第45話 予兆

 大会の勝敗を分かつ「ポイント」。


 それの獲得方法は全部で二つ。


 相手を確殺することで得られるキルポイント(1キル=1ポイント)。


 各ラウンドの順位ポイント(1位12pt/2位9pt/3位7pt/4位5pt/5位4pt/6位3pt/7位3pt/8位~10位2pt/11位~15位1pt/16位~20位0pt)。


 効率的かつ安全にポイントを獲得していくのであれば、序盤はひたすら戦闘を避け、順位ポイントが得られるタイミングでキルを狙うのが得策。

 

 既定の50ポイントに達するチームが出てくるまでは、恐らく大半のチームがそういった思考の元、動くに違いない。


 現に、ラウンド1、2と進めた今、安全地帯アンチに先入りして守りを徹底した動きをする部隊や、アンチ外で燃える炎のリングで焼かれながら戦闘を避け、序盤は貪欲に順位を伸ばす部隊もいたりする。


 各部隊、戦略的撤退を視野にいれて大会に臨んでいる。


 大会始まって2ラウンド目。

 各所の戦場は未だ平静を装っている。


 所々で火花を散らすが、最終局面になるまでは基本ただの探り合い。いけたらいくって感じだ。ダメだったら即座に撤退。


 どこもかしこも時が来るまで逃げ腰に弱腰。

 

 漁夫ゲーと呼ばれるABEXでは、それが圧倒的に強い立ち回りかた故に。


 だがしかし、わららたちケロぺロスの輪はというと――…、


「蹂躙せよッ!!」


『スパンキィィイング、メテヲッ!!スパンキン!スパンキン!!ケツ穴確定ぃぃぃいい゛!!』


『敵前逃亡は重罪だぞぉお!!がおぉおおん!!』


 序盤は戦闘を避ける。

 それを真っ向から否定。


 見つけた雑魚・・を片っ端から屠りに行く。


 守りではなく、逃げに思考を置いた獲物ほど狩りやすいものは無い。


 それに、わらら達は配信者であり、ストリーマー。


 見せ場のない展開など誰も期待しておらぬ。


 だからこその雑魚狩り。


 SKもメテヲも好戦的なので、自然に戦場へと誘導できる。


 開闢の瞳が疼くというもの。


 くけけけけ。


―――ダダダダッ。

――ダダダッ、ダダダッ。


「くかっ!!どこを狙ろうておる!!お返しじゃ!!うぱぱぱぱッ!!ぴぃいやぁああッ!!」


『ラッシュこそどこ狙ってる!!神殿の後から碌にダメ入れて無いってペロラーが言ってたぞ!!』


『っほっほっほ、お嬢さま、一応ダメージは入れているようですよ、ゾンビにですが』


 砂漠都市の北側にあるオアシス。

 そこから東へと進んだ先のアンデッド広場。


 日夜の殺し合いで出来上がった死体の山が、生命の泉と呼ばれているオアシスの影響を受けて動き出す。


 広場に蔓延るは死肉ゾンビの群れ。


 それを狩ることで得られる物資と経験値。


 せこせこと死肉ゾンビの相手をしていた部隊相手に、わらら達は交戦を仕掛けた。


 先陣を切ったのは当然、わらら


 薄ノロな死肉ゾンビの群れを掻い潜り、標的との距離を詰める。


 背を向け走り出す標的に照準エイムを合わせ、引き金を引く。


 撃つ撃つ撃つ。

 ダメージ0。


「っち、反動ぐらい御しておけッ、空け者がッ!!」


『スパンきぃいん!!』


『1キルGetだぜ!!』

 

