上もNOとは言わないだろうよ」

「つきましては、部外者の身で申し訳ありませんが、一つ選考に関して打診していただきたいことがございます」

「何かね?」

「我々のリーダーは、そこの帷歩くんの参加を強く希望しています」

「ぼくが?」

「ふむ。まあ、当然といえば当然か」

「そ、そうなんですか?」


 歩は呆気にとられたが、彼以外の面々は平然としていた。


「桜樹さんの話が正しければ、帷君の存在はとても興味深いものに映ることだろう。我々でさえ、同じ認識なのだ。無礼を承知で物申すなら、新たな可能性を模索する、という観点において、君はこれまでにない研究対象になる」

「それは、まあ」


 歩は、特に気を悪くすること無く応えた。

 やはりというべきか、彼自身、自分の身に起きたことに対して、疑問を抱いているようだ。そして、それはまだまだ払拭が出来ない。


「そこに、今日のこともある」


 全員の視線が、動矢に集中する。


「や、やっぱり……?」


 モジモジする動矢に、全員が首を縦に振って見せる。。


「君の能力は、君ならではのもの……。それがどうしてそうなったのかを解明することは、きっと君や君の仲間達だけでなく、我々のような部外者にとっても、有用な知識になるだろう」

「か、解剖とかは勘弁して下さい」

「バカ言ってんじゃないわよ」


 ルーシーが、動矢の後頭部を軽く叩いた。


「ヴァンパイアの解剖は、血によって成される……献血に協力するくらいで充分だって、もう忘れたの?」

「あ、あんまりそういう目で見られたことなかったもんで……ほら、注目を浴びるとかさ」

「あ、そっか」

「納得されたー……」


 しかし、ルーシーの反応はもっともだーーということは、動矢もわかっていた。

 これまで、自分固有の能力といえば、『心臓の鼓動を自在に操り、力をコントロールする』というもの。強弱はもちろん、体内に留めたり、逆に放出したりする等して、人間を超えた力を発揮することができる。他者と比べて、その調整の幅が利くということが利点だ。

 しかし、他のヴァンパイアはそんなことせずとも、対峙した相手を翻弄、あるいは圧倒することができる面々ばかりだ。彼らから見れば、動矢の存在は首輪をつけた小型犬のようなもので、要は脅威とは見做されていない、ということだ。

 だが、動矢は化けた。


「日本の…しかもあのレガみたいな力を使えるようになったとなれば、話は別。私も含めて、今まであんたを格下とみなしてきた他の連中の目の色が、大きく変わることになる」

「ルー…」

「あ、ごめん。つい本音が」


 冗談っぽく笑うルーシーだが、動矢はそれを諌めるつもりはなかった。

 動矢の覚醒を一番歓迎しているのは、間違いないくパートナーであるルーシーだからだ。


「そういえば、君達の他に、日本にきたヴァンパイアはいないのか?」

「いません。私たちだけでなく、基本的にヴァンパイアは二人一組(ツーマンセル)で活動するものですので」

「なるほど。だから、君にとっても、新井君の成長は歓迎すべきことだということなんだな」

「あ、あはは……」


 酒井からの指摘を受け、照れくさそうに笑うルーシー。動矢は、こちらを見て微笑む酒井を見て、これが彼なりのフォロー……ルーシーの本音を引き出すことで、自分を励まそうとしてくれたのだと気づく。

 ルーシーのことは、大事に思っている。だから彼女の言葉の意図は、理解しているつもりだ。

 それでも、こうしてはっきりと態度として表してくれると、すごく嬉しく思う。小説のように、あえて湾曲的な表現を用いるのは、日本人のコミュニケーションの特徴だと言われている。日本で暮らしたがっているルーシーが心掛けているであろうコミュニケーションは、日本人である動矢にとっては安心できるやり方だが、やはり一番わかりやすいのは、正直であることだ。


