第43話 ロリコンなオジサン、死ぬ
== 8月29日の出来事 ==
「味方なにやってんだよッ!!雑魚がよッ!!」
時刻は深夜。
近所迷惑など威も介さず、男が叫ぶ。
ゴミ山の如く物が積み上がった部屋の中、今年、晴れて魔法使い入りを果たしたその男は今、ABEXなるゲームをやっていた。
同程度の実力を持ったプレイヤー同士が対戦できるランクマッチ。
計、六十人が三人一組のチームを作って、順位とkillでポイントを稼ぎ、八つに分かれた
男はそこで会得できる最上位のティア欲しさに、寝る間も惜しんで頑張っていた。
頑張る理由は、推しのVTuberに自慢して、褒められたいがため。
ただ、それだけだ。
エンジョイ勢とは一線を画す志を持った魔法使い。
面構えが違う。
「ほんッと、野良には碌な奴いねぇなぁああ!!」
ABEXは人数有利が働くゲーム。
味方の一人が敵となる他プレイヤーにやられ、一気に窮地へと立たされた男は怒り狂う。
叫んで物に八つ当たり。
そしてまた叫ぶを繰り返す。
マイクをONにしては、同程度の味方二人に全責任をかぶせてひたすら誹謗中傷。
ゲーム内ボイスチャットで口喧嘩はしょっちゅうだ。
男と遭遇した者はみな平等に不幸を刻まれる。
そしてそれは、ゲームの中だけでなく、現実でも言えてしまうこと。
男の住居は比較的安い部類の
近隣住民が、夜な夜なの騒音に悩まされる程度には天井も床も壁も薄い。
耳をすませば上下左右の生活音の一つ一つを拾うことなど容易くて来てしまう。物静けさ漂う深夜であれば、尚更に。
いくら注意しても一向に収まらぬ怒声と物音。
それどころか、注意をした翌日には、仕返しとばかりに騒音をまき散らす始末。
手に負えない。
そう思って、そのマンションから出ていく者は少なくない。
周りに不幸をまき散らす男。
幾度、それをまき散らした相手に死を望まれたことか。
寝不足の中で日々を過ごす近隣住民。
ネットゲームを楽しんでいた不特定多数の一般人。
男に幼いころ犯されかけた年の離れた妹とその両親。
恨みに大小はあれど、その彼らが一様に男の死を望んでいる。
近隣の声も、大家の声も、国の声も、そして親族一同の声も、その他の何もかもを無視し続けて、男の今がある。
そう思われて仕方のないことだろう。
全くもって迷惑な存在である。
親からの仕送りで堕落の日々。
ネットに張り付いては誹謗中傷。
それに飽きたら、推しのVTuberがやっているゲームを並行プレイ。
更にそれにも飽きたら、ABEXとG行為。
ゲームでたまったストレスを発散させるために、毎日、幼い少女を汚すことを夢見て、薄い本を手に取って発射。
積み重なった命の種は、山の如し。
今日もまた悪戯に小さな命が散っていく。
白濁の海に溺れて、そのままに。
社会のゴミ、ここに極まれり。
「あーー、まじで最近の餓鬼はエロい体してんなぁ……記憶そのままに過去に戻れねぇかなぁ、そしたら俺好みの肉奴隷を大量生産できるのによぉ」
ネットに落ちていた女児の水着姿を見て魔法使い。
気持ちの悪い妄想を繰り返し、何かの拍子に過去へ戻れないかと、空間に手を伸ばす。何も起きない。
「っち、くそがッ」
未来ある子供たち。
その運命を捻じ曲げることができず、男は悪態をつく。
「あと100
無駄な時間をすごしたのち、男は再びマウスとキーボードに両手を置き、一休みしていたABEXを再開させる。
マッチング開始。
ゲームスタート。
「っち、かぶせてくんなや雑魚がッ!」
同じ場所に降り立った味方へ、マイクをONにして暴言。
『なんじゃと!?貴様誰にものを言うておる!!』
一発殴った味方から、ボイスが返ってくる。
幼い声だ。
小学生だ。
萌な声だ。
のじゃロリだ。
経験豊富な男の局部が即座に反応する。使用したばかりだというに、ギンギンと。
「……めっちゃ、かわいい」
今なお喚き散らかす萌えな声をもつ少女。
必死に威張って見せるその態度は、どこか威嚇している仔猫の様だ。
「えっど」
悪趣味を持つ男は、萌声少女に罵られ、欲情した。
その醜悪な面を更に歪ませ、マイクをONにする。
「ごめんごめん、いきなり怒鳴って悪かったねぇ~」
顔と性格に似合わない他より多少イケてる声。
それを最大限に利用して、怒る萌声少女を口説き落としにかかる。
(相手は未成年?はぁ?さっきの年寄り語尾か聞こえなかったのか?合法ロリに決まってんだろボケカスがよぉ)
少女の萌声を前に、理性が吹き飛ぶ男。
仲良くなって。
お近づきになって。
睡眠薬入りジュースを飲まし。
大き目の旅行鞄に何とか詰めて。
ホテルへGOからのフィニッシュ。
調教して毎日肉奴隷孕ませフィニッシュ。
