第91話 SKは愛を囁く
風呂から上がり、火照った体でコーヒー牛乳を一気飲み。
ぷはぁッ、と一息ついたあと、俺は霞さんにおねだりを開始。
SKのお薬ほちぃなぁ、と一言呟けば、霞さんはお菓子も+αでくれたりする。
さっきの家族会議では本家に行っては駄目だと否定的であったが、基本的に彼女は俺の成すこと言うこと肯定してくれる。
つまりはチョロイのである。
薬とお菓子ありがとたい。
「うひひッ、夜食Getッ」
「わんわんッ」
お菓子を抱え、ほくそ笑んでいたら、母に警報器として躾けられたコマ君が吠えてきた。
母のルールで永久的に菓子を禁じられている俺。
口うるさい雪美に見つかる前に、コマ君とすかさず交渉。
「あとでおやつ上げるから見逃せッ」
「わふん」
取引は無事成立。
流石は駄犬。
懐柔は容易いことこの上ない。
「しゅたたたッ!!」
お菓子を得たことで気分は上々。
階段を上がり、踊り場を華麗にターン――…したところでコケた。
クッションとなったポテチが破裂。
音と香ばしい香りに釣られ、駄犬が俺の菓子を狙いにきた。
この犬畜生め。
人間様の食い物は毒だと知らんのかッ。
俺は横取りを狙うコマ君に奪われまいと、踊り場に散らばったポテチをかき集め、モシャモシャ頑張った。
「なにやってんだ」
踊り場でコマ君と必死の攻防。
粉々になったポテチが可哀想だと、競い合うように床をペロペロ。
そしたら階段の上から雪美の声。
俺はコマ君に後を委ね、立ち上がる。
そして、何事も無かったかのように雪美の横を通り過ぎ、ようとした。
「兄貴、口元汚れてるぞ」
袖口でポテチの食べかすを拭ってくれる雪美。
何となくだが、以前よりも距離感が近い、気がする。
SK同様
謎にムカムカする。
「零さんに髪乾かしてもらってないだろ、自分でやるといつもテキトーなんだからしっかりやってもらえ?」
「…うるせぇ、馴れ馴れしいんだよ、触んな」
口元の次は生乾きした白い髪。
やかましいが過ぎるぞこの愚弟めが。
余計なお世話をかこうとするんじゃねぇ。
お前は弟、俺は兄。
身の程をしれッ。
「寝る前に菓子とか体に悪いからあんまり食べるんじゃねぇぞ?、食い意地を張るのもいい加減にしとけ?、あと、ちゃんと歯磨きしろよ?、それから――」
「うるせぇッ、お前は俺のマミーかよッ!!」
止まらぬ小言。
俺はツッコミを入れ、階段を駆け上がり自室へ避難。
その最中にも「夜更かしも大概にしとけよー」とほざきやがった。
喧しいわッ。
「ははは、美春と愚弟はカップルみたいだったり、親子みたいだったりで観てて聞いてて面白いなぁー」
我が物顔で自室のベットを占領中のSK。
俺は何とも言えぬ表情でその様子を眺めたあと、スマホを手に取ってゲーミングチェアへ、イラただし気にドスンッと座った。
「なぁなぁ、美春」
今は機嫌が悪い。
だから後にしてくれ。
とは言えず、俺は「なに?」と返した。
「美春ってなんなんだ?」
なんなんだ、と言われて直ぐに返せるほど俺の頭は柔軟ではない。
返答に迷っていると、SKは再び口を開いた。
「本家?のやつら、美春のこと神様みたいに言ってたぞ、二成のなんたらって」
「へ、へぇ」
二成の神。
二成の尊。
そして二成な体。
覚えがあり過ぎるその言葉。
ついに友達の口から出てきてしまった、と俺は両肩を弾ませる。
俺は男、俺は男。
そんな珍妙奇天烈な存在ではない。
立派なチソチソだってあるんだ。
チソチソがあれば、立派な男…ですよね?…え?。
「私の妹は本当に神様だったんだなぁ」
何処か自慢げ且つ考え深げな様子でSK。
どうやら俺のことを同調圧力かなんかで、神様だと勘違いしているらしい。
俺は偉大なる母から生まれた人。
役所の書類にもそう示されている、多分。
神様なんていう妄想空想が生んだ曖昧なものではない。
小心者で、卑屈で、陰キャな普通の人間。
それが俺、榊美春だ。