「いてっ」


 背中を、おそらくは肘で小突かれた。振り向くと、少しだけいじけたような表情のルーシーが。


「……調子にのんな(ボソッ)」

「悪かったって」


 苦笑いしながら、動矢はルーシーを宥める。彼女の、時折見せる子どもっぽさが、動矢の保護欲を刺激する。


「では、ひとまずはこれで解散という形をとるか」


 酒井の鶴の一声に、全員の意識が開放的になる。


「イタリアからのお客様は観光もしたいだろうし、我々も協議が必要なことがあるからな。早めに結論を出して、君達のリーダーに伝えられるようにしなければ」

「よろしくお願いします」

「お願いします!」


 ルーシーが会釈をし、動矢もそれに倣った。



 〜3月13日 13:21 慶応義塾大学前〜


 警察署を出た後、動矢とルーシーは、案内役としてついてきてくれることになった歩と秀真を伴って、有名なラーメン店に行くことにした。


「うーん! やることはさっさとやるに限るわねー!」


 任務を終えた開放感から、ルーシーは両腕を真上に伸ばし、開放感を露わにする。


「ルーシーは、夏休みの宿題は七月中に終わらせるタイプなんだ」

「同感です。面倒ごとを放置すると、焦燥感を抱えたまま日々を過ごすことになりますからね。それは不健全です」


 頭の良さそうな秀真らしい回答だった。


「な、なんか刺さるなぁ」

「あれ? 歩君は最終日までとっとくタイプ?」


 苦笑いを浮かべる歩を見て、動矢は意外だと思った。


「そうなんですよ。七月中にできれば、と思っていつもはやるんですけど、全部終わらせるまでがめんどくさくて。最終日に仕上げるって感じになるんです」


 どうやら、集中力が続かないタイプ――ということのようだ。

 まぁ、動矢は一発逆転タイプ――最終日までため込むタイプなので、「手を付けるだけ上々ではないか」と思った。


「程度にもよりますが、余裕があれば問題ないのでは? 君がサボっているところは、僕が知る限りでは見たことありませんし」

「でも、やっぱり気兼ねなく遊べる状況が作れれば、それが一番良いっていうのは、わかってるんだよ?」

「みんなしてなに、夏休みあるある話してんの? んなことより、今はラーメンっしょ!」


 ルーシーは満面の笑みを浮かべながら、ガイドブックに載せられている記事を動矢たちに見せた。それは、これから訪れようとしているラーメン店の特集が組まれたページだった。


「この時のために、私はあえて朝食をスムージーだけにしたわ……だから実は結構今はお腹ペコペコで目がぐるぐる回ってるかもって感じ……コンディションは万全なのだわー!」

