第4話 戦鬼イオ

 ~12月10日 16:21 満田中学校2ー2教室~


 夕暮れ時の教室の中、夕日の光に照らされた教室は、オレンジ一色に染まる。その中で、歩は一人、荷物の整理をしていた。無言で作業をしているため、カラスの鳴き声が良く聞こえてくる。血の臭いに惹かれているのだろうか?

 今日は、短縮授業になったため、クラスメイトを含めた生徒全員は、昼過ぎには帰宅した。当然、部活動も停止している。

 そんな中、歩が学校に残っていたのは、教師達から呼び出されたからだ。

 理由は、今朝の体育の時間、霧人のグループの面々を痛めつけてやった件について、教員達に問い詰められたからだ。なんでも、報復を恐れたグループの一人が、仲間達にも内緒で教師達に今までのことを白状したらしい。他の面々も、目を丸くして密告者らしきメガネの男子を責めるような目で見ていたのが、妙に感慨深かった。

 歩と霧人達は、個別に教師に呼び出される。歩は、面接担当の校長を相手に、こうなるまでの一部始終を語った。白髪をオールバックにまとめた初老の男性は、歩の話を聞くにつれて、気まずそうに顔の皺をより深くした。事実確認だのなんだので余計に時間が取られた感はあるものの、今まで受けてきたいじめの件について、ようやくまともに取り組む気になったと思うと、少しだけ面白くなってきた。

 この件がきっかけかどうかはわからないが、殺人事件や暴力沙汰が立て続けに発生したことで、学校全体に不穏な空気が漂うようになった。急遽、短縮授業が決定されたのも、生徒の精神状態を慮った結果なのだろう。


(これ、ぼくのせいってことになんのかな……?)


 歩はどちらの事件にも関わりがあるため、多少は気まずさを覚えていた。

 ふと、教室を観察する。霧人達の荷物――教科書は筆記具等は、机の上に乱雑に置かれたままだ。どうやら、まだ聞き取り調査は終わっていないらしい。

 彼らの性格をそのまま表しているような机を見ながら、歩は思う。

 不思議と、今の歩には、もう何も怖いものは無かった。

 あの時、歩は霧人を返り討ちにした。今まで、恐れていたことが馬鹿らしくなるくらい、彼は弱かった。

 しかし、油断は出来ない。あの手のバカは、身の丈を考えずに暴走して、周囲に迷惑をかける害獣のような存在だ。

 どういうことか?


 霧人は、危険人物だということだ。


 おかしな真似をしたら、即座に仕留める――むしろ、その時に備えて見張る必要があるだろう。

 このことは、聞き取りを担当した校長先生にも既に宣言してある。面倒事が嫌いだと態度で表していたあの老害ならば、仮に歩が何か問題を起こしても、まともに対応はしないだろう。

 最早、この学校は、半分無法地帯も同然だ。

 秩序が崩壊している以上、身の安全を守るために、出来ることは何でもしなければならない。人を守る法律が機能しないのなら、仕方のないことだ。

 今、歩の周りの世界は、ちょっとだけ――だけど確かにおかしくなっている。これまで通りの理屈に縛られていては、人を守るルールのために人が殺される、なんてことになりかねない。戦鬼の存在が、その最たる例だ。

 歩は、自分に言い聞かせる。

 沙貴を守るためなら、何でも出来る。

 自分のこだわりも、倫理観も、捨てられる――と。


「なにやってんの?」

「ん?」


 一人の女子生徒が、歩に声をかけてきた。ポニーテールにまとめた金髪と中学生離れした凹凸のはっきりしたボディラインが特徴の、日本人離れした美貌をもった少女だった。制服のYシャツは第三ボタンまでを空けられ、胸の谷間が強調されている。身長は、歩より頭半分程高いので、170センチに達していると思われる。