え?、普通の人間は空を飛んだり、ラッシュに成ったり、時を駆けたり、男ならタマタマもあるって?。
……。
ごもっとも。
じゃぁ、俺はなんなんです?。
人の皮を被った化け物なんです?。
それとも、ほんとにみんながいう、神様…、なのん?。
てかSK今、俺のこと妹っていった?。
俺は歴とした男。
せめて弟が正しい所なんですけど。
そのバーチャル上での設定、ここ現実でも拗らせるつもり?。
やめてほしいんですけど…。
「綺麗なお目めしてるもんなぁ、白い髪も凄いし」
「別に綺麗でも無ければ凄くもない、ただキラキラ変色してるだけ、…中身はみんなと変わらない」
「美春は馬鹿で阿保でマヌケだから中身は大分変わってると思うぞ」
真顔でSK。
どうやらネタとかで言ってるわけではないらしい。
辛辣なお言葉どうも有難う。
俺はPCの電源を点け、ヘッドフォンを装備し、この不毛な会話を終わらせる。
SKなんかもう知らない。
しばらく口も利いてあげないんだから。
ふんっ。
―――ぎゅッ。
装備したヘッドフォン。
不意に外されたと思ったら、背後から首へと両腕を回され、ヘッドロック。
無視されたことがそれほど癪に障ったのか。
まずいッ、落とされる。
と思ったのも束の間。
「私は美春が好きだぞ」
耳元で囁くように愛を告白された。
誰に?。
勿論SKに。
そうじゃなかったら、考えてはイケナイ。
「え、……えぇ、っと、え?」
「美春は私のことどう思ってる?」
「え、ど、どう思ってるって?」
「好きか、嫌いか、…どっちだ?」
背後から密着状態。
心なしか無い筈の胸の感触が伝わってくるような。
心臓がドックンバックンと高鳴る。
俺は盛大に狼狽えながら、思わず「しゅきです」と返した。
「なら私たちは好き同士、家族も同然、ずっと一緒だな」
「ふぁ、ふぁ、…ふぁい」
「勝手にいなくなるなよ?、居なくなったら怒るから」
「ふぁいぃ」
「約束だぞ?」
「やぴ、しょく」
「なら良しッ」
そう言ってヘッドロックを解除するSK。
俺は鳴り止まぬ心臓を胸の上から両手で押さえつけ、ぜぇ、はぁ、と呼吸を繰り返す。
もはや首を絞めつけられていたせいなのか、告白されてのドキドキなのかが分からない。
とりあえず落ち着くため、SKから離れよう。
うん、それがいい。
俺は椅子を引き、SKからやや距離をとる。
ひっひっふー、ひっひっふー。
ちょっと落ち着いてきた。
「将来、美春が誰かのお嫁さんになっても、私は傍を離れないんだからな」
誰がお嫁さんだ。
それを言うならお婿さんだろうがバカたれが。
純白のドレス姿な俺を想像させんな、気持ちわりぃ。おえっ。
男にお姫様抱っこされている映像が脳裏を過り、平静を通り過ぎて思わず吐き気を催す。
「お姉ちゃんは死んでも妹の味方だ」
何かを決意めいた表情でSK。
俺とそこまで背丈も変わらず、女の子なのに、台詞のせいか無駄にカッコよく見える。
女の子でもカッコよく見える時があるだなぁ。
それはそうと、俺、男ね?。
妹みたいな扱いは止めてね?。
「お風呂はいってくる、先に寝たら怒るからなッ」
お互い好き同士。
カップル成立。
先に寝るな。
それはつまり。
準備(意味深)しておけってこと?。
俺とSKが…、ちゅ、ちゅぅ…、もも、もしかして…もっと、先?。
つまり、今夜、俺とSKは……ごくりっ。
「SKも……わりと、えっち、なのかな…」
元気いっぱいにお風呂へと入りに行ったSK。
俺はなんとなく髪を櫛で整え、ベッドで待機。
そしてそのまま数十分した頃。
火照った体で「いい湯だったなー」といってSKが部屋に戻ってきた。
いよいよか。
なんて考えていると、SKが毛布を捲り上げ、ベッドに侵入してきた。
枕元でしばらく鼻歌交じりにスマホをイジり、彼女は「ぷにぷに~」と言いながら俺の頬に頬擦り。
そして、そのまま俺を抱き枕にし、眠った。
「……」
どうやら一緒に寝たいだけだったらしい。
