第4話
「咲奈、あなた、ご両親は?」
咲奈に頭を撫でられながら、私は話を進める。何も考えずに咲奈の優しい手の動きと温もりを満喫していたいけれど、今は確認しなければならない事がある。
咲奈は、ご両親と3人暮らしの筈だ。
「ついさっきまで寝てたから見てないけど、もう2人とも、仕事に行ってる時間だよ」
咲奈は私の頭から手を離し、玄関から身を乗り出して駐車スペースを確認した。
まだ少し眠たそうだったその顔にはすぐ、疑問符が浮かんだ。
「あれ? 2台とも残ってる?」
恐らく咲奈のご両親も、仕事にはそれぞれ車で行っているのだろう。
「お父さん?! お母さん?!」
咲奈はその場で身を翻し、家の中に何度か呼び掛けた。しかし、返事は無い。
「おかしいなあ……」
腕を組んで首を傾げる、咲奈。その後ろ姿は
「まあいいや。気が変わってバスとかで行ったのかも知れないし。咲良ちゃん、折角来てくれたんだし、入って。今日は学校も休みだし、ゆっくりできるね!」
振り返って笑顔を見せた咲奈を、強く強く抱き締めた。
学校にはもう、行きたくても行けないかも知れないんだよ──。
「ちょっと、咲良ちゃん、どうしたの?! ……ご近所の目が……」
そのご近所さんも、もう──。
「……昨日みたいに見られちゃったら、何を言われるか……」
──人目を憚る必要は無くなったのかも知れない。でも──。
「ごめんごめん! 会えたのが嬉しくって、つい」
慌てた振りをして、咲奈の身体を開放する。
体の動きは演技だけれど、言葉には嘘は無い。
もう会えない。──そんな状況も、覚悟していたから。
私の目を見た咲奈は、頬を緩めた。
「びっくりしたけど、昨日の今日で会えたから、今、泣いちゃいそうなほど嬉しいよ」
「泣いてないじゃない」
「ギュってしてくれたから! ほら、上がってよ!」
私の手を引いて家に上がり掛けた佐奈は、ギョッと目を見開いた。
「咲良ちゃん、なんで裸足なの?! ちょっと待ってて、タオル持ってくるから!」
足の裏を手でチョイと払って、咲奈はトテテテテと家の中に消えていった。
──どうすれば、出来る限りショックを少なく、あの子に現状を伝えられるだろう。
玄関に独り残された私は、綺麗に並んだ3足の靴を見詰めながら考えていた──。
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