第42話 二成と二成

 容易い世界の蹂躙を開始。


 勇ましくも声を荒げ、全軍(二人)の指揮をとって戦場を駆ける。


 且つての大戦で身を投じた時のように、その瞳を開眼して。


「……むぅ」

 

 しかし、途中でわららは気が付いた。

 すでに己が傍観者側の一人であったということを。


 うつけ者がやられてからの交代と相成ったので、今は観戦状態。


 そこからの復帰もあるようだが、状況は最終局面。もうわららの出番はなかろうて。


「…恥ずかしぃ、うぅ」


 ただ大声を荒げて登場した大空おおうつけ。

 傍から見ればさぞ滑稽に映ったことじゃろう。

 

 全くもって恥。

 穴があったら入りとう。


『よし!!ラストkillげっとだぜ!!』


 ひとりでに両手の平を顔に当て過ごしていると、活きのいい小娘の声が聞こえてきた。


 どうやら勝どきを上げたらしい。


 先程から喧しい奴、と内心で呟きつつ、ようやく出番が回ってくることに笑みを浮かべる。


 恥を掻いた分、それを塗りつぶす活躍をせねばな。


『そろそろ時間ですな、御二方、大会サバに移るとしましょう』


 どうやら出番はまだ先らしい。

 メテヲとやらがそれを知らせてくれる。


 早ようわららに蹂躙させてたもれ。


 早う早う早うせい。


 ワックワク、ドッキドキ、くかっかっか。


『Mrラッシュ、いけそうですか?』


 空け者がついたホラ

 それを信じ込んでかメテヲ。


 只人がわららの心配を口にするとはおこがましい。


 世が世であれば、その罪深き台詞、死刑に値するぞ小童が。


 わらら等に首を垂れ、祈るだけの存在。

 地を這う蛆虫の如きそれとの会話。

 それに何とも言えぬ疎外感を感じつつ、「無論じゃ」と返しておく。


『…じゃ?……ほんとに大丈夫ですか?無理をしていませんか?』


「二度も言わせるでないッ」


『っほっほっほ、そうですな、畏まりました。では、大会の会場へと参りましょう』


 わららの恫喝も何のその。

 メテヲは老骨に笑ってみせる。

 

 なかなかに肝が座っているな、此奴。ふぅむ。


『ラッシュなんか居なくてもどうにでもなるんだからな!』


 メテヲの精神力に唸って見せていると、唐突に小娘。


 一瞬、誰に対して物を言っているのか気づかなんだ。ラッシュという珍妙な名も相まって。


 生意気な口を利くSKとやらに、わららは激怒する。


「なにを!無礼な!!わららを誰と心得る!!」


『体調わるくなったらすぐいう!いいな!!?』


「小娘に心配される程、やわではないわッ」


『ラッシュは馬鹿なんだからお姉ちゃんのいうことちゃんと聞けッ!!!』


「っひぅ…」


 暴言交じりの怒声。

 少々にして気が滅入る。


「……ふんっ」


 わららは肩を落として戦意喪失。

 せめてもの抵抗に鼻を鳴らして口を尖らせた。


 背丈に合わぬ椅子。

 足をぶらつかせ、しばしの間、俯く。


 その際、気分転換にうつけ者の記憶を摘まみ見て、小娘の弱点をさぐった。…見当たらぬ、使えぬ奴じゃ、まったくもう。


『おや、Ms.琉琉だけが見られませんね、珍しい』


 優し気なメテヲの声音に顔を上げ、先ほど入った大会の会場サーバーを見やる。


 龍宮寺茜なる者が代表を務める観察者オブザーバーの面々は全員待機。

 出場者60人のうち、59人も待機状態。 


 残り一人、二成琉琉とかいう仰々しい名前を持った者だけが未だ現れていない様子。


 このわららを待たすとは何たる不敬。


 SKの前に、先に叩きつぶしてくれるはッ、ふんッ!。


『いつも我先にサバ入りしているのに珍しいな』


『そうですな、まぁ、まだ時間にはなっていません、その内に来られるでしょう』


 メテヲがそう言ったのを見計らってか、空いていた一つの穴が二成の文字をもって埋まる。


『リエルノ、久しぶり』

『元気してた?』

『今日はよろしくね』

『手加減はしないよ?( *´艸`)うふふふ』


 全体に向けて発言できる欄に二成琉琉。

 そしてそこにたかる底辺をさ迷いし亡霊。


『よろしくお願いします』

『来てくれないかと思いましたw』

『少しぐらい手加減してくれてもええですよ?』

『待ってました今大会最強アタッカー』

『来てもうた、あかん負けた』

『リエルノ?』


 我先にといわんばかりに二成琉琉へと文字を返す者共。実に滑稽なり、くかっかっか。


 むぅ?。

 貴方様はいいのか?、だと?。

 くかっかっか、笑わせてくりゃる。


 わららたからぬ。

 空け者ではないからのぅ、クケケケッ。


『お、来たな!今日こそ潰してやるぞッ!二成!!…というかリエルノって誰だ?』


『さぁ、お知り合いでしょうか?個人的な』


『ふーん、まぁ、どうでもいいや』


 興味なし。

 SKは続けてそう口にし、いよいよ始まる大会に意識を集中。


 メテヲも小娘に同じく。


 ようやくの出番にわららも胸を高鳴らせる、が…。


「ふぅむ、この盤上、成程そういうことか」


 ほかのことに意識が向いて、なかなか遊戯ゲームに集中が出来なんだ。


 無名に等しいこの催し。

 それを爆発的に世に広めた日本一のVTuberとかいう者。


 酔狂なものがいるものだ、と美春の記憶を覗き見て思っていたが、どうやら違うらしい。


 先のリエルノ・・・・という発言。

 そして、姓の『二成』と名の『琉琉』。


 どれもこれもわららにとって所縁ゆかりある言葉。


 後者だけならまだしも、前者も、となると偶然にしては、ちと話が出来過ぎている。


 ここまで来ると、ある核心を抱かずにはいられない。


「…ルル姉・・・、なのか」


 亡神となり果てる前。

 二成の主体となっていた頃。


 その時の名残りを無意識に口から溢す。


「…これは、一筋縄ではいかぬやもしれぬ、な」


 容易く勝ち取れる催し。

 そこへ降って湧いた強敵・・


 それが作り出したであろう此度の状況。

 十中八九、策が練られているに違いなし。


 その策とはきっと――…。


うつけ、起きねば、死ぬぞ・・・?」


 未だに母猫とじゃれ合う美春。

 危機感のかけらも感じずに幸せニャンコを演じている。


 全くもって度し難い。


 少しはこの状況を察してはどうなのか。


 空けも空け、大空けじゃ貴様は。


 わららの癖に不甲斐なし。


――コツン。


「…痛とう」


 試しに額を小突いてみるも、ただ痛いだけで影響なし。


 幸せニャンコは依然として健在。


「…もう知らぬ」


 わららは主体の目覚めを諦めた。


 そのまま一生、幸せの中で眠ればいい、と台詞を吐いて、『マッチング開始』の文字に意識を向ける。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る