第48話 わらら娘、寝落ち

『あー!やられちゃった!』


 三人からの集中砲火を浴び、SKが砂の地面に倒れ伏す。


 部隊全滅。

 

 その文字が非常にも、わららの正面に位置するモニターに浮かび上がった。


『あの動きの練度と構成、察するに八咫のカラスでしょうね、…流石はプロといったところでしょうか』


『くっそー!あともうちょっとで勝てたのにぃー!』


『申し訳ありませんお嬢様、私がカバーしきれなかったばっかりに』


 申し訳なさそうに謝罪するメテヲ。

 それにSKは、『気にすること無い』と、気にしているだろうにそう返した。


『……』

『……』


 互いに遠慮したような対応。

 謎な無言が合間に挟まる。


 責任からの呵責、無駄な配慮。

 二つの意識が合わさり、何とも重たい雰囲気がこちらまで漂ってくる。


 全くもって煩わしい。


 今世の者は言いたいこともはっきり言えぬのか。


 他人だからと線を引いて、本音を隠していてはいつまでたっても団結する力は結び付かぬ。


 このABEXでは何よりもそれが大事だというに。


 自己嫌悪や配慮などくだらぬ。

 心置きなく楽しむ、それこそゲームの本質じゃろうて。


 ここは不甲斐ない仮初のチームリーダー(SK)に代わって、ケロぺロスの輪の真の指導者リーダーであるわららが、勝敗の起点となったメテヲに有難い説教をくれてやるとしよう。


 そしてこの忌まわしき空気を浄化し、互いに言いたいことを言える場を整えてみせようではないか。


 どこぞの小娘よりも、二成からの説教の方がメテヲもうれしい筈。


 わららからのそれ。

 欲した者は数知れず。


 くかっかっか。


 勿体なきことじゃが、くれてやろう。


 喜べ、変態めがッ!くか、くかっかっか!!。


『それよりラッシュ!』


「けぴッ」


『また、勝手に行動したな!!お姉ちゃんたちから離れるなって何度も言ってるのに!いい加減にしなさいッ!!』


 説教の口火を切ろうとした途端にSK。

 気まずげな空気を怒声で緩和。


 それっぽくなりつつある謎な姉口調といい、それといい実に腹立たしい。


 いきなり大声を出すんじゃない。

 びっくりするじゃろうが。

 まったくもうッ。


 わららは愚痴を溢しつつ、説教する対象を変態から小娘に変更。


 眠たげな瞼をかっぴらき、鋭い眼光を飛ばしながら存分に罵ってやる。この無礼者めがッ!!、と。


『何言ってるか分からん!もっとはっきり喋りなさい!ぱかぱんッ!』


 二成の威厳を示して見せても怒声。

 珍妙な暴言が飛んでくる。


 全く、SKの無礼さには、もはや怒りを通り越して呆れすら感じつつある。


 世が世であれば不敬罪が適応されて死刑。

 相手が女子供など関係ない。

 

 赤子であろうと、わららに暴言を吐いたとみられたならば、首が飛ぶ。


 二成への暴言は死をもって清算される。


 それがわららが生きた時代。


 故に、SKの言動には呆れるほかなし。


 SKがこれまで犯してきたその罪の清算は、彼の怪物、八岐大蛇でも首が足らなくなるほどじゃろうて。


 全く、二成の権威も堕ちたものよ。


「ふぃ~…」


 わららは軽くため息を吐き、有難い説教を打ち止める。


 蛆虫には勿体なきこと故。


 ふんッ。


『…Mrラッシュ、大丈夫ですか?』


 未だに喚くSKを諭しながらメテヲ。


 何を心配しておるのかわからんが、とりあえず問題ない、と首を振って答える。


『えっと、Mrラッシュ?大丈夫ですか?……もし、体調が優れないのでしたら、主催側に相談した後、休まれてはどうです?』


 休むわけが無かろう。

 何を言うておるのかこの戯けめが。

 

 わららが抜けたのち、誰がその穴を埋められるというのか。


 歪な力が加わった大会。

 そこらの蛆では務まらぬ。

 貴様らは黙ってこのわららに期待せよ。


 そして、勝利の文字を手にした暁には、このわららを褒めて褒めて褒め称えよ。


 二成の力、今ここで見せつけてくれるわッ。


―――ダンッ!!。


 わららは気合を込めるように両手に握りこぶしを作り、それを机の上に振り下ろした。


『ふむ、まぁ、えーと、元気そうで何よりです。…無理そうだったら言ってくださいね?』


 そういうと、メテヲはSKと共に、敵情視察をこめた観戦へと移行。敵の画面を眺めては、二人で意見を出し合い始めた。


 勝つための会話となれば、もう気まずさはないらしい。


 …都合のいいことで結構結構。


 ABEXの情報に疎いわららは、二人のその会話についていけず、暇つぶしに視聴者の声を拾う。


【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3890億人。

 現在のライブ視聴者数5980兆人。


またキチガイ化かよかわいいの化身かよ

ラッシュの頭がクラッシュ状態ラッシュ天才

せめて日本語しゃべってくれ喋ってるだけで癒される

この配信カオス過ぎん?この配信神すぎん?

まぁ、平常運転いつも通りかわいい

流石コマンダー流石指揮官


「…くかっ、くけけけけ」


 文字が流れるチャット欄。

 万雷の拍手喝采が聞こえよる。


 配信にたかる蛆虫共も、ようやくわららの凄さに気づき始めたようじゃ。


 くかっかっか。

 くるしゅうない。

 くるしゅうないぞ?。

 心置きなく存分にもっともっともぉ~と褒めてたも?。


 くけ、くけけ、くぷぷぷぷッ。


 【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3890億人。

 現在のライブ視聴者数4480兆人。


≫くぷぷww。

≫笑い方。

≫様子がおかしい定期。

≫なるほどこれはアタオカ。


「…ふぁ~あ~あ~あ……ねみゅ」


 心地よい蛆の声。

 それを拾って大満足。

 

 そろそろわる頃合いか?、と思うも、まだ遊び足りないし、やることがあるので眠気を我慢。


 どこぞの馬鹿猫を消そうと企む者。

 途中で謎にやる気を出し始めたABEXの実力者である八咫家の三人。


 開闢の瞳を酷使することになった要因であるそれらへのお仕置き。


 それがまだ残っておる。


 これまで雑魚狩りに専念し、それらと出会わぬようしてきたが、そろそろ逃げることにも飽いてきた。



 主体の目覚めの時が来るまで、ある程度の見せ場はつくって、結果たくさん褒められた。わららけっこう満足。


 満足ついでに、我が物顔で大会に臨む邪魔者を排除してくれる。


 試合目となる次でMAXフルパワーだ。


 大物喰らいジャイアントキリング、それを成し遂げ、幕を引こう。


 そのあとのことは美春が何とかするじゃろうて。


 くかっかっか。


 聞こえよる、蛆虫共のわららを称える声が!鳴りやまぬ喝采が!。


 くかっかっか。

 くひ、くひひひ。

 いひ、いひひひ。

 うぴ、うぴぴっぴっぴ。


「……うぴ?」


【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3890億人。

 現在のライブ視聴者数4980兆人。


≫急に笑い出すなw。

≫笑い方不快で草。

≫さっきからなんなんww。

≫笑い方ッ!!。

≫うぴっぴっぴは草。

≫チーターに碌な奴はいねぇ。

≫ラッシュたん大丈夫?。

≫これにはお仲間二人もドン引き。

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