第9話


 カーテンの隙間から差し込む、暖かな朝の陽。

 目覚めた私は、暫くの間、天井を眺めていた。

 虫の音は聴こえない。寝る前は、あんなにうるさかったのに。

 


 ──全て夢だった──

 ──わけでは無いのは、すぐ隣から聞こえる、穏やかな寝息が教えてくれる。


 咲奈。


 頬に口付けすると、「うーん」と伸びをして、目をパチパチとしばたたかせた。


「おはよ、咲奈……」

「……あ、咲良ちゃん。おはよ」

「咲奈……」


「あら? この靴、誰のかしら?」


 改めて口付けしようとした時、階下から頓狂な声が聞こえてきた。

 きっとお母さんに、昨日私が履いていた咲奈のお母さんのスニーカーと、咲奈のローファーが見付かったのだろう。


「咲奈、一緒に来て」

「……咲良ちゃん、大丈夫?」

「うん。もう逃げたりしない。一生をかけてでも、咲奈との関係を認めてもらう」

「……咲良ちゃん……。うん、私も頑張る!」


 濁りのない笑顔を浮かべて飛び込んできた咲奈を、私はしっかりと受け止めた。



 ──一昨日。

 私達は部屋で初めてのキスをしようとしている所をお母さんに見られ、その場を逃げ出してしまった。

 その時の私は感情的になり、咲奈と2人だけの世界を望んでしまっていた。


 でも、今は違う。

 私は、絶対に諦めない。

 逃げたりはしない。

 言葉を尽くして。想いを伝えて。

 いつか必ず、祝福させてみせる。


 私は私が望んだこの世界で──。


 ──咲奈が優しく笑いながら、繋いだ手に力を込めてきた。

 私は微笑み返し、強く握り返した。



 ──私たちはこれからずっと、こうして生きていく──。

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望んだ世界 はるにひかる @Hika_Ru

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