別にそう言うことをしたかったわけではないらしい。
なんか俺とSK、今一噛み合っていないのは気のせいだろうか?。
もしかしてだけど、「好き」って、loveじゃなくてlikeの方?。
よく漫画やアニメとかであるあの展開?。
単純に俺の勘違い?。
もしそうなら、今の一方通行な俺、滅茶苦茶恥ずかしい奴じゃないか?。
「……うぅ、…SKのばか」
それっぽいシュチュエーション。
それっぽい台詞の言い方。
SKみたいなかわいい子に「好き」って言われたら、九割の男は勘違いするってそりゃぁ。
俺は恥ずかしさのあまり、しばらく悶絶。
そして、恥をかいた分、寝入ったSKに心のケアをしてもらうことにした。
もちろんエッチなことでじゃない。
健全な方法で。
「……かわいい」
間近にあるSKの寝顔。
それを見ながらそのクセッ毛な長い髪を弄って遊ぶ。
お風呂に入りたてで綿毛のような髪質。
毛先がとぅるんっとしてて、思わず指先でいじらずにはいられない。
リラクゼーションアイテムにはうってつけの髪の毛だ。
まるでトイプードルを撫でつけているかのよう。
モフモフ最高だはぁ~。
「おやすみ」
トイプードルの毛並みを堪能。
いい感じに心のケアを出来た俺は、最後にそう言って、瞼を閉じた。
抱き枕として、彼女の温い体温を肌身に感じながら眠りにつく。
……。
「いや、寝苦しいって」
四肢で拘束された今の状態で後半の方は寝ていたリエルノ。
この瞬間だけは尊敬に値する。
とてもではないが、俺には無理。
毛布の中で丸まって寝るのが俺の安眠スタイル。
仰向けの状態で真っ直ぐなんて寝づらくて仕方がない。しかも抱きつかれたままなんて無理無理。
「……うぅ、…ラッシュ、………俺は、…らっしゅ…うぅ゛…」
その夜、悪夢に魘されたのは言うまでもない。
== 次の日の朝 ==
「俺はラッシュなんだぁああーーッ………あれ?」
悪夢からの解放。
俺は朝、目を覚ました。
おはよう世界。
今日もいい天気だね。
「おぉ、美春、やっと起きたか、早く準備しろ、みんなもう朝ご飯も食べ終えて下で待ってるぞ」
悪夢を引率した原因。
俺は眠たげにそれへとジト目を送る。
「どうした?、私の顔になんかついてるか?」
ついているといえばついてる。
米粒が口の端に。
でも指摘してあげない。
昨日は散々にして辱めを受けた。
お転婆な姿を世間に晒して今度はそっちが恥ずかしくなればいい。
俺は意味深に「くっくっく」と笑いを溢したあと、ベッドから這い出ながら「変な笑い方するなッ、腹立つッ」とSKに怒られた。
体の節々を伸ばし、大きく欠伸。
喧しいSKを後ろに、階段を下りる。
そして、コマ君の出迎えと共に、ダイニングが先にある
「おいユキッ、もう少し手加減しろって!!」
「手加減なんていりませんよ、雪美君、コテンパンにやっちゃってください」
「そのつもりですよ、コイツは一度ぐらい地獄に叩き落とさないと気がすみませんから」
「おいおいひでぇ言われ様だな、俺、お前になんか恨み買うようなことしたか?」
「ユッキー、次は俺と勝負なー、勝った方が今日のライブに出れることにしなぁーい?」
「拓斗、あんた流石にそれは無理でしょ、私たちは昨日出たんだから雪美君の邪魔しないの」
「あったーーッ!!、お兄さんの毛ッ!!」
「こっちもあったですよッ!!、この白白フワフワな綺麗な髪ッ、間違いないですよーーッ」
「姉さ~ん、はい、これお兄さんの毛」
「私もシュマブラやるぞーーッ、混ぜろーーッ」
同級生な二人。
雪美の友達二人。
ONEアクションの三人。
ワイワイ、ギャーギャーと、シュマブラをして朝から元気である。SKがそこへ突貫して更に喧しくなった。
どうしてこんなに人がいる。
疑問が過ること数秒後、結論に至る。
そういえば今日は文化祭二日目だったな。
珍しく大勢の人が家に集まっているのはそういうことか。
