第30話 万天に瞬く、開闢の瞳
白の世界に俺はいた。
それに気付くとほぼ同時、目前の存在と目が合う。
「渇キ、未ダ満タサズ」
世界のどこを探しても同種の発見に至らないだろう謎な存在。
その
これまで白の鳥居の前から動かずじっとしていたというのに、最初っから間近にいる。
巨大な影を作り、俺を覆い隠す様に目の前に佇む白の怪物さん。
いつになく口調が荒い気がする。
なんだか誰かに怒られている時の様な圧を感じ、俺は怖気づく。
体を這うあの感覚も、それから生じる頭と目の痛みなどもはや眼中にない。
今はただ、怪物さんが怖くて仕方がない。
僕わるいこじゃないよ?。
好き嫌いしない良い子だよ?。
なんでもいうこと聞くよ?。
だから食べないで?。
自由の利かない体の中で、俺はとりあえず命乞いをしてみた。
「界ハ
重々しい音を立てながら、怪物さんの大きな面長のお顔が降ってくる。
「
四つの緑眼が俺の全てを見透かす様に淡く光り、今まで以上に強く言葉を投げかけられる。
「覚醒ス、ソノ時ハ近シ」
ただの夢、されど夢。
夢幻が告げるその言葉は、とある確信を俺に抱かせる。
どうすればいい?。
どうすれば僕は俺のままでいられる?。
「抗スルコト叶ワヌ」
声に出ぬ質問を投げかけたら、答えが降ってきた。
偶々で気のせいかもしれないが、白の怪物さんが僕の問いを拾ってくれた気がした。
なんだか宇宙人と意思の疎通が出来た感じがして嬉しい。
このままお友達になれないかな?。
お友達になって、配信とか出てくれないかな?。
宇宙人と生配信すればきっと有名人。
そしたらお金がっぽがっぽで…うひひ。
うひひ……はぁ。
恐怖から逃げるように妄想していたら、豪傑から萌声になってしまったことを思い出してしまい、僕は内心でため息をついた。
「
恐怖と憂鬱に圧し潰されそうになっている間にも、怪物さんの一方的な語りは続く。
若干、口調が柔らかくなったような気がするけど、気のせいかな?。
というか「人を思い、思はれ」というのはどういう意味だろうか。
いまいち怪物さんが何を言っているのかが掴めない。
怪物さん、教えて?。
あなたは何を僕に伝えようとしているの?。
口は動かず声は出ない。
それでも今は答えてくれると謎に思い、疑問を心の中で呟く。
「人ヨリ思ハレ、己ヲ思ウ。其レコソ神ノ在リ方ナリ」
今に始まったことではないが、言っていることが今一ピンとこない。
さっきは答えを返してくれたように聞こえただけなのだろうか?。
僕の声が届いていたなら、もう少し分かりやすく喋ってほしい。
「
願い空しく、怪物さんの語りは難しいままだ。
どうやら友達にはなれなさそうである。
意思の疎通も儘ならないんじゃ、友達も何もあったもんじゃないからね。
「
随分と物騒なことやるんだなぁ。
まぁ、見た目通りって感じ。
友達にならなくてよかった。
正しい選択をしたことに僕はホッとする。
「選択ノ刻ハ孰レ来タレリ」
洗濯?どういうこと?。
「万天ヲ定メ、開闢ノ瞳ヲ持チテ、道ヲ開ケヨ」
ばんてん?かいびゃく?、道?。
さっきから一体何を言ってるの?。
わけが分からないよ…怪物さん。
僕、そんなに頭よくないんだ。
もっと優しくゆっくり丁寧に、教えてよ。
「…ヴォロロ゛」
何一つ理解できない僕に呆れてか、怪物さんが唸り声の様なものを控えめに上げた。
お馬鹿でごめんなさい。
聞こえてるか聞こえてないかよくわかんないけど、とりあえず謝っておく。
「不完全ナ儘デハ歪ナ世ガ開カレル。
……二成ノ核ヲ見失ウ事勿レ」
見下ろすことを止める様に屈んだ怪物さん。
ちょうどいい高さにそのお顔が来る。
相変わらず何を言っているのか理解できないけど、なんだか配慮された気がした。
「子トハ言エ、二成ハ不滅。…失ウハ難シ」
ヴォロッと軽く唸りながら、怪物さんは四つある腕の一本を動かし、人差し指であろうそれを僕へと近づける。
―――なでなで。