「逆では?」

「いや、秀真。あのラーメン屋はさ、他の店よりも全体的なボリュームが高いんだ」

「そうなんですか? というか、歩君は食べたことがあるんですね?」

「そうだね。普段から、カロリー計算をしながら飯食ってる人には、辛いかも。これ、経験者の感想ね」

「つまりはイコール、背徳感をいうものを味わうための店、ということですね。一人で行くことはあり得ませんが、なるほど。誰かと行くからこそ……興味深い」

「そ、そこまで真剣にならんでも……」


 動矢が呆気に取られていると、歩が苦笑を浮かべながら、無言で首を横に振った。

「なるほど」と、動矢は秀真という人間との関わり方を理解した気がした。


「あ。でも、大丈夫かな? よく調べてなかったけど」

「えっ?」


 歩の一言に、動矢は嫌な予感を覚える。

 思い出してしまったのだ。某ラーメン店がもつ、ある特徴について。


「うっそぉおおおおおおん!?」


 突然、ルーシーが叫んだものだから、動矢は肩を跳ね上がらせ、振り返る。


「ど、どうしたのルー?」

「な、んで…?」


 ルーシーはその場にへたり込むと、前方を指さした。


「あぁ…」


 ルーシーの指先を目で追った動矢は、思わず脱力してしまった。

 目的地の店は、シャッターが閉まっていたのだ。


「あー、やっぱり…」


 歩は眉を顰めながら、両手を上げる。

 多くの人が、思うことだろう。

「イヤな予感ほど、よく当たる」ものだと。


「あの店、理由はわからないんですけど、定休日じゃないのに店が開いてない時があるんですよ」

「それは残念」


 言葉と表情が一致しない秀真。そのまま、ルーシーのもつガイドブックに視線を移す。


「注意書きには、書いてなかったんですか?」

「あったわ。あったけど……」


 なぜか、悲壮感を漂わせながら、ルーシーは拳を握りしめる。


「開いてるかも! って……そう思ったら、行ってみるしかないじゃない!」

「運次第、ということでしたか。まあ、宝くじも買わなくては当たらないものですからね」

「る、ルーシーさん、御愁傷様です……」

「あぅ……」


 ルーシーはガックリと項垂れ、動矢の肩に頭を乗せた。


「まあまあ。東京なんだし、他に美味しい食べ物のお店はいっぱいあるんだから! そこに行こ? ほら、ルー。さっきマグロ丼のお店があったよ。そこなんてどうだい?」

「今日はにんにくマシマシの気分……」

「つくづく、ヴァンパイアっぽくないなぁ」

「それも、僕らの先入観によるものですがね」

「そうだね。気持ちはホントよくわかるよ」


 歩と秀真の会話は、動矢が一年間ずっと咀嚼し続けてきた感覚だったりする。


「しょうがない。このへんの店は気分じゃないって言ってたし、なによりルーシー意気消沈気味こんなだし、ひとまずなんか買って一旦ホテルに戻るか」

「海外旅行って疲れますもんね」

「体は人生の資本ですからね。賢明かと」


 歩と秀真も、ルーシーの様子を見て気を利かせてくれた。

 今回は、これで解散だ。


「あ、そうだ。動矢さん」

「ん?」

「青江様から言われてたことがあって……」


 歩は手品のように、何も持ってなかったはずの右手から、一本の赤い鍵のようなものを出して見せた。


「これ、良かったら持っててください」

「レガの鍵……!」


 間髪入れずに、秀真が間に割って入る。


「これは、君の妖力そのものじゃないですか。大丈夫なんですか?」

「動矢さんが、力を馴染ませるために必要だろうって、青江様がさ」

「しかし、制限がかかってしまうのは危険では――」

「ご先祖様たちが動くのに支障が無いくらいの、ほんのちょっとの妖力だからさ。少ししたら、すぐに回復する程度のモンだよ。レプリカみたいなもんだと思って」

「そうでしたか。ならば、僕が止めることでもありませんね」


 納得した様子の秀真が横に一歩ずれ、歩と動矢の対面を見送る姿勢を示した。


「ありがとね」

「いえ。友人の身の安全のことですので」


 歩は秀真に笑顔を見せると、再び動矢に鍵を差し出した。


「『鉄血』、ですよね? あの、レガみたいな姿になれる力のこと」

「そうだね」

「それをスムーズにできるようにするためとか、元々の素養を開花させるためとか……とにかく、いろいろなことをするために必要な、それを助ける補助ツールみたいなのがあれば、便利だと思います」

「そっか」


 動矢は、歩から赤い鍵を受け取る。手のひらから感じる熱のような感覚が、体に馴染んでいくのを感じる。


「血をもらうのとは、またちょっと違うってこと?」


 正気を取り戻したルーシーが、動矢の手に握られた鍵を指でつついた。


「持ってるだけでも、だいぶ違うね……ありがとう、歩君」

「気にしないでください。ぼくも、こうやって助けられてるんで」


 二人の鬼が、笑顔を交わした。

 こうして、言葉を交わす度に、動矢は実感する。

 血のつながりによって感じられるものを。

 そして、それを超える何かは、確実に存在するのだと。 






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る