第49話 二成琉琉の妹

 自然と文明の調和がとれた街並みが広がる二茂にしげる区。


 日本のパワースポットとして有名な富士山や伊勢神宮などで感じられる神秘的な何かを味わうことができると評判なその中心地には、近隣住民ですら立ち寄らないと言われている山がある。


 許可なく立ち入った者が度々、姿を隠すことから、神隠しの山・・・・・とも言われていたりいなかったり。


 山の持ち主として世間の極々少数に認知されている者の名前からとって、榊天山さかきてんざんと言われていたりいなかったり。


 それの名称は大昔から一つに定まったことは無い。

 

 風が噂を運ぶように、名前もまた何処ぞへと流れ、いつからか人々の曖昧な記憶にすら跡を残さず消え失せていく。


 現代文明の力、クークルマップにすら無名の山として登録されていることを鑑みるに、これから先も、それは変わらぬ歴史としてこの世界に刻まれるのだろう。


 時代を追うごとに噂され、人々の間ではその存在がはっきりと認知されているというのに、令和となった今も、そしてこの先も名前が無い。


 不思議なこともあるものだ。


 山の形、伝承、位置、地形、そのどれをとっても無名の山は実に印象深い。


 少しでも人の記憶に残ったのならば、名前があって当然の世。


 それにもかかわらず、人々の間でその山を指すときに使われるのは通り名、と正式名称ではないものばかり。

 

 一部の例外を除き、世間一般的に見て、誰一人として正しい名前を使えない。


 まるでその山の存在を、皆で寄ってたかって無視しているかのように見えるのは気のせいだろうか?。


 どこぞの頭オカで男の娘な者であれば、「無視なんて、お山さんが可哀想」などと、とち狂った発言をしてしまう程には在り方に奇奇怪怪なものを感じる。


 通り名の一つに怪異山というのがあるが、まさに的を射た命名だ。それが歴史に定着しなかったのが不思議でならない。


「あはは、失敗失敗」

 

 非常に不気味で不思議な無名の山。

 その山巓さんてんには、いつ建てられたかもわからぬ立派な御屋敷が在る。


「流石は僕の、手強いなぁ~」


 御屋敷の広々とした客間。

 畳の上で寝転がりながらハイスペックなノートパソコンをいじる少女が一人。


 伸びに伸びた黒髪を後ろで一本に結い上げ、両目に緋を灯すそれは、口元を三日月に歪め、耽美的な声を晒してくつくつと笑っていた。


『妹?、ルルさんの妹がこの大会に参加してるんですか?』


 十数万はくだらない高級イヤホン。

 それを通して、可愛げのある少年の声がルルと呼ばれた少女の鼓膜を揺らす。


「うん、参加してるよ」


『まじですか、因みにお名前は?』


「それは僕だけが知る秘密ってやつさ」


 何処か優越感に浸りながら少女――ルル。

 話題に上がった妹と秘密を共有出来て嬉しいようだ。


 まるで妹を一番理解しているのは自分だと言いたげなドヤ顔をしている。


『妹さんの宣伝とかしてあげないんっすか?』


 ルルが悦に浸っていると、少年とは別の男が、青年の様な甘い声で質問する。


「ん?、しないよ?なんで?」


『いや、なんでって言われても……、身内ならそうしてあげるのが一番かなって』


「…一番、あはは、グレン君は分かってないなぁ」


 ルルはそういうと、人形のように整い過ぎた相貌に悪戯っぽい笑みを浮かべ、続けて「可哀想は可愛いだよ」と、グレンなる者に返した。


『…可哀そうは可愛い?』


「必死に底辺で藻掻くその姿をみてると、可哀想に思う反面、可愛いって思うんだ」


『はぁ、成程』


 成程といった割に理解していないグレン。

 この人は何を言っているんだと言いたげである。


「それに、必死で努力して頑張っている所に僕が手を貸したら、向上心が育たないでしょ?、何事も楽はいけない。妹に楽する道は選んでほしくないのさ」


『そうっすか、妹さん想いなんすね』


「そうそう、こう見えて僕は妹想いなお姉さんなんだよ。あはは、皆もそう思うでしょ?」

 

 ルルはそういうと、画面の端においやっていたチャット欄を見る。


【二成琉琉】

 チャンネル登録者数1100万人。

 現在のライブ視聴者数12万人。

 

≫ええ話や。

≫底辺で藻掻くは草。

≫妹さん誰だろ。

≫実の妹なん?。

≫絵師が同じとか?。

≫特定班仕事だ。


 日本一のVTuber二成琉琉。

 それがノリで初めて口にした妹という存在。


 チャット欄にコメントをする視聴者たちは、それについて色めき立つように反応を見せ始める。


 多くの憶測が飛び交うも、誰一人としてその人物を察する者はいない。


 それも当然の話。

 ルルが口にした妹は、男としてVTuber活動をしているのだから。


 妹=女性VTuberを連想させてしまっている視聴者では、決して真相に辿り着くことは無い。


 もし、たどり着いたとしても――…、


≫もしかして豪王ラッシュ?。


「……」


 12万もの視聴者いる中。

 察せられた者がただ一人。


 秘密を視聴者たちと共有する気が欠片も無いルルは、その視聴者の名前をディスプレイ越しに指でなぞる。


「察しのいい蛆虫もいたものだね、やれやれ」


 マイクをOFFにして、独り言を呟くルル。


 妹の存在を自らが公言してまねいた種。

 それを取り除こうと、指先に力を籠める。


―――ッビ。

 

 薄暗い部屋の中、誰かの首が飛ぶ。


 ルルはそれを両の緋眼で見つめた後、再びマイクをONにした。

 

――後書き――


新年早々、風邪をひきました。

吐き気と頭痛が凄いです。


拙い文が更に悪化してしまいました。


もう少し話を進ませる予定でしたが、体力の限界ということで断念。


次回は意識を取り戻した美春視点の話になります。

ようやく主人公が活躍?するのかって感じです。

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