第81話 文化祭に不審者!?、対峙してヒーローじゃッ!!

「あ、やべッ!!、財布ねぇッ!!どっかに落としたかもッ!!」


「何やってんだよ、真一はほんとバカだなぁ、あははは……はは…は?、あれ?、俺の財布は?、さっきまでポケットに入れてあったはずなんだけど………はれぇ?」


 六階にある美春のクラス。


 そこで待っているという女児グループの所へ、人波を掻き分けながら先導していた小僧のバンド仲間二人。


 アタフタと体をまさぐり、一言「先行ってて」と言い残し、両者ともに血相かいた様子で駆けだしていった。


 ぎゃぁぎゃぁと喚くその後ろ姿は、実に滑稽なものとしてこの瞳にはよく映った。


「なんとも愉快な友を持ったものよ、のぅ?小僧」


「うるせぇ」


 どことなく気恥ずかしそうに呟き、今度は小僧が居なくなった二人に代わって、わららのために人混みを掻き分けながら道を作っていく。


 素直じゃないやつよのぅ、っふ。


「てかほんとに、あの人…祈さんほっといてよかったのか?、なんか面倒ごとに巻き込まれそうだったけど」


「その名を出すな、不愉快じゃ」


 わららはそう返したのち、小僧のケツを蹴り上げてやった。ハリセンが返ってきた。痛ぅ。


 しばらく頭を押さえながら、わららは小僧と共に校舎内を進む。


====


「あ、美春ちゃんだー、かわいぃ~」


「獣人な白髪巫女さんとかまじでキュンッ」


「よ、よぉ、美春ッ、元気にして……あ、いい匂~い…すんすん」


 廊下を一歩進むごとに雑多な者達から向けられる好意。


 この仮面の下を知る者は、誰もが振り向き、少しでも関係を構築できないかと態度に表す。


 名の知れたものと親しい関係。


 なれるのならなりたいと、普通は思うじゃろうて。


「……SKのあほぅ」

 

 百いれば、その全てがわららと居たいというのがこの世の理。


 にもかかわらず、SKはなんとも不愉快そうな連中と共にすることを選んだ。


 まったくもって度し難い。


 黙ってわららの傍におればいいものを。


 ムカつくのじゃッ。


「祈さんのこと気になるんだったら、今からでも様子見に行くか?」


 近づいてこようとする者たちをいなしながら道を作る小僧。


 再び不快なその名を口にしたため、ムカつくので無視する。


「このままほっとくと、面倒ごとになる予感がするんだよなぁ、気のせいだと思いたい」


「……」


「まぁ、今の兄貴がいった方が面倒ごとになるから別にいいか」


「……」


「そういえば、こんな夏場でその恰好、今更だけどあつくねぇのか?」


「……」


「みため全然汗かいてないな、割と涼しかったりする感じ?、空気の通りがどうたらこうたらで」


「……」


「昔、兄貴は熱中症で夏よく倒れてたからなぁ、ちゃんと水分補給はしっかりとっとけよ?」


「……」


「あ、ちょっとまて、尻尾の位置がおかしくなってる、あ、猫耳の方もちょっとずれて――」


「やっかましぃわッ!!、不機嫌さを察して黙らんかッ!!、無駄なおせっかいを焼いてくるではないッ!!」

 

 空気を読まずに無駄口に御節介。


 わららは無視することが出来ず、思わず声を荒げた。


 ついでに距離をとる。


「んだよ、せっかく人が気を利かせてやってるっていうのによ」


「どこがじゃッ、気を利かせるつもりなら黙れッ!!」


「黙ってたらいつまでもイジけるに決まってるからなぁ、やだ」


わららはイジけてなどおらぬッ、というか小僧ッ、最近、馴れ馴れしいぞッ、鬱陶しいッ!!」


 わららは吐き捨てるようにそう言うと、小僧を駆け足で追い越し、先頭を強奪。


 そして距離を徐々に開けるように、早足で廊下を進む。

 