なんか大きな指の腹で頭を軽く撫でられた。
そのままプチっと潰されないだろうか?。
ちょっと…いや、かなり怖い。
痛い痛いするのやめてね?。
「未ダ奥底二在ル。…
頭を撫でていたその指の先を、今度は胸辺りに持ってきて、怪物さんはそう言った。
そしてその次の瞬間――、
―――ッド。
僕の体を衝撃が襲った。
怪物さんにデコピンでもされたかと一瞬思ったけどそうじゃない。
いつものあれだ。
後ろ向きジェットコースターのやつだ。
舞空術だ。
どうやらいつの間にか話は終わったらしい。
どんどん遠ざかる鳥居と怪物さんを見て、それを理解する。
―――チリーン、チリーン。
ひたすら後ろへ飛ばされていたら、ふと、遥か後方から鈴の音が聞こえてきた。
その響きは徐々に強まり、同時に温かい何かが僕の体を包んで癒す。
さっきまで玉ヒュンな思いだったけど、何かに包まれてからは、気楽に舞空術を楽しむことができた。
ブーン、ブーン、僕は飛行機。
ブーン、ブーン、空飛ぶの気持ちぃな。
ブーン、ブーン、…なんだか眠たくなってきた。
徐々に響きが強くなっていく鈴の音を耳に拾い、飛行機になって空を飛ぶ感覚を味わっていると、眠気がやってきた。
悪夢が終わるときに感じる眠気だ。
いつもと大分感じが違うから、ひょっとしたらこのまま目覚めないのかと思ったけど、どうやらそんなことはないらしい。
よかったよかった。
にぇむい…、むにゃむにゃ。
「覚醒ノ時二又…」
豆粒サイズになった怪物さんのそんな台詞を耳元で拾い、僕は飛行機ごっこを止め、夢の中で眠るように瞳を閉じた。
――……忌々しい……
意識を手放す一歩手前、誰かの呟きが聞こえた気がした。
== 丑三つ時 ==
「いッ!!?」
悪夢から目を覚ましたその瞬間。
眼球に針でも通されたかのような激痛が
咄嗟に両手で目元を押さえつけ、痛みに抗う。
しかし、意味はない。
体を捩じらせ、足をバタつかせ、何度も寝がえりをうつ。
その内にベッドから床へと落下し、地面に転がっている蝉爆弾の様に部屋中を転がって暴れた。
涙と鼻水と涎が次から次へと溢れ出てくる。
叫ぶことすら儘ならぬほどの痛み。
耐えても耐えても耐えられない。
何度も針で眼球を刺され、炎で炙られているかのようだ。
ありとあらゆる家具に体のあちこちをぶつけ、ひたすら床を転がり続ける。
「―――ッ!!?」
痛みに悶えていると、不意に誰かの声が聞こえた気がした。
俺は気にせずのたうち回る。
声の主が誰かなんて気にしている余裕はない。
―――ッガ。
誰かに動きを止められる。
邪魔だと言わんばかりに俺は暴れた。
しかし、いくら暴れようとも、それ以上の力で強く後ろから抱きしめられ、強制的に大人しくさせられてしまう。
痛い、痛い、痛いッ。
「まま゛…う…ひっく…いだいッ、いたい」
誰かの腕の中で暴れることしばらく。
徐々に痛みが引いていく感じがした。
お陰で俺は、ようやく声を出し、ちゃんと泣く余裕が生まれた。
「…まま、……ままぁ」
怖くて、痛くて、不安な時はいつも母に慰めてもらった。
だから俺は泣きながら母を呼んだ。
しかし、母はこない。
それどころか親父も来ない。
胸裡に悲しみが累積していく。
涙が溢れ出て、止まらなくなる。
未だに瞳はズキズキと痛む。
けれど、今は精神的な辛さの方が勝っていた。
誰も慰めてくれないこの状況が、ただただ悲しい。
誰か、誰でもいい。
母の様に、俺を優しく慰めてくれ。
誰でもいいんだ、本当に誰でも…。
―――ぽんぽんッ。
誰かの手が遠慮がちに、それでいて優し気に俺の頭に触れた。
指の先まで気品を纏う母の手ではない。
大きくて力強い無骨な父の手でもない。
頭の撫で方も碌に知らない、未熟者の手だ。
触れられていると、色んな苦痛が体から抜けていき、多好感に包まれていくような感じがする不思議な手だ。
「……大丈夫か?」
暴れることもなくなった俺を、優しく後ろから抱き、頭を撫でながら誰かがそう言った。