 彼女は杜若伊織かきつばたいおり。沙貴の親友だった。


「杜若さん、忘れ物?」

「そんなトコ」


 と言いつつ、伊織は自席ではなく、歩に近付いてくる。意外な人物からのアプローチに、歩は唖然となった。

 伊織は沙貴の親友だが、歩と接点はほとんどない。

 しかし、歩は彼女を恩人として認識していた。歩が霧人達にいじめられていた間、沙貴の行動を見守り、時には抑えてくれていたからだ。


「ん? なんか落としてない?」

「えっ――ありゃ、ホントだ」


 歩は、真っ赤なカバーの文庫本を拾い上げた。それは、歩の好きなゲームのノベライズ作品だった。十年以上前の古いだが、時々無性に読みたくなる時があり、常に携帯するようにしている。


「へぇー? 変わってんねぇー」


 伊織は興味深げに、歩の持つ本を凝視する。前かがみになったもんだから、彼女の豊満な胸の谷間が視界に飛び込み、歩の心臓が跳ね上がった。

 発育が控えめな幼馴染とは対照的に、グラビアアイドルを思わせる中学生離れした伊織のスタイルは、歩のような純朴な少年にとって目に毒だった。同時に、ポニーテールにまとめた綺麗な金髪が歩の鼻孔をくすぐった。ほのかに香る柑橘系のシャンプーの匂いが、歩に異性との接触を強く印象付ける。


「ねぇ?」

「な、なに?」


 なんとか声を絞り出す。「ヘンに思われてないかな?」と心配したが、伊織は特に気にした様子を見せない。


「あんたって、どんなゲームが好きなの?」

「えっ? え、えっ?」


 思いもよらない質問に、歩は呆気にとられた。まさか、沙貴以外の女子生徒ともほとんど話さない伊織が、自分のようないじめられっこ――今日からは問題児だろうが――に声をかけてこようとは。


「何すっ呆けてんだよ?」

「えぇっと……ごめん」

「……何言ってんだか」


 呆れられてしまった。歩は、己のトーク下手さとボキャブラリーの乏しさを、密かに恥じる。


「別に変なコト訊いてないだろ? どんなゲームやってんのってだけの話じゃんか」

「あ、あぁ……RPG、だけど」

「へぇ~?」


 伊織は、再度歩の持つ本のカバーを覗き込む。真っ赤なカバーの上には、黒文字で『MARIA』というロゴが描かれていた。Rの中心の空洞が、地球を思わせる円のデザインになっており、下には金色の2の数字があった。


「あ、アタシこれ知ってる」

「そ、そうなの?」

「『マリアせかんど』。有名なコピーライターの人がつくったっていうヤツでしょ? 姉ちゃんが好きだったから、よく知ってる」

「そ、そうなんだ……!」


 歩は、若干声を弾ませる。まさか、こんなところに趣味を共有できる人間がいるとは思わなかった。


「アタシも……ほらッ」

「おぉ……!」


 得意げな笑みを浮かべた伊織が取り出したのは、手帳だった。カバーに写された、見覚えのある緑豊かな田舎町の風景に、歩は瞳を輝かせた。


「この手帳のカバーって、『マリア2』のヤツだよね!?」

「そだよ~♪ その姉ちゃんに、もらっちった」

「へぇ~、いいなぁ! これ、どこで売ってたの? 聞いてたりする?」

「ふっふ~ん。知りたい?」

「うん、教えて教えて!」


 往年のファン――いや、信者として、この情報は見過ごせなかった。オタクとは、自分が好きなものに、誇りをもっていたい生き物なのだ。グッズを持ち歩くのは、その意思表示の一環なのだ。


「じゃあ……交換条件ね」

「こうかん?」

「実はね、あんたにちょぉ~っと、訊きたいことあんだよねぇ~」


 きょとんとする歩に、伊織は顔を近づける。ここ最近、女の子と接する機会に乏しかった歩だから、伊織の切れのある美貌をもつ女子が相手だと、どうしても緊張してしまう。


「どう? まぁ、このゲームが好きなヤツっていうのは、大体誰かに優しくできるヤツだと思うから、あんたならちゃんと答えてくれるって信じてるわ。そういう類の質問になるから、頼むよ?」

