第8話


「私……は……」


 咲奈の顔を見る。


 私と、咲奈だけの世界。正直な話、私は咲奈さえ居ればそれで良い。

 どうして世界がこうなったのかは分からないけれど、私達の関係を邪魔するものは、ここには何も無い。

 全部自分達だけでやるのは想像を超える大変さが有るとは思うけれど、咲奈の為ならどうにかしてみせる。


 けれど……。


「元の、世界が良い……」


 お父さんも、お母さんも、弟も、皆が居る、元通りの世界。

 咲奈とは引き離されそうになるかも知れないけれど、代わりに今のこの世界では、祝福される事も絶対に無い。誰にも反対されない代わりに、誰にも認められない。

 ──それが、どうしようもなく悲しく思える。


 この世界で生きていく覚悟があるなら、元の世界で、周りを説得して咲奈との関係を認めさせる事なんて、どうということも無いのではないか。……そう思えた。


 尤も、そんな覚悟が出来たところで、どうすれば戻れるのかなんて皆目見当もつかないけれども──。


「良かった。私もだよ──」


 そう言って飛び込んできた咲奈の体を受け止め切れず、背中を地面のコンクリートに打ち付けた。

 背中がズキリと痛んだけれど、胸の中で震える咲奈の痛みを思えば、どうという事はない。

 その頭をポンポンと叩くと、咲奈は嗚咽を大きくしたのだった。




 それから私達は2人で、私の家に向かった。

 今後の事を落ち着いて話したいというのもあったし、何よりもこんな状態の咲奈を独りにしてはおけなかった。


 夜は、私の部屋のベッドで、手を繋いだまま眠った。

 晩御飯を缶詰で済ませる頃には咲奈もだいぶ落ち着いた様で、規則的な寝息を立てている。

 咲奈が世界の変化を気にしていない様に見えたのは、見て分かる程に私が動揺していたからだろうか。


 ──随分無理をさせてしまったな──。


 「咲奈は、私が護るから」


 おでこに誓いの口付けをし、布団に潜って目を瞑った──。

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