第65話 榊家凸ラッシュ!!、忍び寄るSK!!

「美春ちゃんッ!!僕だよッ!!、まどかだよッ!!」


 俺のREIN友だちが増えてから一週間が経過した。


 その間、俺は家の中でも母から貰った狐の仮面を肌身離さず持ち歩くようになっていた。


 そうなった理由は、ここ最近、学校の連中が以前にも増して家凸してくるようになったからだ。


 俺を俺と見ない視線。

 それから逃れるために仮面は必須。

 この前の様なミスなど天才はしないのだ。


 万が一に備えるべし。

 少しでも嫌な思をしないよう。


 今は母も父もいなければ、雪美も霞さんもいない。


 頼れるのはナマケモノと犬だけ。

 何と心もとないことか。


 だからこその自衛=仮面である。

 

「あの二人と連絡先交換したらしいね、…大丈夫ッ、僕は君が浮気なんてしないってことッ、ちゃーんと知ってるからさッ!!、…だ、だだ、だから僕ともREIN交換しようよッ!!、寝落ち通話しよ――」


 再び家凸するようになった学校の連中。


 その要因は、どうやら藤ノ原連にあるらしい、と花子が教えてくれた。


 藤ノ原連がクラスで俺と連絡先を交換したことを公言して、ライバルを煽ったことで榊家凸ラッシュが始まったのだ、と。


 俺に盲目的な人達。

 馬鹿の煽りに堪え切れず、募る想いが爆発。


 結果、文化祭ムードも相まって、勢いままに家凸。


 全くもって迷惑な話である。


「そういえば文化祭の日、僕と一緒に回ろうよッ、ちゃんとママからデートの極意は学んだから安心して!、他の奴らの誘いなんて全部断っちゃいなよッ!!僕――」


 迷惑といえば学校の先生方もこれに関連したことで迷惑をこうむっているらしい。


 文化祭当日、俺が来るという噂が学校中で流れた。


 発信元は丸メガネをかけたクラスの男子だという。


 ろくに話したこともない奴。

 つまりはただのデマだ(真実)。


 しかし、噂が大きくなりすぎたことで歯止めが効かなくなり、その結果、誰が俺と一緒に回るかの言い争いが校内で多発。


 女と女の争いもあれば、女と男の争いもある。

 男と男の争いがあれば、男と男の争いもある。


 一週間前から先生たちは、とても大変そうにしているという話だ。その内に注意喚起のため、全校集会を執り行うとかなんとか。


 俺を求めた結果の醜い争い。

 現場はカオスを極めていく一方だという。


 ……なんだ、そのわけのわからない状況は。


 俺、関係ないよな?。

 

 何もしてなければ、悪いこともしていない。


 先生たちから怒られるなんてことなんて無いよね?ね?。


 てかそもそもの話、そんなことで言い合いなんかしてんじゃねえよ。

 