「おいおい、そんな先走ったら迷子になんだろーが、これまでどんだけ迷子のお知らせで母さんが放送で呼ばれたと思ってんだよ」


「そんなもの知るかッ、そもそも迷子になどなるかッ、戯けッ、不愉快じゃ、着いてくるなッ、SKの所へでも行って失せよっ!!」


「遠回しに見てこいって言われてる気がするが、やっぱりこっちを放置した方が面倒事になるだろうから行かねー」


 わららの早足に歩む速度で着いてくる小僧。


 生意気にも口答えをッ、ムカつくッ!!。


 あれもこれもわららを苛立たせおってからにッ。


 人間関係とは、面倒なことこの上ないのぅッ、まったくッ。


「む?」

 

 ムカムカしながらも、六階にある美春のクラスが目前に迫った時。


 学舎の門がある方角からざわつきだす様な人の声。


 何事かと立ち止まって窓から視線を送っていると、肥えた男が警備員数名に追われながらも、こちらにやってくる姿が遠くの方で見えた。


 人を押し退け、必死の形相で何かを探す様に駆ける男と、それを追う警備員。


 校舎の入り口付近。

 

 スタミナ切れか、肥えた男が警備員数名にとうとう取り押さえられた。


 そして、騒ぎを聞きつけた野次馬がその周囲を取り囲む。


「放せッ!!、この入場券を買うのに一千万払ったんだぞッ!!、俺を天使ちゃんに会わせろぉおおおッ!!!!」


 取り押さえられる中、右手に握られてクシャクシャになった入場券らしきものを掲げ、男は叫ぶ。


 あんなものを手に入れるために一千万とな?、あれの頭は大丈夫かの?。


「偽物とかふざけんじゃねぇッ!!大金叩いて買ったこれが偽物なわけがねぇッ!!、てめぇらッ、俺を天使ちゃんに会わせねぇ気だなッ!!?、どけッ!!、失せろッ!!嫉妬の欲に塗れたこの社会のド底辺共がッ!!、ドル円が急降下してもう俺には跡がねぇんだよぉおッ!!、天使ちゃんとセッ〇スするんだぁあッ!!!、それで沢山愛し合った後、心中するんだよぉおおお、俺たちはぁああッ!!」


