第95話 ホームレスな銀髪幼女
【不死鳥のラッシュ】
チャンネル登録者数0人。
現在のライブ視聴者数1人。
≫きも。
≫おもんな。
夏にラッシュとして新たな道を切り開いてから数ヶ月。
流行りのABEXを配信中、久々にチャット欄に動きがあったと思ったら、野良な娘から心を抉る素晴らしいお言葉を頂いた。
さっきまで「やったっ、一人見てくれてる!!」と喜んでいただけに、ショックが大きい。
思わず手が止まるというもの。
交戦中だった部隊は俺を起点に全滅。
ゲーム画面のチャットには、『4ね』など『ヌーブ乙』といった仲間二人からの暴言で溢れかえる。
あっちからもこっちからも責められる。
メンタルブレイクまで秒読み。
俺はラッシュとして無様を晒す前に配信をぶつ切り。
そして、しばらく椅子の背もたれに体重を預け、瞑想に耽った。
瞑想中に過るは、ここへ至るまでの心無いコメントばかり。
どれだけ心を鎮めようとしても、雑念はノンストップで脳裏を周回するように爆走中。
結果、俺は――…、
「ラッシュを馬鹿にすんじゃねぇええよぉおおッ!! ばかーーーッ!!」
発狂した。
部屋で盛大に暴れ回る。
クリア後に延々と周回してくるデモンズプレイヤーの如き執拗さで追ってくる誹謗中傷。
それから逃げるように、部屋中を駆け回る。
「ラッシュポッポ、ラッシュポッポ、ラッシュポッポ、出発進行~~♪」
逃げても逃げても辛い現実は追ってくる。
その内に諦め、心休まる平和な世界を求めて尚も走り回っていたら、何処からともなく機関車が憑依。
俺は機関車ラッシュに成った。
らっしゅっぽっぽ~♪。
らっしゅっぽっぽ~♪。
僕は機関車ラッシュ、よろしくねぇ。
ストレスからの解放。
平和な世界こそ至高なり、ってね。
「どうしたッ、美春!! 大丈夫か!?」
両手でガッタンゴットンしながら中腰になって走っていると、勢いよく扉を開けて、雪美とは反対側の
ブレザーな上着。
首の可愛いリボン。
丈の長めなスカート。
すらりと伸びる黒タイツ。
如何にも中学生女子の格好をしたSKにジッと見つめられ、俺は失速からの停止。
頭から蒸気を放出しながら、「何でもない」とそっぽを向いて返した。
「あっ、やばいッ、遅刻する!!」
俺の無事を確認し、部屋の時計を見て、ドタバタと慌てた様子でSKが去っていく。
もうちょっとゆっくりしていけばいいのにと思いながらも、玄関を潜ってダッシュする彼女へ窓から「いってらっしゃい」と手を振った。
「いってきまーーすッ」
時刻は朝の8時ちょいすぎ。
手袋にマフラーを巻いた女の子の元気な声が、僅かに雪が降る街の中に響き渡る。
文化祭を終えて次の日。
突然、「学校行くッ!!」と宣言した彼女は、その次の日から本当に学校へ行きだした。
有言実行にして行動力の化身。
同じ陰キャとは思えない。
この裏切者めっ。
どんな心境の変化があったのかは分からない。
しかし、俺が通う二茂中学校へ
相変わらず家には帰ろうとせず、自分の部屋を持てたことに喜ぶ居候だけど。
因みに部屋は配信で得た収入を霞さんに渡して用意してもらったらしい。
客間は幾つかあるし、特にこれといった用途も無いので、お金払ったら使ってもいいよと冗談で言ったらこうなった。
まぁ、俺も配信の邪魔されないし、プライベートは守られるしで別にいいんだけど、なんだかちょっと寂しかったりしなくもない。
しょっちゅう凸してきたり、俺のベッドに潜り込んでくるのだけは勘弁してもらいたいけど。
というかお金を払ってるんだったら居候ではないな。
もう居候から卒業。
今は立派なお隣さんだ。
我が家の自室にお隣さん。
なんか今更ながらに違和感が凄いな。
どうしてこうなった?。
説明は以下略。
「…受験勉強でもするか」
SKの姿が見えなくなった頃。
俺は学校に行くか行かないか迷いながらも、窓際から離れ、勉強用にと用意したスペースに着席。
居候が居なくなった分のスペースを補うように設置した勉強机。
座布団の上に楽な姿勢で座り、机の上に広げられた過去問集のページを開いて、黙々とペンの先を走らせる。
学校は色々と学ぶには良い所だ。
コミュニケーション能力も養えるし、友達もできるし、最愛のパートナーとだって出会えるかもしれない。
だけど、俺にはその色々が余計となる。
学歴がものを言う現代社会。
