第34話 兄だった人

リチャードが産まれるちょっと前。


側妃殿下の懐妊のニュースが社交界に飛び交った。


実際に私の方にも側妃殿下からお手紙を頂き、乳母の話も貰ったのだけど、リチャードとアウローラとの時間がなくなるのが嫌なのでお断りした。


というか、話をしたらすぐにヴィーがお断りの返事を返していた。


「久しぶりだな、キャロライン」


向かいに座るのは金髪の髪の毛に緑の目。


リチャードによく似た顔。


そうキャロラインの兄で、次期子爵だ。


今日はリチャード誕生のお祝いを持ってやってきてくれている。


ただ本人の表情が明らかに嫌悪感丸出しでなければ。


そういえばキャロラインの我儘と散財でこの兄からは随分と嫌われていたように思う。


「侯爵家の跡取りを産むとは上手く立ち回ったものだな」


忌々しいとばかりに吐き捨てられたセリフに、ミリアの笑顔が濃くなった。


「本当は来たくはなかったが父上が来られぬから代わりに来ただけだ」


キャロラインからの父親からは喜びの手紙をすでに貰っている。


娘には甘い人なのである。


だからこそキャロラインが我儘を言ったりドレスで散財しても父親は止めたりはしなかった。


ただ兄だけはそれを憎々しく思っていたのであろう。


「そうですか、ご足労頂きありがとう存じます」


「ふん、精々飽きられないように媚を売る事だ」


そう言って兄はリチャードの顔も見ずに帰って行った。


「出禁にしますか?」


「塩撒いてきますね♪」


真顔で聞いてきたミリアと超笑顔のアリアが怖い。


「大丈夫よ、気にしないで」


そもそもはキャロラインが悪いわけなので致し方ない。


ただ謝ったところで修復できるほど家族仲は良くはない。


良くも悪くも貴族な我が家はやり取りがそもそも希薄なのである。


早くに母を亡くし、父と兄とキャロラインの3人家族だったが、3人で食事をとるのも毎日ではなかった。


そこ寂しさをキャロラインは買い物で埋めていたかもしれない。


「こっちも美味しいから食べるといい」


いつもの夜のティータイム。


いつもよりなんだかヴィーが甲斐甲斐しい。


いつもは対面に座るのに、今日は膝の上に乗せられ口元までお菓子を運ばれる。


この屋敷であった事は全て把握しているヴィーのことだから今日あったことも知っているんでしょう。


そして私がキャロラインの感情に引き摺られて落ち込んだ事も。


「ヴィーありがとう。でも今はもう少しこうやってくっついてもいい?」


首に手を回してぎゅっとくっつく。


ヴィーの体温の温かさが心地よい。


「今後は出禁にするか?」


ミリアと同じことを言うので思わず笑みがこぼれてしまう。


「大丈夫多分もう来ないでしょう。


私にはヴィーと子供達や屋敷のみんながいれば充分よ」


「そうか。・・・身体も障りがないか?」


今日はキャロラインの兄が来る前に侍医の診察があった。


リチャードと私、それぞれ診てもらった。


「リチャードはすくすく育っているし、私も身体ももう良さそうよ」


ヴィーの顔を見上げて言う。


リチャードはみんなの助力もあり順調に育っている。


私もリチャードのお世話以外ほぼ寝たきりの状態からもう少しずつ日常生活に戻していって良いと言われている。


じぃーっと見つめてくるヴィーの目には心配の色がうつっている。


「お手柔らかにお願いします」


瞼を閉じればそっとキスが降ってくる。


その日はとても優しく甘やかされた。




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