 支離滅裂な台詞を喚き散らかす男。


 必至に醜く藻掻いている姿が、文字通り蛆のそれ。


 さぞ周りには耳障り、且つ目障りじゃろうて。


 ……。


 ふむ。


「ヤベーのがいんな、…兄貴、関わらない方がいい、無視してさっさと行こうぜ」


 丁度ムカムカしていたところ。


 憂さを晴らすにはうってつけの場面。


 暴れるアレに襲われる予定・・の幼女を助ければ、称賛の声を浴びるに違いない。


 盛大にチヤホヤされて気持ちをリセット。


 さすればこのどうしようもないムカムカも治まるはず。


 よし、やるか。


「おい、早くいこうぜ………って、ちょ!?、お前ッ」


 わららは六階の校舎の窓を開け、小僧が静止する間も無くそこから飛び降りる。


 その際、悲鳴があちらこちらから幾つか上がるが、華麗に着地をして見せた無傷なわららをみて、悲鳴は称賛の交じった驚きの声に塗り替わっていった。


 っふ、決まった。

 ちょっと、足首ひねっちゃった。


「は、な゛、せぇッ!!、俺は天使ちゃんと遊びたいだけなんだぁあーッ!!」


 文化祭に湧いた欲深き蛆。


 その退治を望む周りの声に答えようと、ヒーローは人の合間を縫って、役者の揃う中心を目指す。


「うぉッ、やべッ!!、こっちきた!!」


 一瞬の隙をついて、警備員たちの拘束を強引に振りほどいた男。


 わららの方ではなく、少し横にずれた五、六歳ぐらいの幼女へと駆けだした。


 くけけ、予定通りッ。


「天使ちゃんッ、はぁッはぁッ!!合体ッ、合体しよぉおおッ!!」


「きゃーッ!!」


 周囲に轟く人々の悲鳴。


 狂気じみた男から逃げ惑う大人たちに、腰が引けて取り残される幼女。


 場面は今、整った。


 ここからはアドリブ。


 文化祭のヒロインは、これよりヒーローと成る。


 カッコよく決めてチヤホヤふぃーばータイムじゃぁッ。


 くかーっかっかっかっかッ!!!。


「天使ちゃーーんッ!!好きだぁあああ゛!!」


「邪魔っ」


「んぎょッ!!?」


 いざヒーローが駆けだそうとしたその瞬間、肥えた男が横にブレ、吹き飛んだ。


 ……ん?。


「な、なんだ今の……、あの女の人・・・、不審者を蹴り飛ばしたぞ」


「ぶっ飛び方が漫画のそれだったな…、なんつぅ威力の蹴りだよ、…てかめっちゃ美人じゃね?あのメイド…さん?」


 地面に転がって気を失ったであろう不審者。


 そうなった過程を見ていた者達の視線の先、見覚えがあり過ぎる和風なメイド衣装を身に纏った女が一人。


 眠たげな瞳に、感情のかのじもなさそうな無表情。


 最近、もっといろんな髪型を練習したいからと、ショートヘアを伸ばし始めた女。


 榊家の使用人、零が周囲の視線を釘付けにして、目前に立っていた。


 わららの見せ場が……。


「あ、ありがと…お姉ちゃん」


「ん、怪我は?」


「だ、だいじょうぶ」


「ならよかった」


 襲われそうになった幼女と短くやり取りを行い、零はぎゅるんッと首を回し、わららの方へと顔を向けた。ひぅッ。


「美春様、お怪我は?」


「…あるわけが無かろう」


「それは何より、……ところで」


 謎にぎゅぅっと抱きしめられたあと、零は何かの気配を探る様に、一応の解決を見せて穏やかな空気が流れ始めた周囲をキョロキョロと見渡した。


「つらぬきのソフトが、来ませんでしたか?」


「つらぬきのソフト?…何を言うておる、零」


「デモンズソフトに出てくるボス、つらぬきのソフト、さっき、美春様のお部屋に出現、零がそれと対峙して見事撃退、因みに霞は役立たずだった」


「ふむふむ……ふむ?」


 ゲームのキャラが美春の部屋に現れて、零はそれと交戦した、とな?。


 …ふーむ、……むむむ、……んー……む?。


 訳が分からん。


 訳が分からん、が…、もしや、模型・・の影響を受けての顕現やもしれぬ。


 創作物の存在を核に顕現……、それがであるのなら、鬼人きびとといったところかのぅ?。


 まぁ、今はまだ、情報が無さすぎる。


 定義付けることは後回し。


 とにかく見つけしだい滅ぼす。


 これに尽きる。


 祭りごとに面倒事など御免じゃからのぅ、まったく。


「美春様の気を辿ってここへ来ると思った、でもいない、つらぬきのソフト、どこ行った?」


わららは常に力を抑えておる、辿ることは困難、来たらきたで何事も無く滅ぼせばいい、大義・・はこちらにある」


「なるほど」


「零、せっかくじゃ、わららの付き人として文化祭をまわるぞ」


「招致」


「あ、零さん、兄貴の面倒みててやってくれますか?」


「勿論、ユッキーどこか行く?」


「いつまでもイジけてるやつの相手は疲れたんでね、ちょっと面倒事を片付けに」


 そう言って、何処ぞへと駆けだした小僧。


 …ふん、余計なことを。


 というか、イジけてなどおらぬはッ、生意気な奴ッ。


 返ってきたら、SKともども説教をくれてやるわッ、覚悟しておけッ!!。


「美春様、嬉しそう」


「やかましいッ、さっさと行くぞッ、ついて来いッ」


「あ、あのぉーッ」


「なんじゃッ」


 怒鳴り返した先、少女が数人。


 瞳をキラキラさせて、わららを見ていた。


「その人って、もしかして例の美春さんのメイドさん!?」


 期待のこもった周りの目。


 嘘偽ることなどする理由も無いので、わららは大いに頷いて見せた。


「きゃーーッ、やっぱりッ!!、こんな美人でカッコいい人雇ってるなんて、美春さん流石だわーーッ!!」


 正確に言うと雇っているのは美春の母で、わららではない。


 しかし、特にそれを伝える理由も無い故、盛大に仰け反りながら「まぁのっ」と返しておいた。


 再びざわつきだす周囲の者共。


 ついさっき、不審者から華麗に幼女を救ったヒーローの主人であるわらら


 ただ者ではない凄い人として、その後、しっかりとチヤホヤされた。


 ムカムカはきれいさっぱり消え去った。


 今度は女児どもの相手をしてチヤホヤじゃッ。


 くけけけっ。


 文化祭、たのちぃのぉ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る