「貴様ら!!わららの獲物を横取りするでない!!」


『エイムが悪いのは大罪!!だからラッシュが悪い!!』


『そこにいい形のお尻があるのだから、スパンキングしたくなるのは仕方なし。早い者勝ちですよ、Mrラッシュ、っほっほっほ』


「おのれぇ、ああ言えばこう言いおって…、ぐぬぬぬぬ」


 瞬き一つで世を静定。


 開闢の瞳によって乖離された「過去」と「未来」。


 それらを二成の神気で再び紡ぎ直し、「今」へと至る。結果、変わらず。


 撃っては的に外れる。

 大立ち回りしては孤立したところを逆に狩られる。


 用意できる最高な見せ場が、これと相成った。


 解せぬ。

 ぐぬぬぬッ。


 二成ともあろうわららが妥協して道を行く。不甲斐なし。


「はぁ、はぁ…、くそッ、所詮は亡神ぼうじん、ということか」


 力を使った影響で息切れを起こしつつ、視線を右に移してこの結果を見届けた蛆虫共の声を拾う。


【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3680人。

 現在のライブ視聴者数3900人。


≫イキってるわりに活躍無くて草。

≫なに出しゃばってんねん。

≫バックパックが自我持つな。

≫チーター…にしては。

≫え?勃起?。


 少し前の二成琉琉との対戦と比べて大分減った蛆の数。


 不正を疑う少数と、相も変わらず品が無いのが居残っている。


 疑念の声とは裏腹に、徐々に増えていく娘達ドーターズ


 ラッシュ(美春)の娘の数が増えていくにつれて、練り上げた神気が僅かに減っていく。


 そのことから察するに、美春が加護を与えるきっかけはどうやらチャンネル登録の瞬間。


 減り具合から感じ視て、恐らく一度でもチャンネルを登録すれば一生付与らしい。


「……浅い」


 加護を与える理由が浅すぎる。


 本来、加護の付与はもっとこう、神聖な儀式を執り行って、もっと、なんじゃ、これがあーでこーで……えっと、つまり、こんな簡単に与えてしまっていいものではない、のじゃ。


 僕たる神にすら与えることも憚られる代物。


 わららルル姉・・・にそう教わってきたし、実際、そうしてきた。


 それ故、どうにも次から次へと加護を与える美春の無意識的行動に気が落ち着かない。


 気軽且つ手軽に蛆を守護しているというのだから美春は気が触れておる。


 全くもって頭がおかしい。


 アホじゃ阿保。

 空けじゃ空け。


【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3680人。

 現在のライブ視聴者数3880人。


≫いつも通りって感じやな。

≫中身変わったかと思ったけどこのリココンは本物ですわ。

≫キチガイムーブも安定。

≫チート使っててこれですか?w。

≫↑ラッシュたんが不正するわけないだろ4ね餓鬼。


 頭のおかしい美春に、理想を押し付けて集る娘達。


 不正を疑い、悪戯に誹謗中傷してくる蛆よりかは幾分かまし、か。


「…ふむ、まぁ、よかろう」


 あまり活躍できなかったことで、さらなる誹謗中傷がとんで来よると思いきや、いつものラッシュ(美春)を揶揄うノリが続いておる。


 自称娘を名乗る蛆虫共は、誰もかれも悪意という程のモノを持っておらなんだ。


 視聴者が減って、同時に不正を疑う耳障りな声も減った。


 褒め称えるほどの発言がなくとも、現状、これで満足する他あるまいて。


『ラッシュ!!いつまで漁ってる!!リングが収縮しきる前に早くアンチ行くぞ!!』


「けぴッ」


 急な怒声。

 戦闘の余韻に浸っている時にしてくれる。


 おのれSK。

 上からの物言い。

 まっこと無礼な奴じゃ。


 わららの姉をのたまうのなら、少しは慎みを覚え、優しく声をかけろッ。


 いつの日か、目にものを見せてくれるわッ!!。


「くかっか、その日が楽しみじゃ、くか、くけけけ」


【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3690人。

 現在のライブ視聴者数3980人。


≫笑い方よ。

≫様子がおかしい。

≫様子がおかしいのは定期。

≫今日のラッシュは一段と…。

≫これで萌えな声してるからおもろい。

≫萌えな声?ラッシュって女なん?。

≫女4444。


「くけけけ、……くけ?」


 目の前を行くSK。

 それを追いながら妄想していると、僅かな眠気を感じた。


 はて、何事か、と思考すること瞬き一つ分。


「…ようやくか」


 主体である美春の目覚めが近し。

 そのことを察して、眉を顰める。


 興が乗ってきたところのそれで、わららちょっと不機嫌。

 

 力も碌に使えない、使わない。

 そんなお前に何ができる。


 内心で色々と愚痴を溢しつつ、わららは残り少ないだろう時間を楽しもうと、思考を切り替える。


―――ズズズッ。


「ぬぅッ!?」


 唐突な疲労感と喪失感。

 その原因は、神気の放出。

 全くもって意図したものではない。


 わららは胸に手をあて、少ない神気で練りに練り上げたその力の所在を探る。


「……空けが、勝手に力を使いよって」


 目覚めが近い仔猫な美春。

 夢の中で母猫に甘えながらぐうたら生活。


 目覚める時が来るまで、そのまま道化を演じていればいいものの、何故か力を使って母猫に化けた『白』と共に遊びよる。


 まったくもって迷惑な話。

 わららにとっても、そしてこの世にとっても。


「面倒ごとは全て己に返ってくる、そう心しておけよ」


 開闢の瞳をもって生まれる二成の神。


 それが齎す世界への影響を考えながら、再び少ない神気を練り上げ、力を溜め込み戦場を駆ける。


 美春が目覚めるまで、雑魚を狩って狩って狩りまくりじゃッ。

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