第3話
「
荒くなった呼吸を整える間ももどかしく、名前を叫びながら玄関扉を何度も叩く。インターホンはどうやら、反応していない様だった。
夢中で走り続けた所為で、太腿はもうガクガクだ。足の裏はジンジンと熱を持ち、感覚を失っている。
「咲奈! 咲奈!」
扉に上半身を預けながら、ノックし続ける。叩く手が痛むけれど、そんな事に構ってはいられない。
咲奈──
どうしてこんな世界になってしまったのかは皆目見当も付かないけれど、咲奈までが虫になっていたら、私はこの先どうして生きていけるだろうか。
──どれ程経った時だろうか。……いや、案外すぐの事だったかも知れないけれど、私が凭れ掛かっている扉に、力が加えられるのを感じた。
「あれ? 開かない……」
中から聞こえる、眠たそうな声──。
「咲奈!」
一旦身を引き扉を思い切り開けると、「きゃあ!」と声を上げバランスを崩した咲奈が、私の胸に飛び込んできた。
私はそれを、そのまま強く抱き締める。
「咲奈! 咲奈! 良かった、無事だった!」
私の頬を、温かい物が伝う。
「ちょっと、
私の名を呼ぶ、咲奈の声。もう2度と聴けない事も考えられた、愛おしい声。
その頭を抱く手に力を込めた後、顔を離して、その顔を見る。
咲奈の目は、何時になく赤く、充血していた。
困った様な顔をしていた咲奈は、小さくふっと笑い、私の頭に手を当てた。
「どうしたの、咲良ちゃん?」
その手の平から、咲奈の優しい温もりが伝わってきた──。
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