瞳はまだズキズキと痛む。
まるで大丈夫ではない。
だから頭を撫でる手を止めるな。
もっともっと慰めろ。
よしよししろ。
未熟者が。
両手で瞳を抑え、嗚咽を繰り返しながらも、後頭部を後ろの誰かへ数度ぶつける。
誰かは生意気にも、ため息を一つ吐いた後、「へいへい」といいながら撫でることを再開した。
「はぁ、…ねみぃ」
愚痴をこぼす暇があったらもっと撫でることに集中しろ、下手くそ。
俺はまたも後頭部を誰かの胸板あたりに数度ぶつける。
大きな欠伸をしながら、「へぇ、へぇ」という声がすぐ後ろから返ってきた。
なんだか生意気な態度である。
…むかつく。
痛みで泣いている人を介抱する態度ではない、と思いながらも、俺はその後も頭を誰かに撫でさせてやる。
== 数分か数十分後 ==
「…もういい、あっちいけ」
目の痛みがほぼ引いたころ、俺は鼻声でそう言い、今だに頭を撫でてくるその手を振り払って再びベッドへと潜り込んだ。
「もう大丈夫なのか?霞さん呼ぶか?」
「……いい、だいじょぶ」
「ほんとか?どっか痛かったんじゃねぇのか?」
「もう治ったからあっちいけ」
俺は深々と頭まで毛布をかぶり、背中を向けながらぶっきらぼうにそう答える。
「…んだよ、人がせっかく心配してやってんのに」
「…余計なお世話」
「あ?、…っち、うっざ」
誰かさんはそういうと、苛立たし気にため息をつき、部屋から出ていった。
出ていく際、投げやりな感じで「おやすみッ」という声が聞こえてきた。
挨拶は大事だと俺は知っている。
だから「ん」とだけ返しておいた。
「……」
足音が遠ざかり、ガチャリと音を立てて扉が閉まる。
俺は寝返りを打ち、毛布の下からちゃんと部屋から誰かさんが出ていったことを確認する。
「……ふんっ」
視線の先には誰もいない。
そのことを確認し、鼻を鳴らした。
鳴らした理由は特にない。
何となくだ。
ただ何となくムカついたから鳴らしただけだ。他意はない。
「…ずずッ……おいしょ、っと」
俺は今だに出てくる鼻水を啜りながら、ベッドからゆっくりと這い出て、部屋の明かりをつける。
大きな物音を立てたらまた誰かさんが来そうだったので、移動の際は抜き足差し足を心掛けた。
「かがみ…かがみ…」
いつも枕元に置いてある手鏡。
先ほど暴れたせいで何処かへ行ってしまった。
己の体に変化が無いかを確かめながら、手鏡を探す。
チソチソ良し。
タマタマ良し。
凹み無し良し。
髪色は黒良し。
体に異常は今のところ無いオーバー。
「あったッ」
探すこと数分。
ベッドと壁の間に挟まっていた手鏡を見つける。
俺はそれを手に取り、ゆっくりと鏡に己の顔を映していく。
そして、痛みが消えて尚、疼く瞳を覗きこんだ。
「…ぴんく」
やはりと言わんばかりに、俺は呟いた。
いつか見た夢のそれ。
自分が自分で無くなっている様なその変化に、「はぁ」と思わずため息を溢した。
夢は夢、現実にまで作用することは無い。
これまでそう思い願ってきたけど、現実として変化が訪れては「ただの夢」と吐いて捨てることが出来なくなってしまった。
あの日に見た夢の通り変わってしまった瞳の色。
ならば、あの日に見た夢の通り変わるだろう己の体。
手鏡に映る自身の理想とはかけ離れた素顔を見つめながらそのことを思い、何とも言えない不快感を紛らわせようと、唇を血が滲むほどに噛み締める。
誰もが可愛いと口にし、褒め称えるこの素顔。
俺自身が嫌なのに、周りがそれでいいという。
誰も本当の意味で俺には興味が無い。
所詮俺は見た目だけの存在。
そこに男なんてものは周りからしたら必要ないのだ。
だから嫌いだ。
他人も、そして自分も。
大っ嫌いだ。
―――ギリッ。
「……ふふ」
口元の端から血が滴り、口内に血の味が充満する。
気持ち悪い鉄の味に、不快な香り。
されど、その味は実に美味であった。