 ちゃんとした異性との交流をしろってんだよ。


 このままじゃ俺が悪いみたいになるじゃんかよ。


 ざけんな。


「たっはーーッ、笑っちゃうよねぇーっ!!、あいつら本気で傾学けいがくの美少女と名高い僕のフィアンセと文化際を回れると思――」


 俺はただ生きているだけ。

 悪いのは全部、要因である藤ノ原連。


 あの野郎マジでふざけんな。

 なに面倒な流れ作ってくれてんだよ。


 おかげでこっちはインターホンが鳴るたびに、体がビクつくようになっちまったじゃねぇか、クソがッ。


 今度、会ったら只じゃおかんッ。

 元親友だからって容赦しない。

 コテンパンに叩きのめしてやる。

 うちの狂犬、雪美がなぁッ!!。


「美春ちゃーーんッ!!、だから僕とッ、ん?………あぁ、あんた、って、何をする気だッ!、僕に近づく――げぼぉッ!?」


 両親がいつの間にか出していた家凸自粛要請も、新規発展の意味を込めて、夏休み明けで解除という約束。


 のほほんとした使用人で美人な零さんにもファンが出来たとかで、家凸の流れは今後も加速されると花子は言う。


 …安息の日々がぁ、俺のラッシュな生活がぁ。


 おのれ許すまじ藤ノ原連。


 全部あいつが悪い。


「……ないす、零さん」


 俺はREINの友達の一人を非表示にしながら、ようやく近所迷惑な奴を排除してくれた零さんにガッツポーズ。


 漫画のように首筋をトンッ、…ではなく、鳩尾に膝蹴り一発。


 大人げなく、容赦もないが、その洗練された動きはカッコよかった。


 我が家のナマケモノは、どうやら対人格闘術に秀でた才をお持ちのようで。


 一応、これで使用人としての面子は保たれたと言っていいだろう。


 ご褒美に、あとで安眠枕を贈呈しよう素晴らしい。


「うひ、うひひひ……んぁ?、……なんだぁ、あれ」


 道端に転がされ、コマ君にマーキングされている丸眼鏡の少年をクスクスと仮面越しに嘲笑っていたら、一連の様子を道角から盗み見る少女らしき仮面をつけた人物が一人。


 犬の可愛い仮面。

 病的なまでに白い肌。

 やけに均等の取れた体躯。

 黒髪ロングの若干ウェーブ掛かった癖毛。


 何処かで見覚えがあり過ぎる。


 はてさてあれはいったい…。


「ま、まっさかぁ…」


 俺の個人情報は教えていない。

 だから問題はない。


 と、思ったのも束の間。

 一週間前のやり取りを思い出す。


 彼女はおにぃが俺の家を知っているとかなんとか言っていた。


 つまり、可能性としてあり得てしまう。

 あれがパーティーで遭遇した彼女だということが…。


 ゴクリ、と喉を鳴らす。

 冷や汗が頬を伝う。


 もはや見覚えしかない犬の仮面。

 まさかまさかと俺は凝視する。


 不意に仮面が動く。


 目と目が逢う~♪、瞬間~♪。


―――ブーーッ、ブーーッ。


 謎なBGMが頭の中で再生されたと同時、カーテンを閉める。


 少しの間を置き、スマホが呻りだした。


 唸る様に音を出すそれの画面を確認。


「ひぃッ」


 見覚えのあるVTuberのアイコン。

 そして映し出されるSKという文字。


 オフコラボオフコラボ五月蠅いので非通知にした結果、今の今まですっかり返信することを忘れていた俺。


 一週間まるまる既読もつけず放置。

 さぞSKはトンカチカンカンなことだろう。


 ヤバイ。

 怒られる。


「か、仮面付けてたし……、あ」


 素顔はみられてないのだから大丈夫。

 この連絡はきっと偶々だ。

 居留守を使おう。


 そう判断したのも再びの束の間。

 その仮面自体があの時の顔だったことを思い出す。


「こうなったら時を……いや、だめだ」


 見える景色に集中しようとする。

 が、寸前で辞める。


 ちょっとぐらいなら、と思わなくも無いが、失明する可能性を示唆されては使うことに抵抗がある。


 それに、ただ居留守を使うためだけにカイビャヌのなんたらかんたらを使っては、大義どうのこうので今度こそお尻を鞭で叩かれる様にペンペンされてしまう。


 痛いのは嫌だ。

 だからこのまま行くしかない。


「……ひぅっ」


 覚悟を決め、逃げ場のないまま外を見た。

 思わず悲鳴が漏れ出た。


 仮面を外した色白の少女。

 狂気じみた現場から身を潜めることを止め、道角から堂々とその姿を現し、憤怒の表情を浮かべていた。


 兄に似ていて実に整った容姿だ。

 癖っ毛がお茶目な感じがしてかわいい。

 切れ長の瞳が実にミステリアスで愛らしい。

 不健康そうな白い肌も、貴方の美しさを際立たせている。


 俺は少しでも彼女の怒りを鎮められる台詞を必死に探した。


「ワンッ、ワンッ」


 姿を現したSK。

 それに気が付いたコマ君。


 空気も読めず、「遊んで、遊んで」とSKにジャレつき始めた。


「……」

「……」


 コマ君を撫でながらも、そのシャープな目尻に寄った瞳が俺を捉えてやまない。


 俺はそれに射抜かれ、察する。

 いくらメッセージを送ろうと、許されないのだと。


「…ご、…ごご、ごぺんらたい」


 無意識に出る言葉。

 それそのままにメッセージ。

 許されないとわかっていながら、送信。


―――ブーーッ、ブーーッ。


 すぐ返ってきた。

 ただ一言返ってきた。

 

『オフコラボ』。


 と。


 怒られる恐怖。

 許されたいという気持ち。


 それらが入り交ざった結果――…、


 トタタタッ、と俺は無我夢中で彼女を出迎えに走った。

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