「ぼ、ぼくがわかることなら、もちろん!」


 欲しい物の情報が得られるかも知れない興奮と、学校でも評判の美少女と接点を持てたことで、歩は頬を上気させた。

 伊織はひとしきり微笑むと、スッと目を細める。




「昨日の殺人事件の犯人って、あんたでしょ?」




 伊織の鋭い視線に射抜かれた歩は、急速に体温が低下していくのを自覚する。限界まで目を見開き、無表情な伊織を見る。


「えっ――えっと……えっ?」


 歩の顔が、徐々に青ざめていく。何か反論しようにも、声が出せなかった。

 レガのことは、きっと言っても信じてもらえない。それどころか、レガのことを話したら、それこそ伊織の視点から見れば、歩が自白したように映ってしまうかも知れない。

 迷いが、行動を鈍らせる。


「やっぱり、そうだったんだ」


 伊織は、歩の沈黙を、無言の肯定と受け止めた。

 得意げな笑みを浮かべる伊織は、後ずさる歩の反応を楽しむように、にじり寄ってくる。伊織の手が、狼狽える歩の背中を触れ、労わるように撫でた。その優しい手つきが、逆に歩の平常心を揺さぶってくる。


「安心しな。あんたの本意じゃないって事はわかってる」

「あッ……」


 伊織が、歩の胸を凝視する。まるで、そこに潜んでいる何かを睨むように。

 歩は直感した。

 伊織は、戦鬼レガの存在に気付いている!


「……杜若さん、戦鬼って知ってる?」

「もっちろん」


 伊織は、首を縦に振った。


「戦鬼……古い歴史の中に隠れ潜んでいる、妖怪にも似た進化を遂げた人間のこと……その化け物じみた能力から、戦神、本当の鬼とか呼ばれて怖がられて……縮めて、戦鬼って呼ばれるようになったんだってね」

「…………」

「とりわけ、戦鬼レガ……あんたの中に潜んでる、あのデッカイ赤鬼は、べらぼうに強い力をもってる」

「戦鬼は……レガは、なんで人を襲ったんだ? 自分の意思じゃないって聞いたけど」

「理由なんて、どうでも良いっしょ」


 伊織は歩を片手で突き放す。直後に、伊織の体が光に包まれた。強い光を前に、歩は目を開けられなくなり、両腕で顔を隠した。


「一体何が……って、杜若さん!?」

「ん? ヘンなトコ見んなよな」


 歩が目を開けると、伊織の姿は変わり果てていた。

 伊織の姿は中学生の制服から、虎模様のビキニのような服に変わり、その上に胸部と手甲のみの赤い甲冑を装着していた。肌も淡い桃色から、日焼けしたような小麦色の肌に変化しており、所々に黒い刺青のような模様がついている。鋭くなった犬歯と爪、そして彼女の両手首にはめられた金色の腕輪からは、得体の知れない力を感じた。

 歩は、伊織から目が離せなくなる。しかし、それは彼女の姿に見惚れてのことではない。

 生存本能が、限界まで警鐘を鳴らす。


「君は……戦鬼か!」

「ご明察~♪」


 腰に手を当てたセクシーなポーズを取りながら、伊織は歩を指差した。

 指先から発たれた金色の光が、歩の右のわき腹を貫いた。


「ぐぅぉぉぁっ!」


 穿たれた胸を中心に痛みと痺れが広がり、歩は仰向けに倒れた。いくつかの机に接触し、ドミノ倒しにしてしまい、派手な音を立てる。

 無意識に腹を抑えた手を恐る恐る離すと、痛覚はあるのに傷跡は無かった。

 それが、逆に不気味だった。


「な、なんでこんな……ぐぅっ……!」


 両手で患部を抑えながら、歩は荒れた呼吸をそのままに、伊織を見上げる。


「レガを殺すためだよ!」


 伊織は、歩を叱り飛ばすように叫んだ。


「あんたの中にはレガがいる! なんであんたがレガと同化してんのかは知らないけど、あんたの中にいるレガが、あんたの精神をのっとって人間をぶっ殺した! そして、あんたは無言でもそれを認めた!」

