第44話 神なる幹、「エルステム」

 神成かみなる者には神気が宿る。


 それの本質は『つむぐ』こと。


 この世のありとあらゆるものを紡ぎ、が想像出来うる全ての現象を理に反して強制させる。


 神気の源は、人々の願いや想いを汲んだところに在る。


 故に、その強制力は、願いの「数」と「質」、そして、神気が宿る「肉体」に依存する。


 1より10、これが数。

 10より1、これが質。

 11より0、これが肉体。


 つまり、神気というものは、最終的にそれを扱う者によって引き起こす事象の大小が決定する、ということ。

 

 『白』に微笑まれた人のみが持つ器官。

 それを白の住人は神の幹エルステムと呼んでいる。


 形はなく、目には見えない。

 しかしそれは、神秘なる樹木がその根を生やすが如く、体の隅々まで張り巡らされている。


 神気という人知を超えた超物質。

 エルステムはそれを捉え、増幅させ、宿り主の強制力という名の力へと変換する役割を持つ。


 人々の願いや想いは、巡り巡って神の力の糧となる。


 亡神となったわららとて、例外ではない…――――、



―――「わららが突っ込む!左右から展開し、無礼者どもを殲滅せよッ!!」


 砂漠都市キンクスキャリオン。

 その地下神殿に現れた三人の刺客。


 それを屠ろうと、SKとメテヲの二人に指示を出したわららは、物陰から飛び出し、起点を作るべく駆けだす。


『ちょ、ラッシュ!急に飛び出すんじゃない!!』


『スキャンいれますッ!お嬢様!カバーをッ!!』


 わららの声に即時対応する近衛の二人。


 その声を背後に聞き拾い、練った神気を放出させ、いくつもの未来を視て巡る。


 一身に注がれる弾の雨。

 一つ一つそれらの情報を精査。


 何十、何百通りを読み解き、今へと至る。


――はぁ!?弾当たんないんですけど!!?。

――奇跡的に噛み合わんッ!!。

――お前らフォーカス合わせろ!!。


「くかっかっかッ!!愉快愉快!!」


 紡いだ敵の声・・・

 それを耳に拾い、大胆不敵に正面突破。


 遊戯ゲーム故、肉体操作に限界はあれど、只人の攻撃など襲るるに足らず。


 有象無象の蛆虫どもめ、地を這う死肉と化せッ!!。


 戦術スキルや必殺技アルティメットスキルを駆使し、死なぬ程度に距離を詰め、銃弾を撃ち返す。ダメージ0。


『挟んだッ!!やるぞメテヲ!!』


『スパンキンッ!!スパンキンッ!!いいぃいいお尻ですねぇえええ!!!』


 地下に建てられた神殿の屋根の上。

 そこに陣取っていた三人の敵。

 

 わららに注意を向けていた敵は、突然、左右から登ってきた二人に慌てふためく。


「ぜぇ…ぜぇ、お前たち!!わららの手柄も残しておけよ!!」


 力を酷使したお陰で見事、敵二人を撃沈。


 起点を作り上げた功労者たるわららは、視聴者リスナーの声に耳と視線を傾けながら、脱兎のごとく逃げる三人目を近衛の二人と共に追う。

 

【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数1112人。

 現在のライブ視聴者数2240人。


≫流石弾避けのプロ。

≫起点ないす。

≫「わらら」ってなに?。

≫なんか動き良いな。

≫中身入れ替わりました?。

≫敵の位置正確だし動きもいいし怪しいな。


「くかっかっか!、戻ってくることは知っておった!!」


 兎となって逃げた獲物。最終的に味方の死体デスボがある場所まで戻ってくることを視て知ってわらら


 涎を滴らせながら来る小娘と、豹変した変態に横取りされる前に、見せ場欲しくて敵に一騎打ちを仕掛ける。


「背を向けるとは愚かッ!!」


 せっかくの見せ場。

 一目散に逃げる獲物。


 それを知っておったわららは、カッコよく叱責を飛ばしたあと、敵が逃亡するルートへ爆弾フラググレネードを投げ入れる。


――ズドーーンッ。


 未来と過去。

 何度か往復して練習した後。

 敵は定められた結末を辿ってご退場。


 っふ、他愛なし。


【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数1180人。

 現在のライブ視聴者数2340人。


≫一試合目の弱腰はどした?。

≫こいつの配信で初めてkillみたかも。

≫お前ほんとに頭オカ?。

≫口調とか急に変わったし怪しい。

≫試しに地声出してみろ。

≫敵が戻ってくるって踏んでデスボ近くでまっとったんかやるやん。


 相も変わらず空け者の視聴者リスナーは品が無い。


 わららを純粋に褒め称える声はニ割にも満たない。


 どれもこれも懐疑的な視線を向け、配信を見ておる。


 むぅう、褒められたりぬ。


 もっと、もっとじゃ。


 もっとわららを褒めてたもッ!蛆虫ども!。

 

