望んだ世界

はるにひかる

第1話


「はっ、はっ、はっ、はっ。──痛っ!」


 裸の足に欠けたアスファルトが食い込み、鈍痛に足を止める。

 片足で立ったまま痛めた足を持ち上げてその裏を確認したけれど、幸いな事に、傷にはなっていなかった。

 安心した私は再び、走る車の無い幹線道路を進み始めた──。






 朝、目を覚ました私を待っていたのは、昨日までとは変わってしまった世界だった。

 尤も、『変わった』と言っても、核戦争がおきて荒廃したとか、異世界だったとか云う訳ではない。

 目覚めた私が寝転がっていたのは、間違いなく私の部屋の私のベッドだったし、カーテンを開けた窓の向こうは、見慣れた変わり映えのない景色だった。

 そんな当たり前の朝の光景に違和感を覚えたのは、顔を洗ってサッパリする為に、階段を降りた時。


 ──静か過ぎる。


 そう思った。


 いつもなら。

 お父さんが朝のニュースを点けているから、テレビの声が聞こえる。

 お母さんは朝食を作りながらそんなお父さんに大声で話し掛けているから、その会話も聞こえる。

 弟は、いつも私よりも起きるのが遅いから、まだ寝ているのかも知れなかったけれど。


 『偶にはこんな静かな日もあるのかも知れない』、呑気な私は未だそう考え、洗面所に向かった。

 ……それに、今朝の私は両親の声を聴きたくなかったし。


 今思えば、私がそう思うに至った件で両親も楽しく話す気分では無かった可能性もあったけど。

 ……現実は、私の想像を、常識を、遥かに超えてきていた──。

 

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