必要以上の生活を求めるにはそれなりの学が無ければならない。
学力を得て、高校に入学し、卒業。
そして、リモートワーク中心な企業に就職。
ひたすら貯金し、ラッシュなVTuber活動を人生が終わるまで孤独に続ける。
学力は必須事項。
あとP検も忘れずに。
必要なことに注視した場合、学校は行かない方がいいまである。
むしろ集中的に取り組める分、こうして一人で黙々と勉強してる方が何倍も効率がいいといえるだろう。
受験するところは県外のとある高校に絞った。
お葬式の日から俺は、既に目的のために動き出している。
やることは受験のための勉強。
故に過去問集である。
分からないところは全て家庭教師な霞さんが手とり足取り教えてくれる。
おかげで今の俺の学力は中学生一年の平均を下回っている。
そう、下回っている。
超優秀な家庭教師を得ても尚。
俺の頭の悪さは次元を超えていた。
ちょっとやそっとではブランクは埋められない。
天才でもない超ド級の凡人は、地道に学力を伸ばしていく他ないのである。
「あぅうう、こうなったら…、盛大にカンニングしてから時を戻してぇ………」
羅列する漢字と数字と英語と文章と空白。
不正を働こうと思考がシフト。
だけどギリギリで思いとどまる。
自分ひとりで生きていく力。
ずるをして得られても、ラッシュな俺は納得しない。
俺は頭を振り、パンパンと頬を叩いたあと、白目を剥いて机の上に突っ伏した。
知恵熱で脳がオーバーヒート状態。
勉強時間はたったの30分。
俺は熱を冷ますため、スリーピングモードへ移行。
眠気に
== 白夢 ==
「お帰りなたいまてぇ、御主人たまぁ~、…にししッ」
ニカっとはにかみ、舌たらずなツインテール幼女がお出迎え。
白を基調にしたエプロンドレス姿をくるりと魅せたあと、俺の手を引いてツリーハウスの中へと招いた。
「くぴー…スピー……くぴー……スピー…」
「リーたんはお疲れでお寝むなのッ」
いつかの如くベッドの上でアルマジロのように丸くなって眠るリエルノ。
そのお尻をパンパンッと叩き、幼女ことタウプメディルカ――タプタプが「にっしっし」と笑う。
呻き声を溢しても尚、熟睡。
タプタプがいう通りお疲れの様だ。
いつかのお礼に、俺も次いででタプタプと一緒になってお尻をペシペシ叩く。
両の掌が赤くなり始めたところで止める。
なんだかお尻を叩く感じが新鮮で、謎に癖になりそうだ。
形のいいお尻に目がないメテヲさんのことが脳裏を過る。
大会の時から音信不通な彼。
その変態性を多少理解して、俺は今だに楽しげな様子で容赦なくお尻を楽器にするタプタプへと視線をやった。
「ひさしぶり、元気してた?」
「タプタプはいつも元気ですよぉ~、そういうご主人様はお元気ないですねぇ~」
本格的に呻き声を上げ始めたリエルノ。
それとなく助け舟を出そうと、タプタプの振り上げられた手を取って、一緒に敷かれた座布団へと腰を落ち着かせる。
胡坐を掻いた上にタプタプがちょこんと収まった。
「今日は内緒で会いに来たのです、皆には内緒ですよぉ~?」
「内緒?、なんで?」
「ここでは始祖様の言うことが絶対ッ、口答えしたり、歯向かったりするとキツィ~いお仕置きが待ってるんですッ」
きついお仕置きの経験があるのか、盛大に苦い表情を浮かべて俺を見上げるタプタプ。
俺はその哀愁漂う頭を撫でてやり、慰めた。
「始祖様は言いましたっ、これ以上はご主人様の自由意志を尊重するとっ、余計な手も口も出さないとっ」
「ふむふむ」
「でも
「そうなんだ、どうして?」
「このまま行くとご主人様が可哀想、…だって大切な人をs――ふみゅっ」
突然にして降って湧いた気配。
誰かと思ったが、いつかの大人な女性だ。
何かを言いかけたタプタプの口元を鷲掴み、片手で持ち上げている。
ぼ、暴力反対っ。
「タウプメディルカ、始祖のお言葉をお忘れで?」
借りてきた猫のようにおとなしくなりながら、タプタプは盛大に目を泳がせる。
「美春、勉強の邪魔をしました、ごめんなさい」
右手にタプタプ、あいてる左手で俺の頭をなでなでしながら女性。
どう対応したらいいのか分からないため、とりあえずそのまま撫でられておく。尚、タプタプはその間、全てを諦めた表情を浮かべて大人しく彼女の手のひらに収まっていた。
無言でじっと見つめながら撫でてくる女性。
絶望の表情を浮かべる借り猫。