みんなが褒め称えるこの容姿に傷をつけてやった、という事実が、俺の今の陰鬱な気分を幾分か晴れさせた。
「…だいじょうぶ、問題ない……、俺は俺だ、…豪傑のラッシュだ、獅子王ラッシュだ…うひひ……ラッシュ、そう、俺は何を隠そうラッシュ……うひひ、うひっひっひ」
俺はベッドの上で体育座りをしながら、ボソリボソリとラッシュの名前をしばらく呟き続けた。
== 豪傑にして獅子王…うひひ ==
ベッドの上で自分自身に暗示をかけ、精神のさらなる安定を図ること約一時間。
大分、精神的に落ち着いてきた頃。
俺はふと顔を上げ、PCがある方へと視線を向けた。
そして、ベッドからそちらへ、恐る恐るといった様子で移動する。
「…誰が片付けたんだろ」
VTuber活動がバレないよう機材周りを隠すために用いっている、ブルーシートの様なカバーを外し、綺麗に掃除されたデスク周りを見て、俺はボソリと疑問を呟いた。
悪夢を見る前のおぼろげな記憶。
その中で俺はラッシュとして配信し、無様の限りを尽くしていた。
喜色の悪いこの声を晒し、多くの娘達やペロラーの前で、PCを守りながら嘔吐していた。
しかし、何事もなかったかのようにデスク周りは綺麗になっており、ご丁寧にカバーまでされていた。
あれは悪夢の前の前哨戦(夢)だったのではなかろうか、と馬鹿な思考が過る程度には掃除されて元通りだ。
吐しゃ物の染みは愚か、その僅かな匂いすら香ってこない。
完璧な掃除だ。
掃除の神様が居たらきっとこんな感じに綺麗にしてくれるだろうと言えるぐらい、完璧だ。
自身の部屋も碌に片付けられないションベン小僧や、何でもかんでも仕事を増やすドジっ子メイド零さんでは、ここまで綺麗に掃除はできない。
何かしらの痕跡を残し、「掃除頑張った」なんてドヤ顔をし、職務怠慢を働くのがその二人だ。
塵一つ残さず綺麗に、且つ丁寧に掃除を出来る人なんて、今この家中には一人だけ。というか消去法で一人。
霞さんだ。
恐らく絶対、霞さんが吐しゃ物まみれになったデスク周りを片付けたのだ。
名探偵ミハルの推理に間違いはない。
「……うぅ、もうしわけねっ」
俺は苦い顔を浮かべ、感謝する様に、綺麗になったデスク君に頭を下げてそういった。
いつも霞さんには榊家の生活の面倒を見てもらっている。
とても忙しくしているその最中、汚くて不快なものを掃除させてしまったことが実に申し訳ない。
今度、というか今日にでもお礼に何かをプレゼントするべきだろう。
いつもお世話してくれてありがとう、とか言って何か上げよう。
うん、それがいい。
プレゼントは何が良いだろうか?。
どんなものを貰って霞さんは喜ぶだろうか?。
出来ればいいものを用意したいけど、今の俺は無一文に等しい。
それに今日中に渡すということで、碌なものは用意できない。
何か…何かないか、すぐ用意できて霞さんが喜ぶもの…なにか……ッあ!思いついた!。
俺はその昔、母にプレゼントしたものを思い出す。
母が絶賛し、とても喜んでくれた物のことを。
「うひひッ…霞さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ…うひ。うひひひ」
時刻は早朝ともいえる時間。
眠気はあると言えばある。
しかし、寝る気分ではない。
ので、俺はプレゼントの作成にさっそく取り掛かった。
まずはプレゼントの外装、ごみ袋を用意。
それからプレゼントの中身となるティッシュを沢山用意。
あとは単純な作業。
ゴミ袋に用意した大量のティッシュを詰め込み、袋の持ち手となるところを固く結んで完成。
作成時間たったの30分。
お金も時間もかけず、最高のプレゼントを用意できた。
流石俺、天才である。
「安、眠、枕~~♪(小声)」
俺はできたものを天に掲げ、プレゼントの名前を口にした。
「ちゅん、ちゅん、ちゅんッ」
「ちゅうッちゅぅッ!」
窓際にやってきた小鳥に朝の挨拶を深夜テンションでした後、物音がし始めた一階へ、俺はプレゼントをもって向かう。