そこまでを妄想して、再度会話に臨もうとマイクを――…、
―――ダダダダッ。
「っち、いいとこなのに邪魔しやがって…クソが」
怒る萌声少女と共に物資漁り。
その最中に、遠くの方から射線を通される。
一応、プロゲーマー(自称)である男は、明らかに初心者であろう同ランクの萌声少女を庇いつつ、流石の対応力を見せつける。
「っへ、こんなもんかよクソ雑魚が」
理想を前に、いいカッコを出来た男は、無駄にイケボで吠える。マイクをONにして。
『敵、回り込んでる回り込んでる!』
萌声ではなく男の声。
もう一人の味方のもの。
「……っち、そのまま黙ってろよカスが」
萌声少女とゆっくり会話を楽しみたかった男は、悪態をつきながらも、物陰を利用して回り込んでくる敵の迎撃に急いだ。
「っへ、雑魚が調子に乗って一人で乗り込んできやがった」
飛び出してきた一人の敵。
いいカモだ、そう思いながら男は敵に
「ポイントありがとさんッ!」
――ダダダッ。
――ダダダダッ。
互いに同じタイミングで撃ち合い。
しかし、被弾の数は前者の方が多い。
【ルルにゃいと(サブ垢)↓黄金戦士】
モニター画面の右上、killログが流れる。
「…うぐッ!?」
被弾を抑える圧倒的
それを前に、地の利を得ていたはずの男が倒れた。
下腹を左手で抑え、唐突に苦悶の表情を浮かべる。
薄暗い部屋の中。
指先にぬめり、とした感触。
ゲーム画面が映るモニターの明かりに照らしてみて、それが何なのかを、男は確かめる。
「……血?」
赤黒く濡れる指先。
付着したものが何なのか口にしたものの、理解に及ばず。
「…あ、やべ、し――」
―――ダダダダダッ!!。
「うばびぃびびびびッ」
ヘッドホンから流れる銃撃音。
それと同時に舞う鮮血。
ゲーミングチェアから崩れ落ち、穴だらけになった肉塊は、周囲に静寂をもたらした。
男は射殺された。
『や、やめよ!!無礼者!!
命乞いなど意味はなし。
だって敵には聞こえないのだから。
【あんこ餅↓野良仙人】
【ルルにゃいと(サブ垢)↓豪王ラッシュ】
血が付着したモニター画面の右上。
立て続けに二つのkillログが流れる。
『ギャー――ッ!!』
萌声少女の楽し気な叫び声を最後に、モニター画面に映った【部隊全滅】の文字が、肉塊となった男の部屋を赤黒く染め上げた。
正常な夜の静けさが返ってくる。
突然のそれに、起きていた近隣住民は疑問を浮かべ、しばし耳を澄ませる。
騒音は止んだ。
それを理解した者から順に、眠りへと落ちていく。
その後、団地に住まう者たちは、悩みに悩まされた問題が解決したと喜び、数ヶ月の間、騒音に悩まされずに済んだという。
願いが叶ったことも気づかぬままに。
== 時は現在 視点は変わり榊美春(わらら娘) ==
銃弾飛び交う戦場。
どれもこれも痛みは感じぬ。
しかし、それに交じった異物の弾。
それだけが
「…っち、猪口才な」
先ほど浴びた異物の弾。
今尚、着弾したところに痛み。
視線を下げ、自身の体を見るも、痣は愚か、傷も無い。
痛みだけを感じよるのみ。
しかし、それは
「器用に力を籠めよってッ」
異物の弾。
それを撃ってくる強敵に向かって、愚痴を溢す。
大会一試合目、このままいけば序盤で部隊全滅。
碌なポイントも稼げず終わる。
時を操って狩場を作ろうにも――…、
――ズドンッ!。
頭部に着弾。
大打撃を負う。
「っち、また
内にこもった
庇い切れずこと切れる。
咄嗟に力を使い、
――ズドンッ。
頭部を狙った一撃。
それを避け、物陰に隠れる。
「はぁ…はぁ、力を練り終えるたびにこれでは埒が明かぬッ」
異物の弾を浴びるたびに、仔猫化している美春が塵となって消える。
そして、そのたびに力を使い、過去へと戻る。
もう何度そうしたかもわからぬ。
このままでは主体の核がやられてしまう。
そうなってしまえばこの世は破滅じゃ。
怒り狂うた『白』と『黒』。
誰にも止められぬぞ。
「むぅぅ゛、邪魔立て…許しはせぬぞッ!」
『ラッシュ!!たまたま!!早く!!』
唸る様に強敵がいるところを睨んで、小声で愚痴をこぼしていると、隣から卑猥な言葉を口にしながらSK。
小娘が急に何を、と思うも、『早く弾よこせ!!』と怒鳴られ、そういうことかと納得。
「ほれ」
『少ない!!もっと頂戴!!』
そんなに弾をやっては楽しめぬ。
故に
『早くッ!!』
「……ふんっ」
弾をくれてやった。
(おのれぇ!無礼な奴め!今に見ておれよ!!)
強敵に向けるような視線をSKに向けながら、内心で今の状況の打開策を探る。自分が最も活躍するそれを。
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