くぴー、スピーとお尻を擦るアルマジロ。
なんなんだこの状況は。
わけわからんって。
「美春、強く在りなさい」
同じ色の瞳。
同じ色の髪。
そして同じような容姿。
それを真っ直ぐ向けられ、紡がれた言葉。
俺はただ、コクリと頷き返す。
何となくだけど、筋トレでもしようかなと思った。
「では
「あ、はい」
「……ママと呼んでくれてもいいですよ?」
「呼びませんけど…」
大人な女性は「そうですか」と名残り惜しそうに呟き、右手に絶望猫を持って扉の方へと歩いていった。
「帰り方はもうおわかりですね?」
「まぁ、なんとなく」
これまでの経験。
そして帰省本能。
とりあえず天空の巨大な鳥居を潜ればいいのだと解る。
「孰れ、また」
「はい、さようなら」
助けを求める様に手を振るタプタプ。
俺はそれに手を振り返し、二人を見送った。
「……さてと、帰るか」
急な呼び出しに応じて来てみたものの、特にこれといったことは無し。
俺は座布団から立ち上がり、最後にアルマジロなお尻をスパンキングしたあと、舞空術で天空の鳥居を潜って帰還した。
――このまま行くとご主人様が可哀想、…だって大切な人をk、ふみゅっ――
タプタプの台詞が脳裏に過るなか目覚める。
間抜けな「ふみゅ」でクスリと笑い、勉強机から上半身を起こす。
起き上がらせた際、軽く腹筋をして筋トレしておいた。
夢のシックスパック。
この軟弱な腹にも出来るだろうか。
「ひぃ、ちかれたはぁーッ」
筋トレもそこそこに、俺は再びペンを持つ。
程よく仮眠もとって筋トレもした。
あとは脳トレあるのみ。
頑張れ、俺。
== 数時間後 =-
「くぴー……すぴー…」
―――ドンッ!!。
「美春、美春、美春ッ!!」
扉を盛大に開ける物音に、大きな声。
びっくりして勉強机から顔を上げると、制服姿のSKが鬼気迫るといった表情で突貫してくるのが見えた。うげぷっ。
「美春ッ、お前からも皆を説得してくれッ、頼むッ!!」
俺の両肩を掴んでグワングワンと揺さぶるSK。
寝起きからの怒涛の展開。
揺れ酔いしながらも、彼女の話に耳を傾けようと、どうしたのかと口を開く。
「こんな寒い中、外に捨てられてたんだッ!!」
「な、なにが…」
「そのままじゃ凍え死んじゃうッ、なのにみんなが駄目だ捨てて来いって!!」
「そうなんだ」
「頼む美春ッ、お前からも皆を説得してくれぇえええ゛!!」
涙目で興奮状態のSK。
何となくだが、外で捨て猫か、捨て犬でも連れて帰ってきたのだろうと推測。
既にコマ君がいる我が家。
今更、一匹も二匹も変わらんだろうと、俺は彼女のため立ち上がる。
「こっちこっち、早く早く、お腹もすかせて私を待ってるんだッ、あの子が!!」
「わ、分かったから、少し落ち着いて」
俺の手を引きながら母性を爆発させるSK。
そんなにカワイイ、犬か猫なのかと思いながら階段を下り、皆が集まる玄関へと向かう。
「兄貴、俺は絶対に反対だからな」
「美春様、…如何いたしましょうか」
「遠くへ捨てる、散歩は大変」
「わんわんッ!!(反対意見)」
「零ッ、そんな可愛そうなことするな――ッ!!」
みんなで集まって、SKを中心にワイワイぎゃーぎゃー。
俺は大げさだなぁなんて思いながら、立ち塞がろうとする雪美を押し退け、玄関の先へと視線を向ける。
「
視線の先。
ボロボロな衣服に身を包んだホームレスな銀髪幼女が、ビートバンらしきものを脇に抱えて一人たっていた。
頭部には髪色と同じ大きな耳二つ。
お尻からは白銀のモフモフとしたものが元気な下げに垂れ下がっている。
一風変わった容姿の幼女。
お腹が減っているのか、あざとい感じで両手をお臍のあたりに当ててサスサスとさせている。
俺はジッとそれの様子を見つめたあと、SKに振り返った。
「なッ!?可哀想だろ!?、うちで飼ってもいいだろ!?、私が全部面倒見るからッ!!」
誘拐犯SK。
反省の色なし。
それどころか飼うとまで言い出した。
これには流石の俺でも頭を抱えてしまう。
「
追い出される雰囲気を感じ取ってか、銀髪ケモ幼女。
お腹を見せ、服従のポーズをとりながら食事を要求。
とりあえず話を聞くため、家へと上げることにした。
警察へ通報はその後だ。
SKが逮捕されないことを願ってやまない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます