第33話 ラッシュ、今日から本気出す。

 ポーランドルール。


 所定のポイントを獲得した後に、チャンピョンを取ることで優勝が決まるルール。


 マッチポイントとなったチームから優先的に狙われるため、「一番つよい」=「勝利」というわけではない。


 実力差があっても運と立ち回り次第では、素人がいるチームでもプロを押しのけ、優勝に手がギリギリ届いたり、届かなかったりするとか。

 

 一週間後に控えている個人V最協エベ祭りでは、そんな競技性に少々の難があるルールが適用される。


 八咫のカラスとかいうゴリゴリのプロチームも出れば、俺の様なド素人がいるチームもでるので、一方的で退屈な試合展開を避けるためにも、事前的なチーミングが発生しやすいそれを採用したのだろう。


 それでプロを一般人がどうこう出来るかは分からないが、実力がものを言うルールを適用されるよりは、幾分か優勝の文字が見えてこちら側としてはやる気が出るというものだ。


 謎に注目を集めた今大会。

 優勝に手が届くのなら是非もない。

 カッコよく活躍して娘を大量にGetだぜっ!!。


 …うひひ。

 

「優勝は勿論だが、大物も見つけ次第つぶしていくぞっ!!特に二成とプロ共は絶対だッ!!」


 やる気を漲らせるため、大会でかっこよく活躍して娘達からチヤホヤされる所を妄想していたら、元気な少女の声がヘッドホンから聞こえてきた。


 憎たらしくも愛らしいその声の主は、我ら「ケロぺロスの輪」がリーダー、獣人娘のケロぺロスSKバレット(大罪人)だ。


 二日前に罪を犯した意識は、その声音からしてなさそうである。


 悪く言えば傲岸不遜。

 良く言えば天真爛漫。

 

 彼女はもう少し人の痛みを知った方がいい。


「っほっほっほ、お嬢様は今日も元気に御座いますなぁ、ラッシュ殿」


 老骨に笑い、燕尾服を着こなして穏やかにそう語りかけてくるのは、ケロぺロスの輪の調停者、スパン王・メテヲ(変態)。


 俺はゾワッとする感覚を無視して、いつもそれとなく気を使ってくれる彼に「う、うむ」と返してあげる。


 今日はスクリム初日。


 大会メンバーが続々と集まる中、俺たちケロぺロスの輪は、マッチが開始されるまで雑談を交えてその後も待機する。


『しかし、集まりがいいですなぁ。

 それもこれも彼女・・のお陰ですかな?』


 枠が立てられてから十数分。


 中々に参加者の集まりがいいのを見て、メテヲさんが口を開いた。


 スクリムは練習試合。

 リアルが忙しい人もいるため、絶対参加という訳じゃない。

 人数が足りない場合は視聴者や知り合いからその穴を埋めるため、欠席しても何ら問題はない。


 しかし、大半が欠席することなく、集まってきている。名簿の空席も残すところ片手で数えられるぐらいだ。


 スクリムに皆が意欲的なのは初日だからというのもあるだろうが、それ以上にきっと、メテヲさんも言っていた彼女――二成流流が一番最初に待機していたという点が理由として大きいに違いない。


 二成琉琉は、全体チャットを使い、参加者や視聴者を笑わせるような呟きを時々している。


 日本一のVTuberと名高い彼女と接点を持ちたいものはいくらでもいるので、みんな無理してでもその呟きに反応しようと群がってきた結果が、この集まりの良さなのだろう、多分。


 どの業界もそうだが、手っ取り早く有名になる方法は、有名人とお友達か、お知り合いになることだ。


 雪美が前に言っていた。


――その道で有名になりたいのなら、その道の名声を借りればいい――


 と、ドヤ顔で。


 どっかの見知らぬドラマーとして頑張るより、有名なドラマーの弟子として活動する方が効率よく名前を売れたりできると、聞いてもないのにぺらぺらと教えてくれた。


 ドヤ顔で。


 今大会には、底辺VTuber連合に誘われた沢山の底辺がいる。


 きっと、少しでも二成琉琉という名声を借りようと、みんな必死なのだ。


 みんな自分の配信で彼女の話題を出して、少しでもチャンネル登録者やリスナーを確保したいのだ。


 俺だけじゃないはずなのだ。


 そんな厚かましい考えをもって二成琉琉に接触しようとしているのは、みんな同じなのだ。


『集まりがいいのはきっと私のお陰だなッ!、なっ、ラッシュ!』


 空気を読まずSK。

 自分も名声を借りた一人だということを忘れているらしい。


 っふ、滑稽なり。


「…それはどうかな、っふっふっふ」


 俺は訳知り顔で、不敵に笑った。


『なんだその笑い方!ムカつくッ!!』


『っほっほっほ、きっとお嬢様の可愛らしいヒップのお陰に御座いますな。流石はお嬢さまに御座います』


『さすがメテヲ、わかってるな!。

 あはは!!そうだ、流石は私だ!!』


 変態のセクハラ発言に喜ぶSK。

 女性としての危機管理能力が不足していそうだ。


 言葉巧みに騙されて怖い大人に誘拐とかされないだろうか?。

 

 結構SKはアホだから、ちょっとリアルでの彼女が心配である。


『四天王とのオフコラボ急遽ドッキリ企画にしたったw』

『フリー・フェンリー、アトランタで一人待機中w』


 全体チャットに再び二成琉琉の呟き。


 俺はメテヲさんのヨイショ攻撃に鼻を伸ばしているSKをよそに、キーボードを叩いて『ぐわーっはっは(爆笑)』と、彼女の呟きに相槌を打つ。


 うへへ、旦那、娘達くださいよ、ぐへへ。

 と、内心で呟きながら、その後も他の参加者同様にゴマを擦り続ける。


 色んな所に視聴者を獲られて少なくなった視聴者娘達を増やすため、俺は今だけ三下を演じる。


 父というものは、娘のためなら身を粉して頑張るものなのだ。


【視聴者数87人】

≫媚びんなゲロ野郎。※ゲロを禁止用語に指定。

≫転生しないなら大会降りろ。

≫そもそも本当にロリなんか?。

≫どうせあの地声もボイチェン。

≫↑それがマジなら許さんでワイは(^^)。


 心なしか娘達の視線が冷たい。

 気持ち悪いコメントが少ない代わりに、皆なんだか辛辣だ。


 今なら親父の気持ちが痛い程よくわかる気がする。


 親父…、いつも無視してごめんね。


 俺は内心で親父に謝罪し、これからはもうちょっと優しく接してあげようと心に決めた。


『全員揃いましたので、そろそろ開始します』


 色んな意味で盛り上がる中。

 オブザーバー側で待機していた龍宮寺茜が、全体チャットを利用して、スクリムの開始を宣言した。


 いつの間にか全員揃ったようだ。

 しかも欠席者無し。

 みんなやる気満々である。


『ではスクリム一日目、よろしくお願いいたします』


 再び龍宮寺茜の呟き。

 そしてその数秒後、マッチが開始される。


 本番さながら。

 質のいい練習試合。


 っふ、腕がなる。

 

 武者震いで手が震えてきたぜ。


 っふっふっふ。


 俺は不敵な笑みを浮かべ、その後、戦場を仲間と共に必死の形相で駆けまわるのであった。


== 所定ポイントは50pt スクリム一日目 全6試合 結果発表 ==


1位「八咫のカラス」 pt76。

2位「ポロシュターズ」pt60。

3位「ONEアクション」pt58。

4位「pork beans」pt55。

5位「ラブ&ラブ」pt38。

6位「B×3」pt36。

7位「chopstick」pt33。

8位「PAS」pt31。

9位「おーらい」pt31。


10位「ケネディエーター35」pt29。

11位「どっこいしょ」pt28。

12位「あかんやかんおかん」pt28。

13位「アンダーライン」pt28。

14位「蛙の子はDisaster」pt26。

15位「GG」pt19。

16位「GRANDです」pt18。

17位「鷹の女」pt15。

18位「ロリーs」pt13。

19位「近所のBB」pt11。

20位「ケロぺロスの輪」pt10。


 スクリム一日目。


 SK率いるケロぺロスの輪はマッチポイントに到達することは愚か、碌にポイントも稼げず惨敗を喫した。


 優勝して娘達を大量Getしたかったけど無理そうである。無念。


『あのキチ〇イ女!!許せん!!』

 

 とはSKの言。

 誰かに対してとても怒ってる。


『序盤から予想以上に敵チームのヘイトを買ってしまいましたね。どことなく敵同士の連携も取れていた気がします。…もしかして、チーミングの打ち合わせでもしていたのでしょうか……ふぅむ』