「次じゃ!!次!!」


『また急にどっか行って!チームリーダーでお姉ちゃんの私を置いてくなっ!!ぱかぱんラッシュ!!』


『っほっほっほ、賑やかになってまいりましたねぇ…じゅるりッ』


 次なる敵を求め、ケロぺロスの輪は戦場を駆ける。


== 巨人の墓場 ==


 地下神殿から這い出て東。


 荒れ狂う砂嵐を抜けた先。

 巨大な人骨が幾つも発掘された遺跡があった。


 そこでは比較的レア度の高い物資が幾つか埋まっており、ランダムで出現する巨大な指輪を破壊することで、それらが砂の大海から浮上する。


―――ダダダッ!。

―――ダダダダッ!。


 狂気に身を堕とすことも忘れ、ひたすらに発掘作業を続けていた三人組の阿保。


 それらを片付け、ついでにレア度の高い物資を回収。


 途中で銃声を聞きつけた別の敵が現れるも、それを知っておったわららは、巨人の骨の上から地の利を活かして近衛の二人と共に迎撃。


 見事殲滅。


 立て続けてに三部隊を屠るケロぺロスの輪。


 いずれも起点はわらら


 凄かろ凄かろ?。

 褒めてたも褒めてたも。

 

 くけけけけッ。


【豪王ラッシュ】

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≫くけけけけww。

≫こいつ笑い方おかしくね?w。

≫↑頭オカやからしょうがなし。

≫てかやってんなぁこいつww。

≫明らかに動きがおかしい。

≫弾も全然当たらんしこれはもう確定かな?。


 褒めるどころか不正を疑う視聴者リスナー


 てっきり称賛飛び交うものかと期待していただけに、気分が落ち込む。


「……蛆虫どもが、わららの力、低俗なものと決めつけるか」


【豪王ラッシュ】

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≫娘から蛆虫にグレードダウンww。

≫不正は立派な低俗行為です。

≫通報しました。

≫SKとメテヲはやってなさそう。

≫↑一緒のチームということで同罪。

≫不正444。

≫こいつ終わったわww。


 開闢の瞳。

 それの全容を知らぬのだから当然の反応。


 不正チート行為と疑われても仕方なし。


 けれども……。


「……今、詫びるのであれば許す、わららの力、低俗と見誤ったその目をくり抜き見せよ。わららを侮辱したその舌を噛み切れ」


 感情に理性が追い付かぬ。


 強めの語気で詫びを要求。

 

【豪王ラッシュ】

 チャンネル登録者数3180人。

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≫何様ww。

≫こえーーよww。

≫あれ、こいつこんなキャラだっけ?。

≫なんか様子がおかしい。

≫様子がおかしいのは平常運転。

≫声震えててワロタ。

≫お?泣く?泣くの?。

≫44444444。


 開闢の瞳を持ちて万天を定め、道を開ける。


 それこそが二成の歩み方。


 蛆虫どもが不正だと口にしたい気持ちは分からんでもないが、こればっかりは持って生まれた才能の違い。


 どうせ説明しても蛆には理解できぬ。


 文字通り、わららと地を這う虫けらではモノが違う。天と地ほどにも。


 というかわららの笑い方を侮辱しおったやつ…許せぬ。


 空け者が侮辱されることは良し。

 姉とのたまうSKが侮辱するのも…まぁ、良し。


 しかし、有象無象の名も知らぬ身の程知らずが、わらら自身を侮辱することは決して許せぬ。


 温情はかけてやった。

 それも大いに、じゃ。


 これ以上は雨が降る。

 ここらで八つ当たりせねば気が収まらぬ。


 侮辱罪で死刑じゃ死刑。

 幾人か、死にさらせ。


「死ね」


 神気を持って言葉を紡ぐ。


 それは電波を通じて、わららを侮辱した者の耳に届き――…、


―――キィィインッ。


 わららが放った言霊。

 それが何かにぶつかり弾かれる。


 二成のそれを弾く者。

 決まってそれは等しき存在。


「…っち、空け者めが」


 身の内で眠る美春。

 意識もなしに邪魔をしよる。


 視聴者リスナーなる蛆虫どもを娘と位置づけ、無為に加護を与えて守護しておる。


 愚か。

 実に愚か。


「…悪戯に加護を与えるから、他が薄くなる」


 加護とは、いわば結界。

 あらゆる悪意から対象者を守る聖盾。


 悪意を浴びるたびに、盾は消耗する。

 そして、その都度それは修復されていく。


 無限の力を持つ『白』と『黒』ならまだしも、わらら二成の力は有限。


 にもかかわらず何千人にも加護を与えるなど愚か極まる。


 力を行使続けた結果がこの疲れやすさ。


 ドバドバと神気を放出し続ける中、少ないそれでやりくりしているわららの身にもなってほしい。


―――キィィインッ。


 二成は主体の意思が全て。

 故に、夢の中の美春へ、力を通じて蛆虫どもの加護を解くよう語り掛けるが、「娘達には手をださせにゃいッ!!」といわれて突っぱねられる。


「くぅう、忌々しい奴!!」


 母猫に化ける『白』。

 それにじゃれつく仔猫な美春。


 全くもって情けない姿をしておるくせに生意気なッ!!。


―――ダダダダッ!!