「そ、それは……そうかもしれないけど、レガは誰かに操られてたって言ってたよ!?」

「人間食う化け物の言うこと、信じてんじゃないよ!」

 

 伊織が再び矢のような光を発射した。今度は、相手が撃つ前に横に跳び、攻撃を避けた。光の矢は、壁をすり抜けていき、攻撃の跡を――状況証拠を残さない。


「まさかとは思うけど……杜若さん、ぼくもまとめて殺す気じゃ、ない……?」

「他にやりようは無いからね!」


 伊織は、ちっとも悪びれなかった。


「あんたとレガが一心同体になってる今がチャンスだと思うんだわ。あのレガが人間に憑依しなきゃならない事情があるとしたら、絶対なんか弱ってるだろうし、これが最初で最後のチャンスかも知れないんでね!」


 伊織が、両手から電気を思わせる青白い光を発生させる。伊織の目を見た歩は、彼女が発生させた青い稲妻の威力が、先程の光の矢を凌駕していることを悟る。


「気の毒とは思ってるよ」


 そう言う割には、伊織の表情に迷いはない。


「どうして……?」

「憎いんだよ。レガが」

「レガが?」

「レガは……アタシの姉ちゃんの仇なんだ」


 伊織は、努めて表情を変えずに答えた。


「お、お姉さん……?」

「姉ちゃんはなんにもしてないのに、レガに襲われて……!」

「そんなことが……」


 歩は脳内で、顔も知らない伊織の姉と、レガに食われたバスケ部の先輩の姿を重ねる。


「あったんだよ。もっとも、アンタん中のレガは、そんなこと覚えちゃいないだろうけどさ」


 伊織の歯が軋る音が、歩の鼓膜、そして体を震わせる。彼女の放つ殺気が怖かった。蘭に殴られてきた時とは、比べ物にならない――本物の殺意。

 これでは、説得なんて不可能だ。


「諸共、死ねぇ!」


 伊織が腕を真上に伸ばす。雷撃を放つ動作だろう。


「巻き添えで殺されちゃ、たまんないよ!」


 歩は力を振り絞り、教室を飛び出した。刹那、歩の背後から強烈な光が放たれ、何かが破砕される音が響いてきた。振り返って確認する余裕など無く、歩は近くの階段を、手すりに掴まりながら、滑るように下りていく。最上階である四階から一階まで、一気に駆け降りた。


「あ、危なかったぁ!」


 思わず、胸をなで下ろす。火事場の馬鹿力というものだろうか、刺突を思わせる痛みを抱えて尚、体はちゃんと動いてくれている。それどころか、前よりもずっと軽く感じられる。全身から発せられる微かな熱が、歩の体を活性化させてくれる。


(レガが、助けてくれてるのか……?)


 歩は、戦鬼を体に宿すことで身に付いた超能力を自覚する。

 伊織程わかりやすい形ではないが、体の内から少しずつ溢れ出る力は、紛れも無く自分以外の何者かがもつ特殊な力なのだと、感覚で理解する。得体の知れなさからくる不信感は拭えないものの、利用できるならそうするまでだ。死んでしまえば、違和感もクソも無いのだから。


「とにかく、逃げなきゃ……!」


 下駄箱へ向かい、走ろうとした時、頭上から殺気が飛んできた。


「逃がすか!」

「うわっ!」


 遅れて降りてきた伊織が、歩の背後から青い稲妻が放った。稲妻が、歩の右の頬を掠め、床を貫く。

 掠った右頬辺りが、麻酔をかけられたように感覚が無くなっていく。


 ――あんなの食らったら、もう逃げられない……!


