第2話


 幹線道路を、走り続ける。

 家から随分来たけれど、相も変わらず、道を走る車は無い。脇に停まる車は、あるじを失って沈黙し、動き出す気配は無い。


 ──この場に、は、私を除いて他に居ない。


 私の考えは、間違ってはいなかった。

 『一刻も早く確かめないと』──それだけが悪寒に震える私の頭を支配し、靴を履く事も忘れ、気が付くと家を飛び出していた。

 

 痛む足が、少しずつ私の頭を冷やしていく。

 虫を避けて走るのにも、慣れてきた。潰す訳にはいかない。決して。

 大きな百足が、私の進路に立ち塞がる。

 大股で道を塞ぐそれを避けた時、変わり果てた家族の姿が脳裏に蘇ってきた──。

 


 ──居間にも台所にも、お父さんの、お母さんの姿は無かった。テレビは点いていなかった。

 しかし、卵は冷蔵庫から出されていて、フライパンはコンロに用意されていた。動いてはいなかったけれど、トースターに食パンが入れられていた。お母さんは、間違いなく朝食の準備の途中だった。

 私と顔を合わせたくなかったとしても、急に居なくなったりするだろうか。それに、何処に?

 途方に暮れる私の足元で、何かが跳ねる気配がした。一匹の飛蝗バッタが、呑気に跳ねていた。

 私はに気を付けながら、リビングに急いだ。

 ……ソファの上には、青虫が一匹……。




 ──そして今、私は走っている。


 人っ子一人居ない、しかし何時いつに無く妙に虫が多い道を。

 弟の部屋は確認していないけれど、この状況下では間違いないだろう。弟は大好きだし、落ち着いてきた今となっては、確認しに戻りたい気持ちも湧いてきたけれど……。

 次の路地に入って、4軒目。



 ──目的地はもう少しだ──。

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