いや、その前に、変わってしまった瞳の色を隠すために仮面をしていこう。
母からもらった大事なキツネの仮面をつけ、俺は再び一階にいるであろう霞さんのもとへと向かう。
「美春様、お早う御座います。今日も良き天気、出歩かれるのでしたら熱に注意なさいませ」
キッチンで朝食の用意をしながら挨拶をする霞さん。
俺は「ちゅぅッちゅぅッ」と挨拶を返し、彼女の元へ駆け寄り、右手に持ったプレゼントを突き出し、渡す。
「え、あ、このゴミは一体………美春様?」
ゴミといわれた。
気のせいかな?。
そんなわけないよね?。
母も絶賛してくれた安眠枕。
俺お手製の真心籠ったプレゼント。
それが、ごみなわけないよね?ね?。
「み、美春様、どうかなさいましたか?」
肩を落とす俺に、珍しく動揺する霞さん。
どうやら未だに渡されたものが何か分からないらしい。
俺は口を尖らせながらも、ぶっきらぼうに「ぷ、ぷれぜんと」と、やや吃音を発症させつつ、聞こえるか聞こえないかの声量でそう口にした。
「ぷぷれぜん、と……ッ!??」
どうやらちゃんと俺の声を耳に拾ったらしい。
先程以上に狼狽する霞さんは「ま、まさかッ!?」、といって右手に持った
「ぷれぜ、ぜんと……ご、み?」
「滅相もございませぬッ、あ、あ有難き幸せッ!これ程のお品をいただけるとはッ、この霞、感無量に御座いまする!」
どけ坐する様に霞さんはその場にしゃがみ、ものすごい勢いで頭を下げた。
「…うれし?」
「っは、美春様からの贈品、当然に御座いまする」
「ほ、ほんと?」
「嘘偽りなく、真たる言に御座いまする。虚言であったなら、腹を切りましょう」
「じゃ、じゃぁ、いうこと一つ、きき、聞いて?」
「っは、何なりとお申し付けくださいませ」
「……皆に、VTuberやってること、な、内緒にして、くれる?」
吐しゃ物がまき散らされたデスク周りを掃除した。
それはつまり、配信画面も機材も何もかも見られたということ。
Wi tubeのlive配信は自動的には切れない。
配信主が止めない限り続く。
しかし、先ほど見たPCは電源が落ちていた。
つまりはそういうことだ。
霞さんには、俺がVTuberの豪傑のラッシュだということがバレてしまっている。
恐らく俺が一言いえば、霞さんは「招致」とか言って黙っててくれるだろう。
しかし、それではなんだか安心できない。
だから、感謝するついでにこうしてプレゼントを持ってきた。
ゴミと間違えられたけど、これで霞さんも進んで秘密を守ってくれるに違いない。
うん、きっと、多分、そうだ。
策士ここに極まれりッてやつだ。
「美春様の秘密事、無論に御座いまする」
「まだ、だ、誰にも話し、してない?」
「当然」
「よよ、よかったぁ」
「美春様、不安とあらば、誓いを立てましょう」
「ち、誓い?」
「左様、白帆様の僕たる霞は、その子息で在らされる美春様の秘め事を、今後一切晒さぬと、ここに誓いまする」
左胸あたりに両手を重ね、祈るように霞さんはいう。
なんだか呆気にとられるほど絵になる振る舞いというか姿である。
これも美人がなせる業というものだろうか?。
彼女に惚れるションベン小僧の気持ちもわかるというものだ。
「御安心なさいませ。霞は貴方様を裏切る行いは、これまでも、そしてこれからも決してありはしませぬ」
「………そう?」
「はい」
俺は仮面の下で「ほんとかなぁ」なんて疑いの視線を送りつつ、とりあえず彼女を信じることにした。
「朝食までにはまだ時間がかかりまする、準備が整い次第御呼び致しますので、お部屋でお待ちくださいませ」
「うぃっ」
プレゼントに喜び震える霞さんも見れたし、釘もさせた。
俺は意気揚々と言った感じで返事を返し、自室へとトタタタッと駆けた。
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