 伊織が放った牽制の一撃は、正しく歩の焦燥感を煽り、冷静さを失わせた。

 振り返ると、僅かに浮遊している伊織の姿があった。やけに足音が聞こえないなと思っていたら、どうやら飛ぶことも出来るらしい。


「こ、このままじゃやられる!」


 そう思い至った時、歩の体は無意識に動いていた。そして、普段の歩はもちろん、ほとんどの人間が選択することの無い、危険極まりない行動をとっていた。


「うわあああああああああああああああ!」


 歩は廊下の窓に身を投げ出し、ブチ破る。そして、そのまま外へと飛び出し、学校の敷地を示す緑の金網フェンスを越えた。眼下は天然の斜壁になっており、歩は地面に指を立て、強化した握力で土と雑草を削り取りながら、落下スピードを下げる。


「う、うそでしょ!?」

(う、うそでしょ!?)


 伊織の驚愕と歩の思考がシンクロした。

 歩は車道に転がり落ち、すかさず立ち上がる。少し痛むものの、体は問題なく動いた。この時には、稲妻により失われた感覚も戻っていた。

 しかし、歩は安心するどころか、自分の身体に起きた異変に、恐れおののいた。


「ど、どうなってんだよぉ、ぼくはさぁ!」


 己の体に起きた異変に対するショックと恐怖が、異能の力を持った伊織から逃げ切れた安心感を吹き飛ばしていた。


「ぼくの体、なんだよね……?」


 土がこびり付いた手を眺めながら、歩はガチガチと歯を鳴らす。なまじ普段と変わらないからこそ、「この状況が夢だと良いなぁ」という淡い願望を抱いてしまう。

 その隙を、伊織は逃さなかった。


「雷雲!」


 伊織が唱えると、上空から雷雲が発生し、幾重もの雷を落とす。幸い、高い所に落ちるという性質は生きており、周辺の木々を犠牲にはしたが、歩は無傷で済んだ。


「逃がさないって言ったろ?」

「杜若さん……!」


 空中に浮かぶ伊織は手に電力を集束させたまま、へたり込んだままの歩を見下す。


「わかるよね、帳? あんたの体、だんだん戦鬼の力を受け入れてるよ」

「…………」

「あんたはレガに寄生された。だから、あんた自身は……帳歩って人間は、もうとっくにこの世にいないんだ」

「ふ、ふざけんなって!」


 血相を変えて、反論する歩。


「ぼくは、ちゃんと自分の頭で考えてる! だから――」

「アタシが知ってる帳歩は!」

「ッ!?」

「アタシが知ってる帳歩は、断じて人殺しなんかしない! 弱虫で、殴られても震えてるだけの臆病モンだ! お前が帳なら、考えるならまだしも、実際に殺すなんてことをするのか!?」

「レ、レガのことがわかるならわかんだろ!? それはぼくじゃないんだ!」

「じゃあ今朝の体育の時だのこたぁどう説明すんのさ!?」


 これ以上ない状況証拠を突き付けられた歩は、著しく反論の勢いを削がれた。


「……見てたのか」

「そうだよ、アタシは見てたんだ。あんたが文字通り目の色変えて、蘭をボコしてたのをね! 急にあんなことができるようになったなんて、それこそレガの影響を受けてるってことじゃないのか!?」

「ぼ、ぼくは……ぼくは……っ!」


 図星を指された、と思った。残酷な現実を叩きつけられ、自分を失ったような気分に陥った歩の双眸から、涙が溢れて止まらなくなる。

 だが、それでも伊織は追及を止めない。


「帳。あんたは臆病で見ててムカつくヤツだったけど、それでも優しいヤツだったから……これ以上、レガに汚させたりしない!」


 伊織が、右手に妖術で強化された電撃を纏う。これにより、伊織の手刀は真剣以上の鋭さと威力を併せ持ったことを、歩は肌で感じ取る。


「か、杜若さん……!」

「これで終わりだ、レガぁ!」


 伊織が、電撃を纏った右手に横薙ぎに振るった。

 瞬間、視界が白一色に染まる。


 ――馬鹿野郎! 黙って殺されてんじゃねえ!!


 頭の中で『声』が響いたのは、正にその時だった。

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