 とはメテヲさんの言。

 一度も狂人化できず、不満が溜っていそうである。


『というかラッシュ!!』

『それよりラッシュ殿』


 とは二人の言。

 突然、俺の名前を息ぴったりに呼んでどうしたのかな?。


『練習もっとしろッ!!』

『練習頑張りましょうか』


 俺は二人の言葉に、力なく「うぃ」と返す。


 最下位を取ってしまった大半の理由は、正直に言うと俺にある。


 さもありなんなんばん。


 だって俺、一ヶ月もエベってない素人ですもん。

 プロやセミプロ並みに上手い二人と違って、ド素人ですもん。


 そりゃぁ、いろいろとやらかしますよ。


 パニくって敵へ突っ込んだり。

 地形を把握せずに場外でて自殺したり。

 自分のフラググレネードで自殺したり。

 ハイド中にうっかり足音を立てて瞬殺されたり。

 途中で置いて行かれて迷子になったり。

 

 その後もタリタリタリで、それはもう色々とやらかしましたよ。はい。


 やらかすたびに脳みそバグって、更にやらかすんだもん。


 もう、自分ではどうしようもありませんでした。


 ごめんなさい。

 

 …てかそもそも周りのチーム上手過ぎないか?。

 誰もかれも素人の動きじゃないんだが?。


 もしかして俺だけじゃ?。

 このゲーム素人なの…。


『まず操作に全然慣れてない!!もっと慣れろ!!馬鹿ッ!!』


 どこぞの誰かのヘイトが完全に俺へと向く。


 俺は反射的に「ごめんなさい」と口にする。


 うぅ、ラッシュが謝罪…情けなし。


 悪いと思ってしっかりと反省しているのでもう少し優しく接してほしぃ。


 大罪人としての罪を許してあげるから、俺のことも許して?。お願い。


『お嬢さま、純粋な暴言はよくありません。お控えなさいませ』


『うぅ、だってラッシュが…』


『気持ちは分かりますが、ラッシュ殿はまだ初めたばかり。それもFPS系をこれまで触ったことが無い人種です。そう責めるものではありませんよ?。むしろ責めるべきはそれをカバーしきれなかった我々に在ります』


 カバーも何もないだろうに、メテヲさんは自分たちに非があるという。


 なんという人格者だろうか。

 優しくて器の大きい男である。


 俺もこんな心に余裕があるカッコイイ大人になりたいもんだ。


 …はぁ。


『ッ!!?…うぅ゛』


『ん?、どうかなさいましたかお嬢様』


 突然、呻いたような声を漏らしたSK。

 メテヲさんの問いに、彼女は『なんでもない』と返す。


『もう寝るッ!!ラッシュの馬鹿!!』


 SKは何かを誤魔化すようにそう叫んだあと、グループチャットから退出した。


 時間は夜の22時。

 お子様のSKにはもういい時間だ。


『ラッシュ殿、深く反省するのはいいですが、あまり思いつめるのもよくありません。まだ本番まで時間はあります。私も時間が許す限りお手伝いしますので、頑張っていきましょう』


 落ち込む俺に優しく声をかけ、『それでは』といって退出するメテヲさん。


 つくづく大人な人だ。

 流石は立派な社会人。

 出来る人である。


【視聴者数470人】

≫キングええ奴や。

≫SKとキングおって最下位?まじ?。

≫一人だけレべチで弱いやんw。

≫補給兵の自覚が足らんッ。

≫完全にPASに目付けられてたな。

≫もう幼女転生とかどうでもいいから俺と変われ。


「……」


 俺は辛辣なコメントばかりが目立つチャット欄を最後に覗いた後、配信を切る。


 そして、誰もいなくなったロビーで、マッチを開始するボタンをクリック。


 今更やる気を出しても仕方ないが、やらないよりはましである。


 そう自分に言い聞かせ、SKに言われたことを脳内で反復させ、操作に慣れようと、俺は個人練習を人知れず始めるのであった。


――――次回予告――――


 スクリム初日で色々とやらかした豪傑にして獅子王ラッシュッ!!。


 地の底まで反省した彼は、とうとう本気でABEXに取り組むことを決意した!!。


 これまで何かに本気で取り組んだことのない漢の娘は、果たしてここから先、挽回して、見事大会で優勝を掴めるのか!!?。


 次回【邂逅する神狼は、世界一】。


 睡眠を削って脳細胞を破壊し続ける漢の娘に応援をッ!!。


 頑張れ、ラッシュ!!!。

 

 

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