「痛ッ!??」


 内なる美春へ悪態をついている隙を狙われ、被弾する。


 痛みに顔を歪めた後、数秒前へと飛ぶ。


―――ダダダダッ!!


 咄嗟に避けるも、腕に被弾。

 しかし、神気でそれを弾いたので痛みは無い。


 仔猫は母猫と共に健在じゃ。


『ラッシュ!下がれ!』


『カバーしますッ!』


 被弾したわららの前に出てSK。

 メテヲもそれに続く。


「クソ、来よったか!!」


 ROUND1で痛い目にあったため、それと出会わぬよう比較的活躍の場を見せることができる雑魚狩りに専念していたROUND2。


 わららとは異なる二成。


 必然的偶然を装って、二成琉琉が今に現れた。


【豪王ラッシュ】

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≫きtらぁああ!!。

≫ルルにゃたんやっちゃえ!!。

≫不正野郎に4をッ。

≫頭オカ終了~。

≫そのまま引退はよ。

≫転生はよ。


 二成琉琉の登場に沸き立つ蛆虫。


 この時ばかりはそれに感謝する。


 駄々洩れ状態の神気。

 それが僅かにも人の数で補える故。


「っち、いったん退け!小娘に変態!!」


『小娘じゃない!お姉ちゃん!!』


『っほっほっほ、変態とはこれご褒美な』


 得られる力の質は悪し。

 しかし、それでもわららは二成。


 千を超える未来を視て、僅かな道を辿って安全な今へと至る。


『うっはッ!あぶなぁーーッ!!』


『流石に終わるかと思いましたが、Mrラッシュが先陣を切ってくれたおかげで助かりました。ありがとうございます』


「ぜぇ、ひゅぅ…ぜぇ、ひゅぅ……じょうってこちゅにゃい」


 多少回復した神気。

 それを先の遭遇で使い果たしたわらら


 息も絶え絶えで虫の域。

 呼吸するのもやっとの状態。


 ちかれた。


『ラッシュ、お姉ちゃんは信じてるからな』


 先ほど逃げる際に負った怪我ダメージの回復の最中にSK。


 生意気なッ、と思うも、口がにやける。


『Mrラッシュ、申し訳ないですが、私は半々といったところです』


 二人とも明確に物を言わない。


 だがしかし、何を言わんとしているのかは、力を使わずとも伝わってくる。


 これでもわららは空気が読めるからの。


『先ほどMrラッシュの配信画面を確認したところ、それらしい感じの動きはしておりませんでした。いずれも結果、そうなっているだけであって、すべては偶然そうなった様にも私には見えます』


 メテヲは坦々とした口調で、『それに』と続ける。


『私の眼に狂いが無ければ、Mrラッシュはきっと、そういうことをする人ではない』


 不正をするような人物ではない。


 メテヲからしたら、美春はそう見えていたのだろう。


 実にいい目をしている。

 まさに、その通りだ。


 小心者の美春であればきっと、大会目前で瞳の力を使うことに抵抗を示したはずだ。


 不正を疑われて娘達に嫌われたらと考えて、結局は無難に頑張ったに違いない。


 何となくわかる。


 だがしかし、わららわらら


 不正を不正とも思わぬ豪胆な者成り。

 

 持って産まれた力を活用して何が悪い。

 人より視力が勝っていたら、それを閉じろとでも言うのか?、馬鹿な。


 そもそも、強敵である二成琉琉だって力を使っている。


 それに抗うために自らの力を使って何が悪い。


 理解できぬ者など放っておけ。


 たかだか余興。

 何処まで行っても所詮は遊戯ゲーム


 全てを語るまでもない。


わららは神!故に未来が見える!!」


 信じたければ其れで良し。

 信じたくなければ其れも良し。


『ラッシュが神様なら私も神様だ!!ゴッドお姉ちゃんだ!!わぉーーんッ!!』


 思い出したかのようにワンコSK。


『神業な弾避け、成程、一理ありますな、ッほっほっほ』


 信じてか、信じずか、メテヲ。

 

「…ふむ」


 蛆虫な近衛二人。

 主体の記憶と数十分だけの関係。

 

 だがしかし、存外、悪くない。


「……加護なし、か」


 名も知らぬ身の程知らずな有象無象にくれてやるぐらいなら、とわららは不意に思考する。


『……うっ、痛たた』


『おや?、どうかなさいましたか?お嬢様』


『うぅ、いや…、なんでもない』


 呻き取り繕うSK。

 何やら胸を押さえて苦悶の表情。


 景色を紡ぎ視て、色々と確認するものの、特に異常なし。


 もしや与えた力に拒絶でもしたのか?と思うも、そうするだけの力を持たない小娘に限って、それはないと首を振る。


 ただの気のせい。


 わららはそう思うことにして、次なる活躍の場面を探そうと、癒えてきたその瞳をぎらつかせる。


 もう少し、悪目立ちしないよう意識しながら、沢山褒めてもらえる道を開拓していく。

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