第6話


 私は結局、咲奈の膝枕で、昼過ぎまで眠ってしまった。今朝の目覚めは霞がかかった様にスッキリしないものだったけれど、この時の私の頭の中の靄はすっかりと晴れ、何でも出来そうな気さえしていた。


「門、閉まってるね」

「うん」


 私達は咲奈の提案通り自転車を取りに、歩いて通っている高校まで来た。普段自転車だと気にならないけれど、徒歩だと矢張りそれなりの距離を感じた。靴は、咲奈のお母さんのスニーカーを借りた。


「普段なら、部活の人達が来ているのに……」


 咲奈の声がか細く揺れる。私は咲奈が家でそうしてくれた様に、その小さな頭を撫でた。咲奈は、「ん……」と喉を鳴らした。


 門の外から、普段過ごしている校舎を眺める。

 誰の姿も認められない、明かりの消えた校舎というのは、こんな明るい真っ昼間に見ても不気味に思えた。

 

「どうする咲良ちゃん」

「ちょっと待ってて」


 咲奈の頭をポンと叩いた私は、門に手を置いて、そこを支点によっと飛び越えた。そして閂を引き、門を開けた。


「咲良ちゃん、凄い! 流石!」

「咲奈、流石って何?」

「えへへ」


 ……誤解されると嫌なので私の名誉の為に言っておきますが、遅刻常習者だからやり慣れているとか、そういうわけでは有りません。

 ただちょっと、人より身軽なだけです。


「何がえへへなの。……もう、行くよ!」

「あっ、待ってよ!」


 私が駐輪場に向かって先に歩き出すと、追い掛けてきた咲奈が、私の手をギュッと握った。交わす、笑顔。

 咲奈の歩調に合わせながら、私は再度校舎を横目に見た。

 このまま私達以外が虫になったままだったら、色々持ち寄ってここで過ごすのも悪くないのかも知れない。

 玄関は閉まっているだろうけど、鍵が壊れていて、いつでも出入り出来る窓を、私は知っている。

 水も、屋上に貯水槽があるので、暫くは安全な筈だ。

 ……いや、待てよ、どうだろう。

 そう言い切るには、高校生の私には、知らない事が多過ぎる。


「どうしたの? 考え事?」

「あ、ううん、何でもない」


 咲奈に顔を覗き込まれ、ハッとする。

 ……私は、このままの世界と、元の世界、どっちを望んでいるんだろう……。

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