色々あったせいで忘れてた。
てか雪美のやつは俺に遠慮しなくなったのかな?。
今まで気を使って、なるべく人を家に上げないようにしていたのに。
まぁ、別にいいけど。
俺もリエルノのせいで大分人馴れしてきてるし。
ありがた迷惑な話なことに。
「兄貴、おはよう」
気配を殺してリビングを横切る俺。
当然のように雪美が気付く。
そして突き刺さる周囲の視線。
俺は「お、おはよう」を返し、静まり返る周りの反応を気にしながら、朝食が用意されているダイニングへ。
楽し気な所へに水を差したかのような空気感。
俺のせいだと考えると、なんだか申し訳なくて仕方がない。
穴があったら入りたい。
空気読めない登場でごめんなたい。
「えっろ、美春さんってこんなに色っぽかったっけ?」
雪美の友達の一人、鋭い指摘。
色々と夢で経験済みな俺はギクリッ、と肩を揺らし、席に座る。
「零さん、コイツ摘まみだしてくれていいですよ」
「りょうかい」
「雪美と親友の俺を追い出す?、おい、わらえる………まじ?」
俺の額に挨拶のキッスをし、零さんは先ほど発言した友達の一人の首根っこを掴み、家の外へと放り出した。「雪美ぃいい゛」という悲痛な断末魔が何故だかクスリと笑えた。
周りは雪美と零さんのあまりな行動に絶句。
そんな中、SKだけが一人、空気も読めずカラカラと笑っていた。
別にそこまで気を使わなくてもいいのに…。
俺は内心で過保護な二人を叱りつけ、霞さんに「おはよう」の挨拶と「いただきます」の感謝を伝え、用意された朝食にがっついた。
「よーしッ!!、シュマブラ再開だーーッ!!、お姉ちゃんな私に勝った人には美春が何かご褒美くれるってさッ!!」
「おい、兄貴はそんなこと一言も言ってねぇぞ、勝手なこときめんな」
「天使さんからご褒美です!?、カリン頑張るですよッ!!」
「別にご褒美とか興味ないけど、負けるのは嫌だからなぁ、やるか」
「拓斗…、あんた、いつからお兄さんのこと…」
「ミー君から…ご褒美、……ゴクリ」
知った人には強気に出れるSK。
それを中心に、再び賑やかな空気が漂い始める。
ご褒美なんて用意もしてなければ準備もしていない。
何か用意しておいた方がいいのだろうか?。
俺はもごもごと口を動かしつつ、チラチラと楽し気な風景を眺め、ご褒美について考える。
「だーっはっはっは、雪美ッ、お前にも渡さんッ、美春からご褒美をもらうのはお姉ちゃんの特権を持つ私だけだッ!!」
どうやらSKがご褒美を貰いたくての発言だったらしい。
流石にそれは特権を振りかざし過ぎでは?。
SKに勝ったらって話なのに、どうしてそのSKがもらえることになる?。
まぁ、ご褒美ほしいなら別にあげなくもないけど…。
安眠枕version2でも作って、今日の夜にでもプレゼントでいいかな?。
俺は喜ぶSKの笑顔を頭の中に浮かべながら合唱、ご馳走様。
そして、色々と準備を整えようと再び自室へ。
久しぶりの学生服(男用)に着替え、仮面とフードを被り、文化祭の準備を整えていく。
「学校、久しぶりだな」
あれほどまでに行きたくなかった学校。
しかし、今はそこまで行きたくないとは思えない。
記憶を紡いで覗き見た風景。
そこで楽しそうにしていたからこその今。
気に食わないけど、俺はリエルノに「ありがとう」と内心で呟き、部屋を出た。
そして、みんなと一緒に文化祭二日目へと赴いた。
―― 後書き ――
【SKの告白について補足】
本家で美春が思いのほかすごい人だと知って、置いて行かれるような焦りをSKは感じた。友達が自分のもとから去っていくという過去も相まって、どうにか美春との今の関係を保とうと足掻いた結果が「私は美春が好きだぞ」という強引な台詞。
描写足らずで少し展開が急すぎるかなぁ、と思っての補足でした。
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